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悪い大人と良い子供



「うん、戒場さんと、だいたい一緒!」


「だな。んじゃ、次はこいつらの監視だ」


「え……倒すんじゃなくて?」



 無邪気さが滲んだ声に、戒場の口の端がわずかに痙攣する。

 表情は変わらない、変えないように我慢していた。



「あのな。こいつらには不死を倒して貰わないといけないだろ? だから今は、本当の能力がどれくらいかを知っておくんだ」


「そっかぁ……」


「俺たちにはそれができる。不死が倒された後も、無理に戦おうとする必要はない。最後に立っていればいい」


「……なら、戒場さんのお仕事のお手伝い、する?」



 仕事──つまりは、VRで死人が出るような要因がゲーム内に存在するかの調査だ。

 これだけリアルな体験を実現するためには、脳へ直接信号を送っているのは間違いないと見ている。


 殺し合いが前提であるこのゲームにおいて、どうやって箝口令を敷いているのか。

 痛みも苦しみも味わうだろうに、現実でそれらへの不満が書き込まれないのはなぜなのか。

 知らねばならない。



「手伝ってくれるってなら、マークしたいプレイヤーが居る。クックだ」


「クックさん?」


「ああ。俺の目的がゲームの調査なのは言ったとおりだが、クックは食事が大事だということを明らかに知っていて能力を選んでいる。開始前からゲーム内容を知っていた可能性があるんだ」


「でも、このゲームもこれで百回目でしょ? リピーターというか、二度目の挑戦だから知ってるっていう人もいるんじゃないかな」


「そういう素振りがクック以外からも見れたらよかったんだけどな。現状、二週目らしさがあるのはクックだけなんだ」


「じゃあ……見張るの?」



 わずかな、細い声。

 無理もない、気付かれる可能性が低いだけで気取られないわけではないのだ。

 どんなきっかけで存在がバレて脱落するか、気が気ではないだろう。



「お願いできるか?」



 それでも、戒場にはルリが必須だった。

 これだけ隠密に長けたプレイヤーが他にいるかも怪しい。

 それに、なにより素直でいい子だった。



「……うん、約束だもんね」


「ああ約束だ。俺かルリ、どっちかが優勝したら商品はルリのもの。俺は調査だけで良い。だからルリも、俺の調査を手伝う」


「大丈夫、忘れてないよ」



 本当は、その商品が優勝者に手渡されるかも怪しい。

 もしも現実の方のサイバー課が上手くやっていれば、ゲームの途中中断もあり得るだろう。

 なにより、優勝賞金の一千万円は明らかに賭博罪に引っかかる金額だ。 



(……悪いな、ルリ)



 礼状はすでに出ており、サイバー課は現行犯を押さえれば逮捕だってできる。



(少なくとも、現実のお前が死ぬようなことはさせないからさ)



 その言葉を免罪符にし、煮詰まった感情を飲み込んだ。



「じゃあ、お片づけしたら、また調査に行ってくるね!」


「……ああ、頼むぞ相棒」


「まかせて!」



 弁当の容器を押し込んだビニール袋が浮き上がり、駆け足の音を引き連れて書斎から出ていった。

 戒場は椅子に深く腰掛けると、タバコに火をつけ白煙を吸う。



(……美味いタバコだ)



 己の汚さを覆い隠すかのように、白煙が室内を漂う。

 だがそれは決して満ちることなく、空気に溶けて消えてしまうのだった。



~~~~~~~~~~



 標的はクック。

 彼が不死狩りで班長を務めていることは掴んでいる。


 ルリは充電済みのワイヤレスイヤホンを片耳に取り付け、ブルートゥース対応のトランシーバーと接続していった。

 周波数を合わせた相手はもちろん戒場ことスケアクロウだ。



『こちらスケアクロウ。500メートル以上離れるなよ、電波が届かなくなるからな』


「りょ、了解……!」



 豪邸の裏口から外に出て、正門へ。

 振り返ると、ちょうど燕が三階の窓から飛び出すところだった。

 スケアクロウが外から俯瞰し、ルリが接近して情報を集める。



(か……スケアクロウさんに会えて良かった。私一人だと、すぐ負けちゃってたかも)



 出会いはビルの屋上で、ちょうどプレイヤーを一人突き落とした直後だった。

 男プレイヤーが絶叫を上げながら落ちていく瞬間、その叫びと表情が脳裏に張り付いて取れなかったルリは過呼吸になっていた。


 集中力が途切れると同時に『透明化』が弱まって、顔が見えるようになっていたのだろう。

 誰かの声が聞こえたから顔を上げたら、そこにものすごい表情をしたスケアクロウが立ちすくんでいたのだ。

 驚きと、悲しみと、怒りと……悪い感情がごちゃまぜになった、そんな顔。


 今度は自分が、殺される。

 慌てて能力を強め、姿を完全に隠そうとしたその瞬間。

 『待て、俺は何もしない!』と、『俺を助けてくれ』と、そう彼は言った。



(多分、助けてやるとか、そんな甘い言葉だったら信じられなかった)



 助けて欲しい。

 そんな場違いの一言が話す機会を作って……今はこうして目的を同じく行動している。

 良くしてくれて、知識をくれて。

 どうすればいいのかわからないこのゲームで、やるべきことを示してくれるのが何より助かっていた。



(うん、がんばろう)



 ルリは燕に置いて行かれないようにと速度を上げた。



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