シークレット・トーク
フィールド西部に広がる高級住宅街の一角、三階建ての建物は一見すると全部屋消灯しているかに見える。
だが実際は、窓に段ボールを貼り付けて明かりが漏れないように細工されていた。
「……ふぅ~」
「はぁー……」
三階に集合したルリとスケアクロウは、互いの情報の交換がやっと終了し、二人して大きなため息をついている。
得た情報があまりにも多く、事態は混迷を極めていた。
「なんというか、お疲れさま」
「いえ、戒場さんこそ……」
「いやほんと、今回ばかりは普段の仕事の何倍も気を使ったよ」
集まった情報はパソコンに打ち込まれ、わかりやすい形で印刷が済んでいた。
ネット回線の類は使用できなかったが、プリンターなどが完備されているのは便利で良い。
「じゃあ、再確認だ。まず……不死狩りは全部で六班に分けられていた。教授班、ジャンヌ班、クック班、小町班、軍曹班、クロックマスター班の六つだ」
不死狩りという大枠に六つの部隊が記載されており、全メンバーの能力も参考程度に書き込まれていた。
もちろんこの情報が全てなはずもなく、何名かのプレイヤーは能力を偽装しているだろう。
「このうち、クロックマスター班とクック班はすでに壊滅。生き残りはクックのみで、これは小町班に合流している、と。間違いないな?」
「う、うん。小町班は大樹のあたりでプレイヤーを倒してたんだけど、その中にクックも居たよ」
日が暮れるまで続けた諜報の結果、不死狩りが大所帯故に見つけやすいという特性も相まって、六つの班の動向はおおよそ掴んでいた。
「脱落したクック班のメンバーは……『液体生成』のスプレッド、『距離操作』の真田、『絶対逃走』の兎か」
「よくわからない能力ばっかりだね」
「そうなんだよな。液体生成は、自己紹介でどんな液体でも生み出せるって言ってたからそれなりに危険なんだが……残る二つが想像できないんだ。そんな謎だらけの奴らが、今はミスラっていう能力者に従っている」
クック班から引かれた矢印は、ミスラチームへと伸びている。
「このミスラ、脱落者を復活させて部下にする能力者だ」
「……ずっこいよね」
「まあ、能力を考えたもん勝ちだな。絶対に終盤まで残しちゃいけない。しかも恐らく、存在を知っているのは俺たちだけだ」
ミスラの隣にはご丁寧に『最重要撃破対象』とまで書き込む徹底ぶり。
ルリには優先順位を意識して欲しいという想いもあるゆえだったりはする。
そんなリーダーのミスラを筆頭にして、現在の手下は六名。
「独特な呼び方をさせているみたいだが、わかりづらいからあだ名を付けるぞ。巨漢と、優男と、ギャルだ」
「安直……」
「こういうのはな、わかりやすいほうがいいんだよ」
この三名の能力は不明という記載だ。
だがスケアクロウはギャルの能力を多少でも経験している。
「このギャルってやつ、多分だけどこいつがミスラチームのキーだ」
「そうなの?」
「絶対逃走も名前からしてやばそうだが今は置いておいて……。このギャルは、周囲にいる無差別な相手に影響を及ぼす。結果、ミスラを追えなくなる」
「追えなく……?」
「なんて言えばいいんだろうな、言葉にはしにくいんだが……世界が歪むっていうのか? 幻覚みたいなものを見せる能力じゃないかと睨んでるよ」
「……戒場さんがかかったなら、透明の私も食らっちゃう能力、なんだね」
「多分な。気を付けろよ。んであとはー……教授班、ジャンヌ班、小町班の三つが夜襲をして、プレイヤーをそれぞれ一ずつ脱落させたってところだな。数の有利って奴は怖いよ本当」
実際にそれらを観測したのはスケアクロウだ。
夜目の効くフクロウがここまで便利だとは思わなかった。
教授班は恐らく予知で居場所を割り出してからの不意打ち。
ジャンヌ班も音を消してから壁を圧縮で削り取っての奇襲。
小町班は『液状化』の小町が侵入してから拘束し、ご丁寧に『ナッツ』が能力を無効化してから『大納言』が粒餡で窒息させて終了だ。
やっぱり『全身の穴という穴から粒餡が出てくる能力』はとても怖いと思う。
絵面が。
「っんじゃ、次はルリの報告な」
バトンタッチすると同時に、スケアクロウは我慢していたビールの缶を開封する。
プルタプを押し込んで、プシュッという清々しい開封音。
一日の疲れをとるルーティンまでを我慢はできなかった。
「うん。えっと、まず……教授班はジャンヌ班と合流して、明日の早朝に北の不死チームを攻めるみたい」
「確かか?」
「うん。小町班に伝令が来てて、救援要請だったみたいなの」
「てことは、三班合同の討伐作戦か。不味いな」
「……不味いの?」
ビールを一口流し込み、一息。
良く再現された喉ごしの良さだと感心する。
「今、生き残っている不死狩りが19名。これは間違いなく最大勢力だ。だが、この騒ぎをミスラチームに気取られると、戦争の脱落者を吸収してデカくなっちまう」
「……そっか」
「戦争が終わったら原形を留めてる死体を処分しなきゃならない。これは俺たちがやらないとな」
「……」
「ああいや、俺が一人でやってもいいんだけどさ」
「うー……」
一緒に死体をぐちゃぐちゃにしよう、なんて、年頃の少女に提案することではなかった。
特にこのリアル重視のゲームでは。
居たたまれなくなったスケアクロウ──いや、戒場捜査官は少しの後悔を顔に出しながら後ろ頭を掻いている。
「まあ、その話はあとだ。続けてくれ」
「うん……。あとは、クックがノウンと繋がってたってところ、かな」
図解では桃色の矢印で両者が結ばれていた。この部分はルリが作っている。
「クックか」
「うん。今はまた小町班に居るし、捕まえるのは難しい、かも」
「かもな。特にノウンと繋がってるってのがダメだ。俺たちの存在が知れたら教授班が警戒する。ノウンが脱落するまでクックが残ってりゃいいんだが」
「……あとはね、伝令の子が知らない子だったの」
「みたいだな。能力もわかってないんだろ?」
「うん。名前はね、幸って子」
『謎の伝令ちゃん!』と強調された表記。
どこから湧いて出たのかは二人にもわかっていない。
「小町班からは、なんかすごい歓迎されてたよ。一緒に行動するのなら、人数では一番多くなるね」
「一人増えて不死狩りは20名か」
「うん。これくらい……かな」
「オーケー、総括だな」
スケアクロウの一言を合図に、二人は集めた情報をまとめ始めた。
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