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『死に戻り』の倒し方



「もうこの広場から移動することになるな。私の仲間も私たちを見失うことになるかもしれない。しかもベートーヴェンなんぞを入れてきたことで、貴様は私の隙を探しやすくなっている」


(何が言いたい?)


「なに、貴様には今の内に教えておかなければならないと思ってな」



 セナの背後でライターの点火音が聞こえた。

 息づかいと熱、吐き出される白煙が嫌いな香りをまき散らす。



「このゲーム、私以外には絶対に倒すことができない能力者が参加している」


(……は?)


「言葉の通りだ。私が貴様に声をかけたのは、その能力者たちを殺すための手駒に丁度良かったからだ」



 本心では聞きたくなかった。

 だが理性は聞くべきと叫んでいた。

 

 セナの思考は板挟みになり、結局はあらがうことができない。



「イデオ名は──『死に戻り』」


(……っ!)



 まさに教授が壇上に上がろうというところだったが、もうそんなものは見えていない。

 サトリの言葉の通り──いや言葉以上に、凶悪でかつ実在が確信できる能力名が出てきたのだから。



「貴様単独では対処不能の能力者だ。私が見つけ、貴様に伝え、ジャンヌに指揮させ大鼠で討つ。この第二班にしか倒せない」


(……それはもう、不死への対処と同じだ。お前にしか倒せない、なんてことは)


「お前もわかっているだろう? 私にしかできない。死に戻りや時間遡行(そこう)といった能力は……有無や所有者を知れなければ対処不能だからだ」



──『死に戻り』


 最近の創作でよく見かける、最強の呼び声が高い能力の一つだ。

 その力はシンプルで、『死んだら一定時間前の己の肉体に意識が戻され、そこからやり直せる』というもの。


 能力者以外の者は、その能力の真価を見ることはできないし、いつ発動したかを知ることも、何回使用されたかを推し量ることもできない。

 能力者にとってどん詰まりの未来で起こることがまるまる無かったことになるのだから、未来予知の能力者なんかが居たとしても見つけるのは困難だろう。


 知らず知らず繰り返されるトライ&エラー。

 本来知らないはずの情報をかき集め、バレないように練った計画を全て看破され、隠し続けた弱点をあっさりと突かれる。

 死に戻り能力者が諦めない限り、永遠にチャンスがあるとも言えるのだ。


 これはセナに限らず、あらゆる参加者を表面上あっさりと倒しかねない力だった。



「『不死』なんかより『死に戻り』を一分一秒でも早く殺す方が先決だ。奴らだって不死は倒せない。本来は天敵のはずの無効化能力者をある程度まで生かしておく必要がある。だから今が、最も倒しやすいタイミングのはずだ」


(それは、なぜ?)


「殺した相手が無効化能力者かどうか、死に戻り側にも判断する手段が無いからだ。下手に数を減らして詰んだり、自分から飛び込んでいって能力を消されて自滅……奴らはこれを最も恐れる。だからしばらくは隠れて観察を続けるに違いない。これから不死狩りが各地で戦闘し、目撃者から情報は止めどなく拡散され、または取引材料になるはず。貴様の想像よりずっと時間はない」



 聞くからに正論、かつ論理的な思考だった。

 理詰めを繰り返すこの感覚は将棋とも少し違う。

 まるでコンピューターの演算か何かを相手取っているような。



「能力の内訳さえ判明すれば、奴らはある程度の無鉄砲な自爆特攻ができるようになり、それによって得られる情報の量は格段に増える。進行ルート、野営の地点、隠れ家の場所、一人になるタイミング……。何一つ漏らしてやる義理はない」


(……)


「理解したか? 私には唯一無二の利用価値がある。寝首をかくことばかり考えていないで、建設的な思考をするんだな」


(お前のこと、大嫌いだよ)


「私は貴様を気に入っているぞ? 使い勝手が良いからな」



 セナは後ろに立つサトリの足を踵で狙って踏みつけにかかる、があっさりと避けられてしまった。

 あからさまな舌打ちをしてみせるが、振り返るのも目立つので反応を見ることはできない。


 壇上では、いつの間にやら始まっていた教授の演説が、まさに佳境を迎えていた。



「──我々は一時の同盟だが、かといってせっかくの繋がりを蔑ろにする理由は無い! この場には27名の参加者が居る。参加者の四分の一がここに集っているのだ。これは間違いなく最大勢力である! 万が一にも諸君等が危機に陥るならば、それほどの能力者は不死でなくても打ち倒さねばならない。だからこそ連絡は密にし、隣接担当班からの救援要請には確実に耳を傾けることだ! 少なくとも、この同盟に参加した我々の中から優勝者が出るべきだと私は思う。そうなってこそ、我々27名の選択が正しかったことが証明されるのだ!」



 冷静な者、興奮で顔を紅潮させる者。

 顔色は様々、思惑も様々。

 かき集められただけの集団ではあるが、個々が持つのは各々の想う『最強の能力』。

 未熟ではあるが組織と成り、拙いながらも連携を得た。

 最大勢力『不死狩り』が、ギラギラと目を輝かせて発起人に同調する。



「さあ、いくぞ。この場にいない全てを根絶やしに! 進め最強の軍団よ! この世界を勝ち鬨で埋め尽くせ!」


『うおおぉぉぉおおお!!』



 突き上げられた拳と雄叫びを見ていた部外者は、何人居たのだろうか。

 摩天楼の谷間から六方へと狩人たちが進軍を開始する。


 クロックマスター班が北へ、軍曹班が南東へ、小町班が南へ、クック班が南西へ──



「では皆様、参りましょう。まずは手はず通りに北東へ」


「おう!任せろ!」


「畏まりました」


「……ん、了解」


「了解した」



 返答を確認してからジャンヌも歩き出す。

 そこで舞台から降りてくる途中の教授と目が合い、意味深な間が数秒続いた。

 視線が外され、それぞれのメンバーが交錯する。


 教授、ドレッド、ジーニアスに加えて、学校指定に見える桃色ジャージの少女と、眼鏡をかけた男。

 教授班は予定通りに北西方面へと進んでいった。



~~~~~~~~~~



 聖女ジャンヌ率いる班は、ビルの隙間の路地へと消えていく。

 広場上空には燕が一羽、旋回し優雅に飛んでいた。


 最後の見送りは鳥なのか、というとそうではない。

 ジャンヌ班の後ろ姿を見送る潜伏者がまだここにも一人。



「……頑張ってね、セナ。アタシも頑張るから!」



 ビルの一室から見下ろしていた幸もまた、ザックを背負っての最終確認。

 取り出した方位磁石を確認して目的地を見据える。


 もう片方の手には、セナが殴り書きをしたノート──幸ノート2を握りしめていた。



「まずは南へ、だよね」



 これまでにない気力を漲らせ、フンと鼻を鳴らす。

 最大の好機と相方の信頼をモノにするために、少女も会議室を後にした。





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