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天才たちのお茶会:sideルリ



(…………心臓、うるさい)



 ルリは一人、手に汗握らせ潜伏を行っている最中だった。


 視線は渦中から一時も離すことができない。

 現場はホテルの豪華なスイートルームで、不死狩り教授斑メンバーの全員がリビングに集合し、ティーカップの紅茶を楽しんでいた。



「それでは諸君! これより、対策会議を開催するぞ!」



 教授が高らかに宣言し、その場の面々を見渡している。


 特攻隊服の『ドレッド』は両腕を背もたれにかけて大きい態度を見せていた。

 頬に天才の入れ墨が特徴の『ジーニアス』少年は巨大リュックサックを足置きにしリラックスモード。

 桃色ジャージの少女『野薔薇』はとっくにお茶菓子を頬張っていて、真面目そうなメガネ青年『ノウン』は落ち着き無く貧乏揺すりをしている。


 

「対策会議というのは、もちろん不死プレイヤーについてですよね」


「ノウン君、その認識は半分正しい! 確かに我々が真っ先に倒すべき敵なのが不死能力者たちだ。それはこの不死狩りという組織を作った本懐である! あるが……はい、わかる人ー!」



 挙手を求めるためか真っ先に右手を掲げる教授だが、腕より袖が長いせいで指すら出もしない。



「えー? わからないですよー教授さん!」


「俺らに頭使わせないでくれよなァ? そういうのは天才とか理系の担当だろうよ」


「……じゃあ、求められているみたいだし僕が」



 結局、挙手をしたのはジーニアスのみだった。



「不死プレイヤー……正確には、不死同士で組んでるチームかな? これを壊滅させたら、次に戦うのは不死狩りの他班だね」


「えぇー? せっかく組んだのに倒すんですか? それ最後で良いんじゃないです?」


「そうでもないよ。さっきジャンヌ班と組んでクロックマスター班を挟み撃ちにしたけど、不死より前に処理したのはもちろん厄介だからさ。不意打ちする側じゃなく、される側になっていたら僕たちも負けていたかもしれない」



 諭すジーニアスに対して、野薔薇はどこか不服そうに頬を膨らませる。



「負ける訳ないと思いますけどー。私を含めみんな強いですし、ここは六人居ますしー」



 その言葉にベッドへと視線を向けるものがちらほら。

 最高級の寝具に包まれて、何者かが寝息を立て熟睡している。

 毛布にくるまり大きなアイマスクを装着しているため、容姿も性別も見た目からはわからない。



「はっはっはっは! そこのゲスト君は私の秘密兵器だからね! あまり口外しないでくれたまへよ!」


「秘密兵器っていいますけど、眠らせる能力者の人でしょ? 出し惜しみする必要なくないです?」


「野薔薇くーん? 秘密兵器かもしれないでしょー? 否定から入るのはどうかと思うよ君ぃ!」


「えー? 気づいてる人は気づいてると思いますけどー」


「空気読んでやれよ、そのチビは一度否定するとうるせぇぞ」


「ドレッド君も、私を厄介者みたく言わないでくれるかな!?」



 まとめ役であり、事実上のトップでもある教授は表情をコロコロと変え喜怒哀楽を出していた。



(雰囲気、いいな……)



 このゲームで団結力は生み出せても信用は生み出せないとルリは思っている。

 それでも、ああいう人が味方だったら。

 教授はそう思わせる何かを持っていた。



「それに、人数が多いというのも逆に問題だ。そうだろう、ジーニアス君?」


「……そうだね。このゲームは()()()()()()()()()ゲームだ。だから六人というわかりやすい強さはあんまり外に見せられない」


「おいおいおい坊主。今なんて言ったァ? 弱くないと勝てない? どういう意味だァ、おい」



 噛みついたのは、紅茶に二袋目の砂糖をぶち込んでいたドレッドだ。



「ごめんね、ちょっとわかりづらい言い方だった。『見た目は弱くないと勝てない』が正しいかな」


「どっちにしろわかんねえぞ」


「結局、一番の敵は数ってことさ。チームを組んだ方が強い、でもいいよ」


「あぁん?」


「こらこらジーニアス君。ドレッド君の金髪ヘアが今にも燃え上がりそうだぞ!」


「うーん、そうだな……」



 ジーニアスはソファから身を起こし、リュックサックから足を下ろして姿勢を正す。

 思案顔で数秒、頬の入れ墨を人差し指で叩いた。



「例えばだけど、『念じただけで相手を殺せる』能力者が居たとして、ドレッドはどうする?」


「どうするもなにも……そんな危険な奴ァさっさと倒すに決まってるだろがよ」


「どうして? 味方にしたらすごく心強くない?」


「アホ抜かせェ、そんな危険な奴に背中を任せるのも、野放しにするのもナシだろうが。不意打ちされたら一瞬で全滅だろ」


「……その通りだね。仮に不死狩りに参加しようとしていたら、クロックマスター班行きだ。いいや、もしかしたら自己紹介の段階で殺しにかかるプレイヤーもいるかもしれない。そしたら、それを誰も咎めないし、気の利く無効化能力者が手助けするかも」


