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プライド無き介入:side赤羽



 赤羽は休憩を申し出て喫煙室へと逃げてきていた。


 別に普段からモニタールームで吸っている。

 居たたまれなくなっただけだ。


 白煙を吐き出し、その滞留を見守る。

 空調設備に吸い寄せられたそれらは一瞬にして消え去り、あとには何も残らない。



(どうする)



 あくまで広報担当である赤羽は、これまでの99回では不干渉を貫いていた。

 意図的な調整をするのを好まなかったし、観客と同じ目線で楽しみたい。

 それが許されている唯一の部署が広報だ。


 だが、流石に事態がおかしい。

 内容を作るのが萌黄ならば、客を作るのが赤羽の仕事だ。

 悪い噂が一度流れれば、それが真実かどうかは関係なく客離れが起こる。

 客離れが起こるような展開とは、つまり()()()()()()()ということだ。



(俺のプライドの問題か)



 タバコを灰皿に潰して落とし、赤羽は喫煙室を出る。

 向かうのはモニタールーム、ではない。


 職員でもごく一部しか知らない、まさしく秘密の部屋。

 階段を下りきった先の施錠されたドアを、幹部用カードキーで開き、その部屋『キラールーム』へと入室した。


 キラールームには、まさしく現在ゲームに入っている小黒が、VRゲーム機を装着した状態で横になっている。

 近くにはモニタリングをしている上級職員が数名おり、キーボードの音が絶えない。



「あ、赤羽さん?」


「どうなさったんですか、こんなところに」


「ああぁ……いや、ちょおぉぉおおおっと使いパシリだ。小黒と通信したい、構わねえか?」


「……ですが、広報部門の赤羽さんがどのようなご用事で? 萌黄さんはどうされたのですか?」


「萌黄の奴なら疲れ切ってダウンだよ、だから俺が使いパシりなんだろうがぁぁあああ、察しろ!」



 いぶかしむ萌黄のチームを無視して、空席の通信用デバイスの前に座る。

 部署は違えど上司だ。

 職員たちは押し黙って作業を再開するしかなかった。



「……あ、あー。テステス。えーっと、普段どうやって通信してたっけなあいつ」



 萌黄と小黒の通信シーンは、公平性の観点から観客にも公開されている。

 キラーによる盛り上がりは毎回人気の公認ヤラセだ。

 もちろん、そのヤラセをプレイヤーが打ち破った時こそ評判が上がる。


 今回の話は聞かせるわけにはいかない。

 放映されないように放送設定を変えてから、ヘッドセットに話しかけた。



「あー、こちら赤羽。小黒、聞こえるか? どうぞー」


『……こちら小黒。聞こえています。どうぞ』


「忙しいところ悪いな。準備は順調か」


『……』


「あん? こたえ……ああそうか。どうぞー」



 少しばかり面倒くさい反応だが、これこそが小黒という女だ。

 目を覆うような嗜虐性こそあるが、それ以外の仕事面はロボットのように精密で頭が固い。



『はい、順調です。もしや映えが足りませんでしたか? どうぞ』


「あー……そうだな。その件で一つ話がある。もしもそこが襲撃された場合、その襲撃者の中に特定のプレイヤーが居たら、集中的に狙え。どうぞー」


『……キラーはあくまで災害です。だからこそ、キラー本人が脅威と思わない場合、狙う相手は公平になるように意識しています。それをご存じの上で仰っているのですか? どうぞ』


「わーってるよ。だが、映えの延長線上の問題だ。VIPの一部がプレイヤー間のヤラセを疑っている。だからこそ、それを払拭するためにこの三人のうち誰か一人でいい、脱落させてぇ。そういう話だ。どうぞー」


『誰か一人でいいのですね? どうぞ』


「構わねぇ。むしろ二人以上は俺もやりすぎだと思ってる。まあ、気が向いたらでもいい。元々俺はゲーム進行にはノータッチ主義だしな。だが気に留めておいてくれ。どうぞー」


『一考は致します。ですが決めるのは私です。これ以上申し上げることはありません。どうぞ』


「ああ、すまねえな。それで構わねえ。気張れよ。通信終了」


『──言われずとも、今回も地獄をお見せいたしましょう。通信終了』


「……」



 これが己の信念と矛盾していることは理解していた。

 三名のプレイヤーのデータの転送が終わるのを見届けてから、静かに、何も言わずに立ち上がりキラールームを出て行く。

 冷めた酔いを取り戻すために、直帰ではなく食堂に寄ることに決めながら、赤羽は階段を登っていった。



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