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準備不足:sideクロックマスター



「そう、我ら教授班! 班長たる私は科学界に燦然と煌めく一番星こと教授さ!」



 この周囲にすでにビルはない。

 だというのに教授は空から降りてきた。

 答えは簡単だ。



「大気操作か!」


「はーい、野薔薇ちゃんのカッコいい大気操作ですよー!」



 見上げれば、上下に桃色ジャージを着込んだプレイヤー『野薔薇』が、空の上に浮きながらピースサインを繰り返している。

 その後ろにはドレッドに、ジーニアス。

 そして眼鏡をかけた『ノウン』という男プレイヤーも控えていた。



「ちょっと、ねえ、どういうこと!? なんで教授が!」


(そんなことは、決まってる)



 今、事実として起こっているのだから間違いない。

 だからこの班にだけ、能力無効化持ちが配属されていないのだと考えれば辻褄も合ってしまう。



「教授は……初めから俺たちの班を殺すつもりだったんだ!」


「ンッン~、ご名答! 流石はクロックマスター君だ! となれば、わかるだろう? もう君たちは脱落するしかないのだよ!」


「ぬかせ!」



 教授は鼻歌交じりに歩き始める。

 瓦礫の上を、ただ散歩するように。

 それを援護するかのように大気が舞い上がり、周囲の瓦礫を浮かせ始めた。



「飛ばしてくる、斥力で打ち落とせ!」


「わ、わかった!」



 だが六班にだって遠距離攻撃能力は居るのだ。指示通りに周囲の瓦礫を吹き飛ばし、時に蹴飛ばして礫をまき散らす。


「は、させるかよ。無礼苦ゥ!」


 天頂からの怒声と共に、ドレッドの持つ能力無効化が起動する。

 当然、消すのは斥力だ。


 だが、



「何ぃ?」



 礫の連射は止まらない。

 浮き上がる瓦礫を削って弾いて、予備動作の内に全てを叩き潰していた。

 

 ついでとばかりに瓦礫ショットガンが教授へと殺到するが、その全ては白衣に触れるか触れていないかというところで力を失い、自然落下してしまう。



「フッフッフッフッフ、イ~ッデオ!」


(くそ、指定浮遊だったか? あの礫を全部いなせるってことは範囲に使えるのか?)


「素晴らしい! ドレッド君の能力無効化が止められたのは驚きだ。一体どうやったんだい?」


「言うわきゃねえだろがボケェ!」



 関西弁をうならせながら、『強制老化』持ちの男は後ろ手にお札を握りしめていた。

 あらゆる能力効果を遮断する障壁札だ。

 もちろん、受けた効果が能力無効化だったために、すでにその効果は失われてしまったが、一瞬だけでも身代わりになれる。


 班員全員には戦闘補助の結界符がすでに配られており、実質的な裏の切り札となっていた。

 すでに作成済みのアイテムなのだから、展開後に改めてアイテムの方の能力を消さない限りは有効となる理屈だ。



「そりゃあそうだ! ドレッド君、もちろんすぐにクロックマスター君を封じ直したね?」


「ああ、やってる!」


(……ちっ、隙を見逃すなよ俺! 馬鹿か! 気圧されるな!)



 会話の内容から、どうやら時間停止を封じているのはドレッドなのだろう。

 だとするとなおさら、違和感を覚えざるを得ない。



(……おかしい、俺が能力を使えないことじゃない。事象無効化が開幕の一度しか発動されていない。俺だけじゃなく、二人とも能力を消されている? 複数をまとめて無効にできるなら、最初から結界符や斥力も発動できないはず。なんなんだこれ)



 クロックマスターはちらりと右を見る。

 不死狩り最強たる『事象無効化』は苦悶の表情を浮かべていた。



(くそ、障壁札は一枚しか無い)



 クロックマスターが視線を移せば、新しい札をまさに今作ってくれている最中だ。

 だが、時間が足りない。

 敵がもう一手を加えるだけで戦線は瓦解するだろう。



 冷や汗流すクロックマスターの肩を、関西弁の男がポンと叩いて前へ出ていく。

 怒気を表情に孕みながら方言が紡がれた。



「……おい班長。俺ぁ遠距離じゃお荷物だ。斥力で飛ばしぃ」


「は?」


「教授の方でも、あの大気操作のクソガキでもええ。その隙に逃げぇや、二班と合流しいな」


「け、け、けど、それじゃあ……し、しんじゃ……」


「舐めんなや。失敗したら最強サマが俺の発射を無かったことにしてくれる。せやろ?」



 チームの生還を考えるなら、一番いいのはクロックマスターが時間を止めてメンバーを運ぶことがまず挙げられる。

 それを成すにはドレッドの意識か、あるいは優先順位を崩さなければならない。

 一発限りの不意打ち案としては、下策ではあるが無しでもなかった。



「もちろんだよ。私は今、押さえられている。なんとか活路を開いて欲しい」


「任せぃや!」


「う、ほ、ほんとにやるからね!?」


「ぐだぐだ言わんと、やれえぇ!」



 幸いにも、一班はまだジーニアスとノウンが動いていない。

 チームメイトの捨て身の覚悟に応えようと、クロックマスターは固唾を飲む。



「よし、いっけぇえ!」


「男魅したらあぁぁぁああ!」



 耳を(つんざ)く轟音と共に、人が砲弾のように飛ぶ。

 わずかでも隙を、少しでも活路をと、重力の楔を断ち切って真っ直ぐに野薔薇へと向かい、



 男は空中で、唐突にぐしゃりと圧縮された。



「……」


「イ~ッデオ!」



 教授のかけ声と共に速度が無くなり、肉団子が落下していく。

 時間は止まらない、事象も無くならない。



(それだけは)



 二つ同時に無効にされている。

 つまり、無効化能力者は二人いる。



(それだけは、信じたく、なかったのに)



 クロックマスターは振り返る。

 増援を打診してからまだ数分、到着までがいくらなんでも早すぎた。



(なんで、アンタまで、最初から……!)



 ──ジャンヌ班の四名が、挟み撃ちの形で陣取っていた。



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[一言] >>男魅したらあぁぁぁああ! しゃしゃり出たモブから死んでいくスタイル好きですw
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