「否定はできねえなァ。俺がその場にいたら手伝ってる」


「じゃあ今度は、目の前に現れたのが『相手を眠らせる』能力者だったらどう? そして不死狩りへの参加を希望する」


「そりゃ、比べるまでもねえ話じゃねえのか?」



 ドレッドは同意を求めるように野薔薇とノウンを見た。二人は視線に気づくと、共に数秒考える。



「うーん、私も眠らせる能力者ならいいかなーって思いますけど。不死にもちゃんと効きますし」


「自分はどちらとも言えませんね。危険度は即死させる能力者と大差ないと思いますので」


「はぁ? どこがだよノウン」



 視線が集まるのを感じ取ったのか、ノウンは左右を見回してからメガネの位置を直す。



「相手の能力が『眠らせる能力』ではなく、『永眠させる能力』かもしれないからです」


「……いやお前、永眠ってのは死ぬことだろうがよォ」


「わかりませんよ、ここはゲーム。プログラム次第でどのような挙動も可能なんです。それこそ、現実では不可能な症状だって起こりえます。一度眠ったら二度と目が覚めない、そんな睡眠能力がないとは言い切れないでしょう」


「屁理屈じゃねえか!」


「そんなことを言われても。まさに屁理屈の頂点みたいな人がそこにいるわけですし」



 ノウンは悪びれもなく教授を指さし、白衣の指導者は無い胸を張ってフフンと鼻を鳴らした。

 自慢げなリーダーの姿には、さしものドレッドも閉口するほかない。



「言われてみりゃ、このちんちくりんは何でもありだった……」


「いやいや心外だなドレッド君! この私にだってできないことは山ほどあるだろう! 少なくとも、相手を即座に脱落に追い込むような真似は不可能だと断言できるね!」


「あー……まだ即死能力みたいなわかりやすいやつの方が、教授の百倍マシだわなァ」


「うん、それだよドレッド」



 しばし静観していたジーニアスが口を開いた。



「明らかに強く見える能力者、強いことしかできない能力者は狙われるんだ。それは不死能力者でも、即死能力者でも同じだよ。やっかいな存在は自然と弱者同士の団結を生む。目立つ能力者は目立ってない相手から集中砲火を受ける」


「……最初のロボットとかのことを言ってるのか?」


「あれすごい目立ったよね。もちろん、ああいうアクシデントに巻き込まれて負けてしまった不運なプレイヤーも居たかもしれない。そういう意味で、絶対に勝てる能力なんて一つも無い」



 ストレートティーを一口飲み、喉の滑らかさを確保したジーニアスはクッキーも一つ摘む。



「けど、目立つ奴と運がない奴が居なくなった時、次に死ぬのは強すぎる奴だ。不死を殺せないから無効化能力者が必須っていう、今みたいな自分でどうにかできない状況に陥った時点で、殺傷力なんてものは邪魔なんだ……んぐ、ん、このチョコクッキーおいし……」



 説明は終わりとばかりにおやつタイムが始まる。

 しかめ面のままのドレッドだが、眉間の皺はある程度収まっていた。



「つまりなんだァ、見た目は弱っちそうだけど、実際はつえぇ能力者。他の参加者が油断しやすいプレイヤーが生き残りやすい、ってことか?」


「んぐ、んぐ……そうだね。相手を瞬殺させられる事が第一条件で、それ以外のこともできるプレイヤーが、不死が居なくなった後に残ってるんじゃないかな」


「……」


「おやおやおやドレッド君。そんなに見つめられると照れちまうじゃないか!」


「こいつは例外か」


「その人は例外だね」


「はーっはっはっはっは!」


「元気ですねぇ教授さん」


「野薔薇君も健勝でいてくれたまへよ! はーっはっはっはっは!」



 騒がしい相談事は一段落し、各々が茶を啜る。

 一つの話が終わったことを確認するように、ノウンは列席者の顔を見回してから口を開いた。



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