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完全無欠に無敵の能力



『ぬかせ! そこのガキを殺せー!』



 笑顔を失ったトリックスターに、爆弾雑貨の雨が降り注いだ。



「イッデ~オ!」



 教授が飛んでくる小物を順に指し示す。

 するとどうだろう、投げられたままに放物線を描くはずだった多数の雑貨が空中でピタリと静止した。



「え?」



 それを投げた四人があっけにとられている間に、小物は教授と彼らの間で自然落下を開始する。



「な、なんでだ!?」


「うわー! 爆発させないでくださいー!」


『させねぇよ! くそ、なんだあの能力!』


「さあ、そんなものかい? その程度じゃあこの首は取れないぞ!」



 教授が一歩、前に出る。

 体は小さくとも、怒りの形相と相まって恐ろしい圧だ。



『くそ、放射器を出せ!』


「は、はい!」



 一人が店舗の奥へ駆けていく。

 その間も投擲は続くが、そのほとんどは教授に止められていく。

 だが例外はあるようで、僅かに数個が彼女の能力から逃れ、最接近を果たした。



『着火ァ!』



 再びの爆発。

 その衝撃と爆風がセナの短髪を巻き上げる。


 そして煙の中からは、白衣を少し焦がしただけの教授がもう一歩、歩みを進めた。



『意味わかんねぇぞあのイデオ!』



 敵は混乱の真っ只中だ。

 攻撃が一切通用しないなら、どうあがいても倒すことなどできない。


 背後で戦闘を見ていたセナは、敵側よりも冷静に教授を観察できていた。



(さっきからずっと、教授は左手を腰に当てている)



 イデオの発動条件は不明だが、右手の指さしが一部のトリガーになっていそうには見える。

 だというのに、彼女は片手しか使っていない。



(『投擲物が空中で静止する』というのも、『爆発を受けても無傷』というのも、ヒントにできそうだ。本来はどちらも共存できない能力のはず)



 教授は、()()()()()()()()()()

 何か、裏道のような……普通の人間が思いつかない超常を用いて、これまでの全てを引き起こしているはずなのだ。



(教授がやったこと……。ビルからの落下と着地。投石の無力化。プレイヤーの無力化。極めつけが『斥力』が通用しなかったことだろう。これらが全て行える、ただ一つの能力があるはずだ)



 そんなものがあるのか?

 なんて考えない。

 あるはずだ、教授が証明している。



「──むっ、それは何かな?」



 見れば、不死側が店舗の奥から仰々しい道具を持ち出してきていた。



『投げろ投げろ、奴に攻撃のチャンスを与えるな!』


「ふん、確かに。爆弾が私の背後へ飛ばないよう、防戦一方になっているのは否定しないさ」


『その隙に……やれ!』


「りょ、了解!」



 不死が背負ったそれは、改造されたガスボンベ。

 背負えるように紐がつけられ、弁の先にエアーノズルが取り付けられている。

 不死の男は火のついたライターを弁の先に持っていき、ノズルの引き金を引いた。



『焼け死ね!』



 セナが能力を誤魔化すときに見せた『小火』とは比べるまでもない。

 明確な殺人目的としての火炎放射器が恐るべき勢いで幼女を豪炎で包み込んだ。

 ついでとばかりに、教授がたたき落とした小物も爆発していく。

 その衝撃と熱波に、焼き切れた白衣の切れ端が宙を舞う。



『うははははは! お前は仲間を立てたりせず、最初から自分が前に出りゃ良かったんだ! それならまだ隙もあっただろうによぉ!』



 ノイズ混じりの歓喜の声。

 たっぷり二十秒ちかい火炎放射が終了し──



「で、今、何かしたのかね?」



 やはり無傷の少女が仁王立ちしていた。

 被害は白衣が焦げたことのみ。



『……』


「そう、そうやって全てを無駄と理解すれば話が早かったんだ。イデオ」


「ぐあっ……」

「……く、そ」



 爆弾の延焼を恐れたのか、投擲の手が止まったのが幸いした。

 隙を見つけた教授は、すかさず不死者へ指さして能力を使っていく。

 バタバタと、防衛部隊の四名は倒れ臥し──脅威は全て沈黙した。



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