『小火』
「んー、我ながら少し迂闊だったね。今倒した四人の中に不死以外の能力者がいたかもしれないというのに、怒りにまかせて昏倒させてしまったよ。反射されたら自分が倒れていたというのにねぇ」
『こんな、バカな』
「……さて、早速だが警備室を見つける必要がありそうだねぇ。そう思わないかい、セナ君?」
「うぇ? え、僕?」
「そう、君だとも!」
突然話を振られた不意打ちにしどろもどろになってしまう。
だが、すでにわかっているような顔の教授が居るのだから、多少は建設的な意見を述べておいた方がいい。
全部教授班がやってくれました、ではジャンヌの面目は丸潰れだ。
「……放送してる女は、さっきから着火だのと発言している。あれは、戦闘中のメンバーの中に爆発能力者が居る場合か……自分がその能力者の時じゃないと出てこない言葉だね」
「素晴らしい、聡明だ!」
「ついでにいうと、僕たちの戦況と放送の内容は合致してた。つまりあの女は僕たちを見ているってことだ」
「君もまた天才の一人だったとは!」
「あの爆弾は大量に作られてるんだろうけど、それを起爆出来るのは一人しか居ない。とすればそいつを叩くべきだし、それをするのは僕たちの役目だね」
「ほう、それは僕たちの役目! それはなぜだい?」
「なぜってそれは……」
ここに至って、セナは理解してしまった。
教授が何を言わせたがっているのかを。
チラと視線をやれば、サトリも微妙な顔をしている。
仕方なしに、ため息混じりに続きを言った。
「……それは、爆弾に対して無敵の教授がこちら側にいるからだね」
「イグザクトリー! エクセレント! 科学会に爛々と輝くこの私の偉大さがまた一つ明らかになったな! というわけで、さあいざ行かん警備室へ!」
敵の備えを真正面から無効化したことで、多少溜飲が下りたのだろう。
やっと笑顔が戻ってきた教授が、メンバー全員に笑顔を向ける。
「どうだい野薔薇くん、具合の方は」
「……まあ、おかげさまで結構休めましたよ。セナさんが医療道具で簡単な処置をしてくれましたし。まだヒリヒリ痛いけど、これくらいなら集中力も持ちます」
「それは良かった! 私としてもほっとしているよ! この程度ならなんとか全員無事で戦いが終わるだろう!」
最強能力者同士の戦いで、誰も欠けずの勝利などそうはない。
だというのに、本当に叶ってしまいそうな安心感。
「それは聞き捨てなりませんね」
二階から、声が聞こえた。
見上げれば、二人のプレイヤーを背後に据えて、真っ黒の女がこちらを見下ろしている。
スーツの下のワイシャツまで真っ黒のせいか、喪服よりも漆黒だ。
「おやおやおや、てっきり放送していたのがリーダーかと思ったんだがね?」
「さあ、どうでしょう。答える必要はありません」
教授は腰に手を当て、右手を挙げる。
ズレ落ちた指の先から人差し指が露わになり、それが敵に突きつけられた。
「残念だが、私も欲目が出てきてね。この戦力で倒せそうとわかったことだし、遠慮なくやらせてもら──」
パチン、と、黒い女が指を鳴らした。
とたんに、教授が倒れた。
(……は?)
ドサリと、なんの脈絡もなく、なんの兆候もなく。
同時に、教授が取り押さえていた四人のプレイヤーが自由を取り戻す。
「──ドレッド、使えぇ!」
「無礼苦ゥ!」
咄嗟に叫んだサトリに反応し、ドレッドの無効化が敵の女へ向けられる。
直後に二度目の指鳴らしが行われたが、こちらに変化はない。
「教授は、死んだか!?」
「教授さん!? ねえ、まって、教授さん!」
セナの声に反応するように、野薔薇が教授を抱き起こす。
彼女の視線は虚ろで、目の焦点は合っていない。
呼吸も浅く、早く、平常でないことは明らかだ。
だが、生きている。
「能力無効化が居ましたか、厄介ですね。とはいえ……なにをしているのですか、早く爆弾の投擲を」
「了解しました」
そんな声とともに、上階からまき散らされる紙吹雪──
「総員、通路を下がれー!」
セナの叫びに呼応して、メンバーは一斉に来た道を戻る。
教授は野薔薇が風で運び、通路まで後退。
全員が走るその最後尾で、セナは握りしめていた瓶にライターを近づけた。
瓶の口には布が詰められており、そこに火をつけてから思い切り投擲。
通路へ追いかけてきた不死の足下で瓶は割れ──飛び散った燃料に布の火種が引火し、あっという間に火の海を作る。
セナが用意していた品の名はモロトフカクテル……平たく言えば火炎瓶だ。
「うわ、炎が!」
「ば、爆弾を持って通れるのこれ!?」
『バカ野郎ども! 引火はしねぇ、爆発はオレの意思だ!』
敵も味方も混乱の渦中にあり、セナが道具で火を起こした事実はバレていない。
「この通路は隘路になってる! 頭を出してくるバカは吹っ飛ばしていい!」
「あ、あいろ? あいろってどういう意味ですかセナさん!」
「狭くて迎撃しやすい道ってことだよ! この通路は野薔薇の独壇場のはずだ!」
「ううぐ、わかりましたよ! 教授さんを頼みましたからね!?」
「よし、ドレッドは教授を復活させてくれ!」
「すぐ済ませる! 爆弾投げ込まれたら対処頼んだぞォ!?」
「そこは野薔薇頼み……そらきた!」
炎の壁を突っ切ってくるプレイヤーこそ居ないが、雑貨が次々と投げ込まれる。
重さ重視のつもりだろうか、どこから持ってきたのやらボーリング玉まで転がってくる始末だ。
「もう、十分休んだんですよ!」
通路に突風を流し込むだけで良くなったことで、大気操作の防御力は向上していた。
投擲物はことごとく風圧に飛ばされ、メインストリートへ押し戻されていく。
『回り込め、外だ! 取り囲んで消耗戦にしてしまえ!』
響く館内放送に、緊張感が嫌でも高まる。
とはいえ、こんな時のための予備戦力だ。
屋外を回ってくる敵だけなら、アルモアダが対処してくれるだろう。
ひとまずの危機は脱したと言えた。
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