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ミスラの能力



 摩天楼とは、天をも掠めるような超高層ビルの立ち並ぶ地域のことを指す。

 この戦いの舞台はまさしくビルだらけで、目算でもフロア数30を下らないビルがぎっちりと立ち並んでいた。


 だが、プレイヤー『スケアクロウ』が空から観察した限りでは、ビル群はマップの中央に集中しているに過ぎない。

 中心から数キロほど離れたエリアには、また違った建造物群が目視できるのだ。


 たとえばマップ西側には高級住宅街がずらりと並ぶ。

 およそどの邸宅も三階建てで、敷地は広く道幅もあり、視野の広い地域といえた。


 一方で、今向かっているマップ南側にあるのは倉庫群と工場群が混在している工業地帯だ。

 西から東へと流れている大きな川を起点に、メタリックな光景と蒸気で溢れている。


 遺体を抱えたプレイヤー二人が工場の一つに入っていくのを観察しながら、スケアクロウは深追いすべきかを悩んでいた。



(尾行に気づかれちゃいないだろうが、中に何が待っているのか不明なんだよな。さてどうするか)



 とはいえ、死体の使い道は是非知っておきたい。

 都市部から工業地帯まで運ぶというだけでかなりのリスクなのだから、間違いなく絶大なリターンを期待しての行動のはず。



(……見ておくか。拾えるときに拾っとくべきだな)



 ツバメの体から人の手が生え、トランシーバーを操作する。

 いまだ南西部にいるはずの相棒とのホットラインが繋がった。



「こちらスケアクロウ。今いいか?」


『は、はい。こちらルリ。ひとまず、大丈夫』


「よし。クックは居たか?」


『やっぱり、見あたらないの。死体もないし』


「なるほど。色々考えられるが……今は後回しだ。さっきの死体回収屋に探りを入れてみる」


『わかった……その、私には、できることある?』



 相棒である『ルリ』の合流を待つのは手の一つだ。

 だが、あまり相手に時間を与えると見失う危険もある。

 これ以上離れると無線機の範囲から出てしまい、通信不可能になるであろうことは悩ましいが……。



「そうだな……。この件は俺一人でやる。代わりにルリには不死狩りに張り付いてて貰いたい」


『う、うん。どこの班にする?』


「クック班が壊滅したからな。殺人の犯人が外部にいるなら、クックは隣の地区担当の班に助けを求めるはずだ。だから教授班か小町班を頼む、ルリの好きなほうでいいぞ」


『……なら、教授班を見ておくね。チームとして強いし、咄嗟に頼るならこっちだろうから』


「そうか? わかった。二時間後に隠れ家に集合だ」


『うん、がんばるね!』



 話は纏まった。

 通信が切れると同時に、燕は倉庫の屋根上に着地する。



(てっきり、俺との合流や危険性の低さを考えて小町班を調べたがると思ったが……)



 教授班が北西担当、小町班が南担当であることはすでに調査済みだ。

 この工業地帯には、不死狩り小町班がすでに到着し不死の根城を探っているはず。

 それをあえて北西へ向かうというのは、スケアクロウにはありがたいが少々意外な決断にも見えた。



(頑張れよルリ。さて、これでこっちが失敗したらカッコ悪いじゃ済まないし、気合い入れますかね)



 燕は瞬く間に容積を減らし蠅の姿へ。


 工場の通気孔から進入し工場内へと踏み込む。

 製鉄所か鋳物工場のような、高温で金属を鋳造する装置がそこかしこに見られるが、作業員が居らぬためか製造は完全に止まっていた。



(中に入ってったのはついさっきだし、どっかそこらに居そうなものだが)



 大きな鍋のような機械に、圧縮機のようなものの姿もある。

 ベルトコンベアは動いてはいるが、何も運ばれていない時点で無意味も同然だ。



(居た)



 障害物があろうと、空からの目を持っているスケアクロウにかかれば発見はたやすい。

 プレイヤー二人は工場の一番奥、裏口から外に出るところだった。



(外に出るのか? わざわざ工場を通過して?)



 追いかけるため、半開きの窓から飛び出す。

 見れば、二人は敷地内のフェンスの内側に敷設されたマンホールをズラし、死体を下水道へと下ろす最中だった。



(工場とフェンスに囲まれて見えなくなってる)



 マンホールを閉められると手間がかかる。

 一人目が降りていく隙にと、スケアクロウは下水道へと飛び込み彼らの作業終了を待つ。

 直に遺体は三つとも下ろされ、二人のプレイヤーはため息をついた。



「ふぅ」


「お、疲れたのかいおっさん」


「おっさんではない」



 巨漢のプレイヤーが優男を睨む。

 だが、やれやれと肩をすくめている様子から優男に反省の色は皆無だ。



「おっさんじゃないならなんて呼べば良いんだよ」


一番(ウーヌエ)でいいだろう」


「えー? ださくね? ウーヌエで一番って意味だってミスラ様以外には伝わらねえしよー」


「ミスラ様が泣くぞ」


「泣いても怖くないからなぁ~」



 どうも、二人は先に進む様子がない。

 汚水を避けるように壁にもたれ掛かり、談笑を続ける。



「じゃ、プレイヤーネームでいいじゃん。教えろよ」


「すでに俺たちのプレイヤーネームに意味などない」


「なに、もしかしてめっちゃダサくて言いづらいとか?」


「『さとうきび』よりはマシだろう」


「あー! 今言っちゃいけないこと言った! 人の親しみやすさ全開のネーミングにケチ付けたな!」


「気にするくらいなら、素直に二番(ドゥーエ)と名乗ればいい」


「良くないね! お前だけ知ってるってのは不公平なんだよタイタン! つーか、俺はお前に勝ってるのになーんでお前が一番なんだよ!」


「ミスラ様に起こされた順番なんだから仕方ないだろ。それにあれは二対一、普通にやっていれば俺の勝ちだった」


「敗者の言い訳ほど惨めなものはないですね!」


「自分に言い聞かせているのか? 『さとうきび』」


「てんめぇ良い度胸じゃねえか!」



 喧々囂々の言い合いを見ているだけのスケアクロウは、蚊帳の外なりに会話から情報を拾い上げる。



(……細身の方が『さとうきび』。こいつらはどこかで戦闘し、でかい方が負けた。だが『ミスラ』様なる人物に起こされた……か)



 スケアクロウ視点で一つ、このゲームで不思議だったことがある。

 その疑問が氷解していくのを実感していく。



(なるほど、どうして脱落したプレイヤーの死体がその場に残り続けるのか、わかった気がする)



 不要ならばその場で消滅し、このフィールドから退去されるはずだ。

 わざわざ残しておいても、ゲームとしての内部処理を圧迫し続け効率も悪い。

 死体が残るということは、残るだけの理由があるはずなのだ。



(死体は有効活用できる。そしておそらく、ミスラとやらの能力は……)



 ──『死霊術士(ネクロマンサー)』。



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