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夜の狩りの誘い



サトリ以外の視点では初めての発言ともなり、セナへと視線が集中する。



「私の意見に穴でもあったかな、セナ」


「そうじゃなくて……なんで不死を市中で暴れさせていたのかな」



 さきほどまでの、サトリをやりこもうとして粗を探していたのとは違う、純粋に降って湧いた疑問だ。



「どういうことだ?」


「……サトリの推測が全部正しい前提で話すよ。籠城しているのは不死チーム、能力無効化が居なくなる後半まで生き残る目的の連合で、効果の有る無しは置いといて食料まで消している。不死の優位性を保ちながら弱点を消すために」


「ああ」


「それなら、大樹でプレイヤー狩りをしていたのは明らかに作戦ミスじゃないかな? それを口実に使われて、不死狩りなんてものが生まれてしまっているんだから」


「それは……」



 サトリの舌が初めて止まる。

 殺しても死なない兵隊、ビル落下による人間爆撃、消滅でも破綻しない不死性。

 強烈なインパクトは教授というプレイヤーに大義名分を与えた。


 一方でセナも、うろついている不死を見つけ次第近くのプレイヤーと同盟を組み、能力に頼らない仲間を得ようと考えていた節はある。

 『不死者』というのはそれだけこのゲームに影響を与える存在なのだ。



「それだけ頭が働いてリーダーシップもある敵リーダーが、わざわざプレイヤーに『不死者』の実在を見せつけるかな。敵を結束させかねないリスクに思い至らないものかな」


「……それは、わからない。最序盤はまだ制御しきれず、独断専行をするメンバーが居ただけとも考えられる」


「それにしては、勝ちに緩んだ敵に対して投身して殺しにくるっていうムーブには計画性を感じる気もして……よくわからないんだよね」


「……」



 全員が黙り、静寂が訪れる。

 べつに議論を停滞させたかったわけではないのだが。



「ごめん気にしないで。今の相談も、全て相手視点での理想論みたいな展開だし。実行に移す段階でアクシンデントが起こったり離反者がでるのは当然だから」


「……ひとまず、その件は置いておこう。ここらが推測の限界だ」


(結局はサトリの案を補強しただけで終わりか……)



 悔しさはあるが、今はチームだし目立った悪態をつくわけにはいかない。

 ジャンヌの評価も多少は上がっただろうし、手がかりゼロの中で検討すべき意見が出たこと自体はプラスだ。



「──流石はサトリ様です。目の付け所に感服いたしました」



 そう前向きに捉えることにして、ジャンヌを操っての終戦を選択する。



「それほどでもない。ジャンヌが補強してくれたおかげで、説明する手間も省けた」


「教授斑にも連絡し、ひとまずはショッピングモールを捜索するという形で動くことにしましょう。みなさんもそれで構いませんか?」



 バチバチに言い合っていた二人の突然の態度軟化に、反応が遅れたのだろうか。

 ベートーヴェンは髭をいじりながら黙している。



「……ああ、構わないさ。俺にこんな考察じみた真似はできないからな。出来ない部分は任せて、出来ることをするだけだ」


「理解をありがとう、大鼠。セナもそれでいいか?」


「うん、いいよ。納得したし、ショッピングモールでの戦闘ならガスがある。僕の力も役立てそうだからね」



 猿芝居だろうがケアも忘れない。

 下手なミスで瓦解したら悔やんでも悔やみきれないというものだ。

 最後にベートーヴェンが口を開く。



「……私も構いません。ですが、一つ老婆心ながらよろしいでしょうか」


「なんだろうか、ベートーヴェン」


「いえ、お二方の議論や、セナ殿の気づきなどがあって口が挟めておりませんでした。食糧問題についてでございます」



 改まったベートーヴェンの視線は部屋の端の荷物へ。

 考えてみれば食料の備蓄というものは持ち運んでいない。

 かさばる荷物は現地調達が最も合理的だからだ。



「お二方がどうして話題に出さないのか不思議だったのですが、相手は籠城しており、我々は今晩の献立を満足に選択できない立場なのですよね」


「現状はそうなるな」


「ならばなぜ、クック班に連絡を取りこちらへ来てもらうという話が出て来ないのでしょうか」

「……」



 サトリがまず黙し、次にジャンヌが目を逸らした。



(しまったな。サトリの信用を下げることしか考えてなかった。普通は対応策を出すよな、そりゃ)



 目的がいちゃもんを付けることとはいえ、『ジャンヌ』は班全体の事を考えなければならない立場だ。

 意地が前に出て周囲が見えなくなっていたかもしれない。



(……いやでも、おかしいな。僕のはケアレスミス。だけど、サトリもクック班の話題を出さなかった。なぜだ?)



 話を主導していたのはサトリの側だ。

 ジャンヌ、いやさセナが噛みつきに来たのならば、その反論の一つとして使える。

 班員から伝令を出す判断をするのは班長の仕事なのだから。



「……言葉のとおりだな。敵の戦略分析ばかりに注意を払っていた。ジャンヌ、連絡を頼めるか?」


「少し難しいですね。このトランシーバーの電波の範囲だとクック班には届きません。ひとまず教授班に通達し判断を仰ぎます。教授班の位置からなら電波が届くかもしれませんから」


「なにか、申し訳ないですな」


「いえ、我々の至らぬ点を埋めてくださり助かります」



 結局、サトリの心中はわからずじまい。

 逆にあちらは今も心を覗いているのだろう。



(──いや、やっぱり変だ)



 相手は心を読む能力者。



(サトリはベートーヴェンの心も読んでいたはず。気付かなかったはずはない)



 クックの話を出さなかったのが意図的なのは間違いないが、その本心はわからない。

 それを語る口も持っていないだろう。



(推し量りたいけど、これ以上食事を引き延ばすのも良くないな)



 食事の前にサトリから、今晩するべきことがあるとセナだけが聞かされている。

 班員全員での行動である以上、思ったより時間は少ない。

 ひとまず違和感だけ覚えておくことにして、ジャンヌを使い今度こそ話は終わりだ。



「さあ、冷めてしまいますから。頂きましょう」


「おう、そうだな。ていうか冷めちまった! ちょいレンチンしてくるぜ!」


「では、私の分もお願いいたします。油が固まると、どうにも胃が受け付けにくくなりますので」



 再度活気付く晩餐会。

 事実上の作戦会議はほぼ終わったようなものなので、あとは肩肘張らずに食を楽しむことができる──



「ああ、そうだ。食事後にひとつやりたいことがあるのだが」



 ──サトリが言い出すまでは皆がそう思っていた。



(やっと本題か)


「やりたいこととは、なんでしょうかサトリ様」


「いや、単純なことだよ」



 切ったものの冷めてしまったチキンを暖め直すためか立ち上がりながら、柔和な笑顔を崩すことなくあっけらかんと言い放つ。



「今晩のうちに消しておきたいプレイヤーがいてね。夜の狩りを提案したいのだが」



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