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夕日に溶けて:side天下一



「実際、隠れてるプレイヤーってどれくらい居ると思います?」


「僕はこういう戦いの専門家じゃないからなぁ」


「まあまあ、見張りで動けない間の雑談ッスよ」


「……そうだね。十人も居ないと思うよ」


「そりゃどうして?」


「天下一君も、『殺し合いサバイバルゲーム』だって説明を受けて、それから能力を選んだでしょ?」



 クックの言葉に、天下一は空を仰いで思考する。

 案内人の説明と、能力選択の注意点。



「うーん、確かそうッスね」


「最後の一人まで生き残れって言われて、真っ先に隠れる能力を思いつけるプレイヤーはそういないと思うんだ。だって、プレイヤーを減らせなければいつまで経っても終わらない。最後の二人まで残ったとして、生き残った最強のプレイヤーを倒さないといけない。でしょ?」


「隠れ続けるだけだと最後が不利ってことッスか?」


「うん、僕はそう思うよ」



 一理ある。

 能力無しで隠れ続けられるのならば話は別だが、最後の二人まで行った場合は攻撃手段が欲しい。



「……ん? いやいやクックさん、ちょっと話がずれましたよね?」


「どこがだい?」


「俺は『現時点で隠れてるプレイヤー』の話をしただけで、『隠れる能力者』の話はしてませんよ?」


「ああ、そうだったかな?」


「そうッスよー。クックさんの考え方から広がった話ですからねこれ」



 はにかんで頬を掻くクックの周囲が、日当たりの関係で暗くなる。

 顔が暗闇に閉ざされ表情が見えなくなった。



「とはいえ、こうして不死狩りみたいなチームも出来て、相手の不死たちもチームで動いてるみたいだし。能力でも持ってないと見つかるのも時間の問題じゃないかな」


「……あれ? ならクックさんはどうやって隠れるつもりだったんッスか?」



 静寂が訪れる。

 クックが言葉に詰まったのかと天下一は目を凝らしたが、顔はやはり見通せない。



「……」


「クックさん?」


「ほら、説明の段階で『フィールド情報は公開しない』って言われてたじゃない? 参加者は索敵能力より殺傷力を持ってくるだろうから、今回のような都市部や山岳地帯なら十分隠れられると思っていたんだよ」


「……なるほど?」



 天下一はそれ以上を聞くのをやめた。

 なんとなく、これ以上の深堀りはクックを『考え無し』にしてしまう気がしたからだ。



「まあ、僕のことはいいじゃないか。今は君たちのために何かをさせて欲しいよ」


「言葉は嬉しいッスけど……」


「例えば小町班は、この後の行動方針とかはあるのかい?」


「この後ッスか? うーんと」



 空気の変化に耐えきれず、天下一も話を合わせる。

 仲間に対して情報を伏せるような真似はしない。



「このビルを拠点にして、まずは安全確保みたいッスね。近くを見回って、異常が無ければ翌朝から不死の捜索開始って感じッス」


「確かにこのあたりは隠れられる工場が嫌に多いね」


「みんなそう思ってるんスよ! 小町さんが捜索向きで、大納言さんが殺傷向きだから、見つけさえすれば行けると思いますよ」


「なら、明日に備えておかないと……ん?」



 クックが身を乗り出して地上を見る。

 このビルの近くをプレイヤーが一人歩いていた。



「天下一君。あれ」


「あれ? ……うお、プレイヤーだ」


「顔がよく見えないんだけど、不死狩りのメンバーかな?」


「双眼鏡を店から持ってきてるんで、見てみるッスわ」



 全員が自己紹介をしたおかげもあり、メンバーの顔は割れている。

 天下一はすぐに看破し警戒態勢に移行した。



「知らない顔ッスね」


「……こういう場合はどうするの?」


「お任せを。こういうときこそ俺のイデオ『フルコピー』を使いましょう!」


「能力がわかるのはいいけど、目的も知りたいところだね」


「それなら大丈夫ッスよ! フルコピーは、コピーした瞬間限定なら思考までわかるッスからね」


「……」



 天下一は双眼鏡でプレイヤーを目視しながら、設定を開始する。

 今回は隣にクックがいるため、巻き込まないように一瞬で解けるようにしておかなければならない。

 変身には思考の変化による暴走の危険が付きまとうのだ。



「解除条件は五秒経過、かな。少し離れていてください」


「わかったよ」


「んじゃ……イデオ発動!」



 かけ声と同時に天下一の姿が崩れ、双眼鏡が落ちる。

 再構築された容姿は制服姿の女子であり、ブレザーとローファーはあちこちが汚れていた。

 茶髪のポニーテールが特徴的な姿となって、うっすらと目が開かれる。



「……天下一君?」


「あー、えー、うわー、どゆこと? わっかんないんだけどー!」



 しゃべり方まで全く変化した天下一は、わずか五秒という制限もあって困惑だけで変身が解ける。

 だが元の姿に戻った後も、天下一は頭を抱えていた。



「……えぇー?」


「天下一君? 大丈夫かい?」


「えと、まあ、そんな大丈夫じゃない、かも」


「よくわからないけど、とりあえず彼女は敵なのかは知っておきたいよ」


「ああいや、敵じゃないッス! ジャンヌ班のセナちゃんの仲間らしいんで!」


「へぇ? それにしては動揺してるみたいだけど」


「いや、なんつーか、ううん。なんでか知らないけど……()()()()()()()みたいなんスよ」



 どこか不安そうに告げる天下一に釣られてか、クックの声色にも困惑が混じり始める。



「……天下一君に会いに?」


「そうッスね」


「ジャンヌ班からの連絡や通達ではなく?」


「そういう用件もあるかもしれないッスけど考えてはいませんでしたね」


「個人的な用事なの?」


「おそらく。聞いてみないとなんともッスけど」



 歯切れが悪い返答だが、フルコピーでわかる情報というのは天下一しか知り得ないのだ。

 容姿を見れただけのクックでは、話したこともない相手の心の内などわかるはずもない。



「ともかく、ちょっと会ってくるッス。このまま見失っちゃうのも悪いし」


「罠の可能性は?」


「無いと思いますよ。頭の中、セナちゃんのことで一杯だったし」


「……なら止めないよ。僕は時間まで見張りをしておくから」


「頼みましたよ! んじゃ、行ってくるッスわ」



 天下一は小走りで駆けていき、屋上から姿を消した。

 見送ったクックは、落としっぱなしの双眼鏡を拾い上げて埃を払う。

 

 暮れ残った夕日の明かりが、その表情を照らすことは無かった。



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― 新着の感想 ―
[一言]  三人称条件なら常に描ける表情を夕日の性質を活用して、あえて描かない……まさに「夕日に溶けて」ですね。  第三章はまだ目立った戦闘は無いですが、次第に不気味さを増して行く緊張感がなかなか………
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