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密告:sideルリ


「では、次は自分から。第一目標である不死チームの居所ですね」


「あ、やっとわかったんですかノウンさん!」


「これだけ集中できる環境と時間を頂きましたから。その分は働きでお返ししないと」


「このままずーっとわからないままかと思ってまっあいたー!」


「はっはっは! このKY娘は放っておいて、ノウン君は話を続けてくれたまえ!」



 パッシーンと気味良い音を立て、ブカ袖ビンタが野薔薇の顔面に炸裂した。

ドレッドなどは思わず吹き出しそうになったのか、顔を下げて震えだしたが、かまわずノウンは続ける。



「メモをお願いします。見えた場所は、廃ビル。暗闇……」


「あ、ちょっとまって。書記が今、顔面押さえてる」


「いだいんですけどー!」


「早く書いて野薔薇君! ほらほらほらほら!」



 騒がしい周囲のおかげで仕切り直しの様相だ。

 部屋の隅から見ていた透明少女ルリも、核心の情報が聞ける可能性に体の震えが止まらない。



(不死の居場所……絶対に、持ち帰らなきゃ……)



 固唾を飲む観客がいるとはつゆ知らず、準備も整いノウンは仕切り直す。



「見えたのは暗い廃ビル。板が打ち付けられた窓。上から下まで真っ黒なプレイヤーが……不死たちを束ねています」


「真っ黒ってのはどういうことだ?」


「黒髪に、黒スーツに、黒ネクタイ。中のワイシャツまで真っ黒だ」


「はっはっは、まるで喪服だねぇ。不死を束ねる人物なのに、まるで死神みたいじゃあないか!」



 答えるべくには答え、小うるさいガヤは無視し、能力で知り得た情報を整然と並べていく。



「窓を塞いでる板の一部が壊れていて……そこからは大樹が見えました。摩天楼は遠かった。逆に、近くには大きなショッピングモールが見えましたね」


「ショッピングモール……ありましたっけそんなもの」


「少なくとも、ビル街や大樹周辺には無いね」


「んじゃ、そいつを探すところからか。でかいっつうけどどれくらいだ?」


「少なくとも……五階建て以上。上の方は駐車場になっていました。車が屋上に上るためのスロープがあります」


「ほうほうほう、他には何かないのかい!?」


「……件のショッピングモールへと歩いていく黒スーツの姿も見えました。食料品の補充の可能性もありますが……まあ、どちらかが本拠地でしょうね」


「それだけわかれば探しようがあるだろうね! せっかく北西エリアに来ているのだから、早速この周囲を捜索するとしようか。ノウン君は引き続き、君の『予知』能力でヴィジョンを見てくれ!」


「わかりました。……少し疲れたので、煙草を吸ってきます」



 ノウンが立ち上がるのを見て、ルリはゆっくりと移動を開始する。

 能力で姿が見えずとも、ドアの開閉などを自分で行うわけにはいかないのだ。



「ああ、ゆっくり吸ってくるといい! 知恵を使う者ほど、リラックス法を大事にするものだ!」


「はい。じゃあ遠慮なく。みなさんはくつろいでいてください」



 廊下に続く扉は開かれ、ノウンが退室する。

 その真後ろを透明人間がついていき、閉まり行くドアに身を滑らせた。

 ノウンはそのままホテルの廊下へと出て行くが、流石に玄関はみな閉めるためついて行くことはできない。

 外から人の気配が消えるまで、ルリは身を潜めることにした。



(ショッピングモールか、それが見える廃ビル……うん、大成功)



 スケアクロウと行動するようになって数時間程度だが、すでに情報の大切さというものをルリは身に染みて理解しているつもりだった。

 地図もなく、アナウンスもない。

 クソゲーに近い不親切さが、自然と情報戦の必要を生んでいる。

 少なくとも現時点でスケアクロウ以上にフィールドを知り尽くしているプレイヤーは居ないはずだ。



(情報の使い方は、戒場さんに教えてもらお)



 頭の中で時間を数えながら、息を殺し続ける。

 五分経ったと自分に言い聞かせ、ルリは玄関を開けた。

 流石にもう、ノウンの姿は周囲に無い。



(こういう時にどうすればいいか、教えて貰っておいて良かった)



 玄関ドアで滑り込もうとしたら、体がドアかノウンにぶつかっていたかもしれない。

 五分と決めておかなければ外に出る勇気が持てなかったかもしれない。


 スイートルームのある上層フロアは、人の往来が少ない。

 普段のように紛れ隠れることができないため、足音を立てないようゆっくりと進んでいく。



(バレないが第一……バレないが第一……)



 廊下の角を曲がり、エレベーターと階段が見えてきた。

 話し声が廊下で微かに反響している。

 そういえば、喫煙室がこの先にあったはずだ。



(ノウンが居る? ……えっ、誰と話してるの?)



 沸き上がった疑問に答えをくれる知恵者はこの場には居ない。

 心臓は、もう十分にやったと叫び続けているが、廊下に聞こえるくらいなのだから室内に入らなくても確認できるのではないか。



(……集合時間ギリギリだし、ちょっと聞くだけ……)



 抜き足差し足というより、もはや摺り足に近い動きで、カーペットをずらしながら喫煙室にたどり着く。

 ガラス戸の奥では、スマートフォンを握ったノウンが険しい表情を浮かべていた。



(……スマホ? なんで使えてるんだろ? どれも電波が入らないのに)


「──そう、教授はチームに賞金を全て渡すつもりですよ」


(……え?)



 耳に入ったのは、先ほどまでの和気あいあいとした雰囲気からは想像もつかない、密告の言葉だった。



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