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急襲:sideクロックマスター


 真っ先に出発した不死狩りクロックマスター班は、倒壊したビルの瓦礫を踏み越え進軍していた。


 彼らの担当は真北であり、北西の教授班、北東のジャンヌ班と連携することになっている。

 大樹の向こう側ということもあり、怪獣に踏みつぶされた残骸やら隆起した根やらで足の踏み場は最悪だった。



「隊長~、あそこの瓦礫どかしていい?」



 先頭を進んでいた『斥力操作』の少女が、すぐ後ろのクロックマスターに声をかけた。

 横転したビルという信じ難い眺めを廃し、道を作りたいのだろうことは理解できる。

 元が十数階建てなのも相まって回り込むのも面倒なのだ。



「だめだ」


「えー? なーんーでー!」


「わざわざ能力を周囲に見せつけるなっての。確かに俺たちは強いチームだけど、無敵ってわけじゃないんだぞ?」


「でもでも、せっかくだから能力使いたいじゃーん!」



 ゲーム感覚、と言うのも変だが、危機感に薄いプレイヤーは多い。

 この班のメンバーには特に顕著な傾向だった。

 なまじ強い能力を得た万能感に加えて、『せっかくだから使ってみたい』という欲求にはあらがい難い。

 止める側に立てているクロックマスター本人だって、不死者に追いつめられた経験がなければ未だに天狗鼻だったことだろう。



「気持ちは分かるが落ち着け。焦る道行きでもないんだ、どこかの窓とかから中に入って、突っ切れるか調べてみよう」


「えー!?」


「班長はん、そない難儀な遠回りする必要あるんかいな」



 口を挟んだのは『強制老化』の関西弁男。

 触れた相手を一瞬で老化させると聞くと極めて恐ろしいが、戦闘以外では手持ちぶさただ。



「徹底するようにって、班長会議でも言われてるんだよ。そうした方が勝率があがるんだから、上等だろ?」


「はー、しょーもな。なんのための最強能力やねん」


「そーだよー! それに、不死狩り最強だっているじゃんねー!」



 不満げな二人から話を振られた不死狩り最強──『事象を無かったことにする能力』を持つ男は、最後尾で口の端を持ち上げる。



「私が居るから大丈夫。なるほど、それは当たり前でしょう! 私は全てを無かったことにできる。それが事象であるならば、どれだけでもやり直せるのです」



 使ってみてのお楽しみだが、あるいは不死者の再生すら止める可能性がある。

 他が無効化能力者を引き連れていったのだからと、教授とジャンヌが編成してくれた男だ。

 性格に難はあれど、強力な味方なのは間違いない。



「……ああもう、わかったよ。ただし消音の結界札を貼った後でな? そんで、すぐに済ませてくれ」


「やったー! そうこなくっちゃね!」


「というわけで、悪い。頼めるか?」


「え? あ、は、はい……!」



 そう声をかけた相手は、クロックマスターの隣を歩いていた気弱そうな少女。

 彼女は消音と達筆で描かれたお札を取り出すとビルの壁にペタリと張る。



「こ、これでいいですよ……?」

「よーし、斥力いっきまーす!」



 少女は嬉々として斥力を操作する。


 何かが爆発したかのように粉塵が吹き荒れ、同時に横たわっていたビルが強烈な勢いで吹き飛ぶ。

 能力を使われた場所から中折れして瓦礫が舞い踊った。


 吹き荒れる風と土煙、だが一切の音は消されている。

 とはいえあまりに目立つ結果にクロックマスターは頭を抱えるしかない。



(ガス抜きもしないと、多数派を取られたら班長から力づくで降ろされる。かといって派手な行動を続けると不利になる。どうすりゃいいんだよ)


「よーし、出発進行!」


「おーおー派手にやりおったのぉ!」



 中間管理職の悲哀をゲーム内で痛感していた彼の肩を、隣を進んでいた少女が叩いた。



「あ、あの……大丈夫?」


「あー……まあ、なんとか。ありがとな?」


「ううん、えっと、頑張るね」



 大人しめな少女の能力は『結界生成』。

 一定範囲にルールを制定する能力だった。


 先んじてアイテムである符を作成しておくという準備こそ必要だが、準備した分だけ文字通りに手札が増えていく。



「早く移動しよう。かなり開けて障害物がなくなってるんだ、ここは危険だぞ」


「はーい!」


「へいへい」



 やかましいムードメーカー二人を先頭に班は進む。

 今後はどうやって彼らとコミュニケーションを取るべきかと、思考を巡らせていた。


 だから気づくのに遅れたのだろう。



「……ん?」



 突然、周囲が暗くなった。

 太陽が雲に隠れたのかと、何の気なしに空をみる。


 班の頭上に巨大な鉄骨が何本も浮かんでいた。



「は?」


「なに、どしたの?」


「なんやなんや」



 他の班員が異常に気付くより前に、頭上の大質量が落下を始める。



「──時よ止まれぇ!」


「えっ?!」


「なんやねん!」



 刹那、クロックマスターは死を覚悟した。

 前を往く二人の声が聞こえたからだ。

 それはつまり、能力が発動できていないことを意味していた。



(なんで)



 なにもできないまま、ただ、赤錆た金属の雨が眼前まで迫り──



「か、干渉結界!」


「事象よ、戻れ!」



 触れるかというその瞬間に鉄骨は消え、最初の高さに戻った。



「なっ……」


「今の落下を無かったことにしただけです! 走って!」



 誰が叫んだか、何が起こったか、状況判断をする猶予は無い。

 ただ全員が走り出し、間一髪で下敷きになる未来を回避した。


 すぐさま振り返り、瞬時に頭上を確認し、最後に周囲を見渡す。

 敵影が見えない。



「敵襲! 総員警戒!」



 先ほどまでの温さは顔から消え、全員が臨戦態勢へ。

 敵の不意打ちなのは間違いない、だが強烈な違和感と不安がクロックマスターを支配していた。

 どうして能力が使えなかったのか。



「お、お、応援を……教授さんに……」



 結界生成の少女がトランシーバーを二個取り出す。

 担当地域の右隣および左隣、ふたつの班の周波数と合わせられた緊急連絡用だ。

 真っ先にリーダーである教授へと救援を求めようとした彼女を、クロックマスターは止めた。



「そっちじゃない」


「……え?」


「ジャンヌ班に連絡してくれ! 至急救援求むと!」


「なんでや! 両方呼べばええやろが!」



 空に浮いた鉄骨の山。

 重力系の敵かと思ったがそれだけではない。


 敵は複数で、物を浮かせて能力を封じる。

 どちらもできるチームをクロックマスターは知っていたのだ。



「敵は教授だ! 教授班なんだよ!」



「ブラーヴォ! 素晴らしい洞察力だよ!」



 その声と共に、見覚えのあるシルエットが空から降ってくる。

 白衣をはためかせながらの、無傷無風の見事な着地。


 だが登場の意味合いは、一度目とは真逆になってしまっていた。



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