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能ある鷹はイデオを隠す



「次は、『小火』の能力者のセナだな。遠距離に火炎を出せるらしい」


「なんか、この子はそんなに強くなさそうだよね」


「……はい、停止」


「お蕎麦がのびちゃうよぉー」



 再びの一時停止に、箸が何度も容器に叩きつけられ、声色も不満たらたらときた。

 愛嬌があって思わず意地悪したくもなるが、ヘソを曲げられても困るので、戒場は話を急ぐことにする。



「ルリも思った通り、『小火』は弱すぎる」


「だよね?」


「そういう違和感は大事だ。あの自己紹介で全員が本当のことを言っていると思わない方がいい」


「でもでも、ちゃんと炎を出してたよね?」



 戒場の持っていたリモコンがひったくられ、セナの自己紹介の頭まで巻き戻される。

 再開された映像内では、確かにはるか遠方で炎が吹き上がっていた。



「ほらー!」


「わかった、わかった。けどな、人を騙す手段なんて腐るほどあるんだ。俺ですら二つほど思いついてる」


「二つもあるの……?」



 リモコンを取り戻してから、戒場は再び映像を巻き戻す。

 『小火』が発動する瞬間のシーンだ。



「まず一つ目、イデオ名を偽って能力を弱く見せているパターンだ。例えばだが、このセナのイデオが『噴火』で、指定した場所から熱が吹き出す能力だとする。これなら強そうに見えないか?」


「……うん。名前がもう、全然強そう」


「小火なんていう、いかにも小さな炎ですよって名前と見た目を見せつけて、自分は強くないとアピールしたいのかもしれない。噴火だと真逆だ、巻き込まれれば助かるイメージはもう無いだろう?」


「うん……そっか。小火って名前がもう怪しいんだね」



 戒場は飲み込みの速い生徒の様子に、少し笑顔になりながらヨーグルトを開封する。



「そして二つ目だ。そもそも炎を使う能力じゃないかもしれない」


「えぇ? それはないよ。だって、ちゃんと炎使ってたもん!」


「どうしてそう言い切れるんだ?」


「ちゃんと炎が出る方を見て、指を向けて……」


「それだけだろ。セナが使ったなんて保証はどこにもない。他に仲間が一人居ればやれちまうことだ」


「……仲間? でも、他の人は誰も動いていなかったし、他に炎を使える人は居なかったよ?」



 言いながら、ルリはどこからかメモを取り出してデスクに広げた。

 自己紹介した全員の名前と能力名が書き込まれており、確かにその中に該当能力者は存在しない。



「べつに、不死狩りの中に仲間がいる必要はない。外に仲間がいる可能性だってある。とくにあの会場は四方をビルで囲まれているからな、干渉し放題だ」


「……ゲームが始まって、ほんの三時間くらいだよ。なのに、そんな仲間がすぐできるはずないよ」


「じゃ、俺とルリは仲間じゃねーのか?」


「うぐっ」



 喉を詰まらせたような声と、少しのせき込み。

 痛いところを突かれたのか、ルリはそこで黙り込んでしまった。



「ともかくだ。こうして見返せば、明らかに能力が弱すぎる奴が見つかる。これまでの復習もかねて、二十七人のうち何人が危険そうかを考えてみろ。見えている危険も、見えていない危険もだ。動画が終わったところで俺と答え合わせだ」


「戒場さん、ずっと私を試すようなことしてくるぅ」


「ははは、悪いな。俺は相棒には強くあって欲しいタイプなんだ」


「相棒……」



 戒場は先に食事を終え、空の容器をビニール袋に詰め込んで片づける。

 書斎の引き出しからペンとメモを二人分準備し、再生ボタンを押した。

 言葉はなくても、姿もなくても、ペンとメモはすぐにひとりでに使われ始める。

 どこか満足げに口の端をほころばせながら、戒場も確認のために映像へと集中していった。




「ふぅー……」


 たっぷり三十分の映像が終わり、ルリのため息が室内を満たす。

 蕎麦汁はもうすっかり冷めたことだろう。



「ほい、お疲れさん」


「つーかーれーたー……」


「だろうな。けど、メモにはびっしり書かれてるじゃないか」


「あ、まだダメ、まだ見ちゃダメ!」



 メモがふっとその場から消えて見えなくなり、戒場は両手を挙げて仰け反った。



「ごめん、ごめんって」


「答え合わせしますよ!」


「わかったよ。んじゃ、これが俺のメモだ。交換な」



 降参のポーズを崩さないまま、戒場のメモがデスクの上へ。

 それは瞬く間に消滅し、同じ場所にルリのメモが残される。

 相棒の現状把握能力がいかほどのものか目を通した。



(危険能力者が……『小火』のセナに、『圧縮』のジャンヌとサトリ。時間停止、結界生成、事象を無かったことにする能力、斥力操作……目立つ奴はおおよそ押さえているな)



 爪を隠す鷹を見つけるのも大事だが、むき出しの牙を注意する必要もある。

 どうあっても隠しきれない強能力は多数存在していた。



(それと、ベートーヴェンの『音失』、ジーニアスの『液体操作』、ノウンの『予知』も怪しいか。いい線行ってるじゃんか)


「か、戒場さぁーん!」


「なんだどした」



 戒場のメモは見えないが、おそらく読み込んでいる途中だろうルリから泣きそうな声。

 難しく書いたつもりはなくとも読めない漢字でも混ざっただろうか。



「なんでこの、『相手の穴という穴から粒餡があふれ出す能力』が入ってるんですかぁー!」


「いやだって強いじゃんか」



 不死狩りで最も異彩を放っていたイデオだ。

 すでに脱落した不死の遺体の口から大量の粒餡が溢れ出すというなかなかの惨事を見せつけた問題作である。



「やだー! こんなことするくらいなら圧縮で丸めた方が早いし! 早撃ち対決だとすぐ負けちゃうよ!」


「いや、よく考えてみろ。相手を倒しながら食料まで手に入れられるんだぞ? このサバイバルにあまりにも適合してないか?」


「相手から出てきた粒餡とかぜっっったい食べたくない!」


「強いと思うんだがなぁ……」



 意見の相違にむくれ顔になった大男は、口を膨らませながら続きに目を通す。

 おおよその意見は一致していて一安心だ。



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