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真打ち



『敵襲! 敵襲ー! 南西ゲートのバリケードが破られた! 至急応戦しろ!』



 館内放送が大音量で鳴り響く。

 これで間違いなく、敵戦力は南西へと集まるはずだ。



「ふっふっふ。野薔薇くん、いつでも私に交代していいのだよ?」


「何を言ってるんですか教授さん。私の攻撃力はメンバーの中でも最強ですよ? これほどうってつけな人材は他に居ないでしょう!」


「……まあ、君がそう言うなら任せるさ! 『大気操作』一本でいけるならそれが一番だしねぇ!」



 モールの入り口からしばらくは通路が続いている。

 通路の奥にはメインストリートが見えており、敵が布陣するとしたら間違いなくそこだ。



「とりあえず、全員対ショック体勢だ! 野薔薇くんも作戦通りに頼むよ?」


「はい! まずは敵の出方を見るために、逃げ道を確保しながら防御中心ですね!」


「はーっはっはっはっは! 全部言っちゃってるよこの子! はっはっはっは!」



 愉快だけど愉快じゃないやりとりだ。

 だが、そんなものは風の向こうに置いていかれ、あっという間にメインストリートへ飛び出した。



「構えー!」

 


 同時にストリートに響く、プレイヤーの号令。

 周囲に四名のプレイヤーが並び、全員が投手のように腕を振りかぶっている。



「放てー!」



 投げつけられるのは雑多な品だ。

 赤々としたリンゴに、ハードカバーの小説本。

 大きいものだとガラス製のジョッキまである。



「あはは! 大層な号令までかけといて、その程度しか武器がないんですか!?」



 野薔薇が人差し指を指揮者めいて振る。

 すると風の滞留が壁のように働き、投擲物の軌道がぐにゃりと変わる。

 全ての雑品は敵の側へと追いやられ、転がっていった。



「くそ! 投げろ、どんどん投げろー!」



 不死者側四名の背後には大きな籠が置いてあり、その中の品々を矢継ぎ早に投げ込んでくる。

 そのどれもが現実でも見慣れた、雑貨と呼べるラインナップだ。



(あんなもので人間は殺せない。つまり、何かあるな)



 敵にはできるだけ手の内を空かしたくない、ということで、ドレッドの能力使用は基本的に禁止だ。

 こちら側に能力無効化持ちが居ると知られたら、不死能力者どもが尻尾を巻いて逃げ出しかねない。

 あくまでとどめを刺すときと、即死級の攻撃を止めるとき。

 この二つのパターン以外ではなるだけ使用しない。

 そういう方針があるためか、何も出来ずに歯噛みするドレッドとは対照的に、野薔薇は張り切ってイデオを使用していく。



「あはははは! いやー、これ楽勝なんじゃないですか教授さん!」


「あっはっはっは! 油断は禁物だよ野薔薇くん。特にほら、上も見ないと」


「上……?」



 教授の一言で、野薔薇含む全員が頭上に意識を向ける。

 いつかの再現のように、吹き抜け廊下を落下してくる人間が、二人。



「おおっと、危ないですねぇもう!」



 正面の風のバリアを維持しながら、野薔薇は空いていた左手で頭上を指さす。

 すると、落下中だったプレイヤー二人が風圧で押し上げられ、落下は完全に止まった。



「ああ、くそ、なんだこの風!」


「惜しかったですねー。気づくのがあと数秒遅かったら、私をぺしゃんこに出来たんでしょうけど」


「野薔薇くーん、気づいたの私だよー私。それ以上イキったら逆に恥だぞー?」


「いいじゃないですかー、カッコつけさせてくださいよー!」



 まるで日常の延長線上のような会話をしながら、怒濤の連鎖攻撃に対応する二人。

 なるほど、実力は間違いない。

 こんな程度ではピンチにはならないということだろうか。


 だが、



「気をつけろ、何かするぞ!」



 サトリが曖昧に叫ぶ。

 言葉に反応してか、飛び降りてきた不死二名はニヤリと口を歪め……。


 そして次の瞬間──二人の不死者が大爆発を引き起こした。




『はっはっはー! たーまやー!』



 爆炎と炸裂音が五感の二つを潰す中、館内放送から気前の良い歓声が上がる。


 

『あの至近距離じゃあノーダメージとはいかねえだろ!』



 館内放送の主の声には喜悦が混じり、周囲の不死者は安堵のため息を漏らす。

 店舗のガラスは衝撃でひび割れ、吹き抜けの上からもガラス片が落ちてきていた。



「はーっはっはっはっは! いやはや、相当な衝撃だったねぇ!」


『アン?』


「流石の私でも、いきなり全部を対処することはできなかったよ。確かに少しばかり、油断があったようだ!」



 煙の中から、快活な声が響きわたる。

 野薔薇の左手は一部が火傷で真っ赤になり、浮かぶ表情も苦しげだ。

 能力も解除され、侵入者は全員がモールの床を踏みしめていた。

 他の面々も吹き飛んだ瓦礫が当たったり、軽度の火傷を負ったりしている。


 そしてその最前で、野薔薇を抱き留めている教授ただ一人だけ、完全な無傷だった。



「いやはや済まないね協力者諸君。だが安心してほしい。ここからは私の仕事だ」


「うぅ……教授さん……」


「野薔薇くん、調子に乗りすぎだ。ひとまず私以外を風で守っておいてくれ。参戦は痛みが引いたらで構わないからね?」



 笑顔でそう述べた教授は、野薔薇をサトリへ任せて敵へと向き直る。

 そこにヘラついた笑みはなく、眉根は怒りで吊り上がっていた。



『おい怯むな、隙だらけだろ! さっさと投げろ!』


「っ、りょ、了解! 投擲開始ー!」



 呆気にとられていた不死者たちも正気を取り戻し、攻撃が再開される。

 飛んでくる皿、メモ帳、買い物籠──それらが教授の眼前に到達すると、同時に爆発──



「襲撃したのはこちら側だし、君たちにとって理不尽なのは理解しているよ? だがね」



──爆発は一瞬で掻き消えた



『──は?』


「私はね、迂闊で空気が読めない、可愛らしい友人を傷つけられて少し苛ついているのだよ」



 爆発を消し去った小さなトッププレイヤーは、左手を腰に当てながら右手を敵に向け指し示す。

 もちろん、長い袖のせいで指先は見えないのだが。



「よろしい、不死の爆弾魔どもよ、かかってくるといい。真に完璧で最強の能力がどういうものか、君たちに見せてあげよう!」



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