口火を切る暴風
レインボーモール屋外駐車場を、五つの影が進んでいく。
早朝特有のシンとした無音と朝靄、そして若干の冷気。
「んっん~、静かだねぇ」
「今日の教授もびっくりするくらい静かですよね!」
「おいおいおい野薔薇くん、いくら私がこのVRゲーム世界で燦然と輝く一番星とはいえ、流石に襲撃の時くらいは威光を静めるとも!」
「もっとこらえ性のないナルシストかと思ってました!」
「はぁーっはっはっはっは! 誰か助けてくれ!」
「うるせぇんだよなァ、いつものことだけどよォ」
正面攻撃班である『教授』と『野薔薇』の微笑ましいやりとりに、『ドレッド』が辟易している。
その少し後ろを、『セナ』と『サトリ』はついて行っていた。
(本当に五月蠅いな、あの二人)
「同感だ」
(本当は声なんて一つも出さない方がいいだろ)
「まったくだ」
(そもそも、駐車場にもカメラが設置されてるかもしれないのに、警戒しなさ過ぎだろ)
「間違いない」
(……適当な相づちだな、サトリ)
「悪いか?」
(なにか有益なことをしゃべってもいいんだぞ。教授の能力の正体とか)
「私は二度同じ事を言うのが嫌いだ」
(ああそうかい)
見える範囲のシャッターは全て閉じている。
特に正面入り口には、ベッドやらタンスといった家具で作られた簡易バリケードまである始末。
レインボーモールに突入するにしても、それなりの破壊力が求められているのは間違いない。
(──ところで、サトリ)
「なんだ」
(後詰めを任されてる奴、あれは何だ?)
セナとサトリのさらに背後、モールから最も近い位置にあるビルの一室には、それまでに見たことのないプレイヤーが陣取っている。
赤と白の縦縞ストライプの寝間着の上下を身につけた少年で、額にはアイマスクがついていた。
薄い目は常に眠そうに見え、教授に紹介された時は一度も口を開いていない。
「彼はプレイヤーNo.19『アルモアダ』、能力は『対象を眠らせる』というものだ。ちなみにアルモアダとはスペイン語で枕という意味で──」
(そんなことが聞きたいんじゃない。というか、基本情報は教授が作戦会議で語っていたそのままじゃないか)
「なら何が知りたいんだ」
(教授との関係性、彼の心情や本音、本当に眠らせる能力なのかどうか……。知りたいことは山ほどあるぞ)
「そうか。残念ながら教えてやる義理も理由もない」
(この……!)
「だがそうだな。教授は、彼に関して嘘を言っていない。それは保証しよう。これでどうだ?」
(……)
そもそも、サトリをどこまで信用できるかというと、はっきり言って毛ほども信用できない。
とはいえ、ここは戦場だ。
誤情報の一つで戦線は簡単に崩壊する。
その程度のことがわからない奴が、頭脳派を気取らないだろう。
「安心しろ、あの夢見心地ボーイの役割は撤退時の後方支援だ。敵の無力化は教授にも、あの野薔薇とかいう空気の読めない娘にもできるだろう。これからの作戦を考えても、外を回り込んでくる敵の対策は置いておくべきだ」
(そこについては納得してるよ、理にかなってる)
「私の言葉が信じられないか? いくらなんでも、戦闘行動中に味方チームに不利益なことはしないぞ。私だって脱落したくはない」
(……なら、共に行動する味方の能力は教えるのが筋じゃないか?)
「本当に必要になったらな」
結局、何の確約にもなっていないノイズまみれの言葉だ。
だが、確かにサトリとの確執は一度忘れなければならない。
(こんなところで脱落してる場合じゃないもんな)
そうこうしているうちに所定のポイントへと到着した。
南西入り口のド真ん前に、ずらりと五人が並び立つ。
「それでは最終確認タイムといこうか!」
「はーい!」
「そうしとけェ」
「……」
「敵に『能力反射』などのカウンター能力者が紛れている可能性はある。だから最初は敵の出方を伺う方針だ。基本的には汎用性が高く、反射されても対処が簡単な『大気操作』で防御と攻撃を行う。そちらの二人、特にサトリくんの『圧縮』はこちらからの指示があるまで使用を控えてくれ!」
「なるほど、了解した」
「ドレッド君も基本的には待機だ。緊急時だと誰かが判断した場合に声をかけるから、そうしたら思い切りやってくれたまえ!」
「まぁ、自分でも多少判断はできるってのォ」
「私達のチームの役割を全うし、安全を確保したまま集団行動だ。もちろん細かい部分での判断は各自に任せるけれど、何より大事なのは『不死』以外の能力者を安全に無力化すること。それを忘れず謙虚に、余力を残したまま立ち回ろう!」
「うん、わかっているよ」
「よーし、では行こうじゃないか。諸君、安心してくれてかまわないよ! なんといっても、この場にはこの私が居る! 大船に乗ったつもりで背後に控えていたまえ! ……あ、野薔薇くん。入り口壊すのよろしく」
「いや、一言の中で株を下げるなよ自称天才がよォ」
ドレッドの突っ込みなど聞こえないとばかりに、最前に立つ二人は黙殺。
いつものことなのだろう。
「よーし、じゃあ、派手に行きますよー!」
野薔薇のイデオである『大気操作』が起動する。
駐車場のあちこちで風が渦巻き、木の葉を巻き上げながら複数の竜巻が生まれた。
それらは数台の電気自動車を浮かせ、重力を無視した砲丸に変える。
「野薔薇ちゃん特製鋼鉄砲、発射ー!」
大気の爆ぜる轟音と共に、六台分の鉄塊が突き刺さる。
最初に打ち込まれた一台を、押し込むように二台目・三台目……。
簡易バリケードは軽く吹き飛び、シャッターの背後でガラスの落ちる甲高い音がまるで雨音のようだ。
六台目が叩き込まれたことで、ついに破られたシャッターから、不死狩りは堂々と入場する。
全員が野薔薇の能力で宙に浮き、ただ者ではないことを敵に示していた。
「──さあ、パーティーを始めようか!」
「それ、私の台詞ですよね?」
しゃしゃり出て放たれた教授の決め台詞も見事に砕けてざまあない。
セナは背負っている鞄から色付き瓶を一本取り出すと、進路を切り開く二人を凝視する。
(さて、敵と……教授班のお手並み拝見といくか)
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