夜明けと共に
判明した盤面は、規模がデカいもののシンプルだ。
現在の情勢として勢力は三つ、『不死狩り』と『不死チーム』と『ミスラチーム』になる。
不死狩りが20名。
不死は数が不明。
ミスラチームは生存者としてみれば1名だけだが、戦力としては7名だ。
「さて、廃ビルになるかショッピングモールになるかはわからないが、そのあたりで戦争が起こるのは間違いない」
「うん」
「じゃあルリ、明日だが、俺たちはどう動くべきだと思う?」
「……うーん」
それまで抱えていたのだろうホットココアのマグカップを置き、唸り声を上げ始める。
考える力は少しずつだが養われているはずだ。
「……死体は、私たちがなんとかするんだよね?」
「ああ、まあ。そこは俺たちがやらなきゃだな」
「でも、人数がすごいよ。不死狩り20人のうち、16人も集まるんだもん。まず勝つと思う」
「そうだな、俺もそう思う。ならどうするべきだ?」
「……不死狩りにも、少しは減ってもらいたい、かな」
「なるほど」
戦争とは大軍同士の激突の総称だが、力に差が有れば実際に起こるのは虐殺だ。
特に教授班は強力な能力者が揃っており、負けるヴィジョンはとても見えない。
「つまり?」
「……戦争の途中で、不死狩りに不意打ち?」
「良い線行ってるぞ、ルリ。だが、間違っても全滅させちゃダメだ」
「うん。不死狩りに、ミスラチームと戦ってもらわなくちゃ、だもんね」
「百点満点だな」
スケアクロウの大きな手が、ルリの頭を撫でる。
最初は驚いていたルリだが、気恥ずかしそうに俯きつつも受け入れていた。
「方針はそれでいこう。俺たちは、有利な方の数を少しだけ減らす。良い勝負にしつつ、最後には不死狩りに勝ってもらう」
「うんっ」
「だからといって、戦争にそのまま潜り込むのは危険だ。特にルリは透明なだけだからな。巻き込まれたら一瞬で脱落だ」
そう言うと、何を想像したのかルリの顔が青くなっていった。
「どうした、嫌な死に方でもあるのか?」
「……あんこ」
「はははははっ! やっぱり嫌だよなぁ!」
「笑い事じゃ、ないでしょ!」
「あー、悪い悪い。だがまあ、安心しろ。ルリが危険にならないように脱落させる策を少し考えてある」
「本当!?」
一転して目を輝かせる相棒に、なんと言えばいいのやら。
絵面は殺人と大差ないはずなのだが、ゲームがリアルになりすぎた弊害の一つだろうか。
「まあな。ルリが偵察してくれたおかげだ。明日はずっと、俺と通信できる範囲から出ないこと。もしもの時は声をかける」
「はいっ」
「いい返事だ。んで、その策だけどな……」
~~~~~~~~~~
深い闇夜がプレイヤーの顔を覆い、巡らせた策を沈ませていた。
一匹狼たちは身を隠し、組んでいる者たちは堂々と暗躍する。
夜の都市部でも鳴り止まない破壊音、漏れ聞こえる警報。
不安で満たされた時間だが、それも直に終わりを迎えた。
工場地帯から昇った朝日が、醜い争いの痕跡を白日の下に晒す。
北の大型ショッピングモールの前では合計10名のプレイヤーが集い、一つの廃墟を捜索していた。
セナの背後で教授とノウンが話している。
「やはり何もないみたいだねぇ」
「申し訳ありません。予知の不備だったのか、なんなのか……」
「はーっはっはっは! 少しの誤差くらいかまわないよ。だって、今はもうわかっているんだから。そうだろう?」
頭を下げるノウンを、しかし教授は笑って許した。
念のための予備調査だったが、廃墟がもぬけの殻だったという事実だけでも収穫だ。
「はい。今度は間違いないです。不死の奴らは、あそこにいます」
ノウンの視線に釣られるように、全員が廃墟の窓からそこを見る。
七色に輝くショッピングモールが、まるで巨大な要塞のようにも見えた。
「……というわけだ諸君。これより我々、教授班とジャンヌ班の連合軍は、不死狩りの本懐を果たすために目の前の城を落とす」
白衣の少女は堂々と、無い胸を張り、漲る自信を振りまいて指さす。
「予知の前情報によれば、内部に潜む不死はおよそ10名。さらに不死以外のプレイヤーが2名! 人数はほぼ互角だ。一切の油断をせず、誰一人欠けることなく討ち滅ぼすぞ!」
教授の檄に応える声はない。
ただ同じ方向を見て、頷き、引き締め、居住まいを正す。
その所作だけで十分だ。
「目標、敵の壊滅。全員、予定通りに行動開始!」
事前に話し合っていたとおりに、混合班は複数に分かれて進んでいく。
その中で、セナもまた決断が近づいているのを感じていた。
(混戦だ、間違いなく両陣営から脱落者が出る)
どれだけ大規模の戦争であろうと、最終的に目指すのは最後の一人だ。
(何を切り捨て、何を得るのか。僕の洗脳を、誰に向けるべきなのか)
少し背後から付いてくる、サトリという獅子身中の虫。
この戦場で奴の上を行かなければ、差は付けられるばかりだ。
(戦争は将棋の領分だ。必ず飛車を手に入れる)
恐らく今回のゲームにおいて、最大規模の人数同士が激突する。
保身をはかるばかりではいけない、必ずここでイニシアチブを取るのだ。
そんな熱意を感じ取っているのかいないのか。
決戦の火蓋が切られるのを、空を舞う燕が見下ろしていた。
──残り、68名
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