班分け
あからさまに睨みつけながら、サトリに突っかかってみることにする。
「お前の目的はなんだ」
「優勝だ。それは愚問だな」
(……そりゃそうだ)
自分のペースというものがガタガタに崩されていることをイヤでも自覚させられた。
「なら、どこまで協力する」
「さあな。そういう気分になったらこちらから声をかけるさ」
「お前……!」
「文句はないだろう?」
正確には『文句は言わせない』だろうが。
そう思うにとどまる。
洗脳には利用価値があるのだから、まだ殺されもリークされもしないはずだ。
「お前を組み込んだ作戦は立てられないって事だな」
「おーおー、私を組み込む? 立場の差をまだ分かっていないらしい」
「ああくそ、わかったよ!」
教授たち首脳部を消すことはサトリにも利することだろうに、つくづく読めない不気味な男だ。
しかもこいつのせいで、最後の一人に悩むこともできなくなった。
使い勝手の良い駒という形で『天下一』を取り込むことも選択だったが、フルコピーを利用しての作戦を全て読まれるというのもよろしくない。
天下一は毒にも薬にもならないチームに放り込むとして……。
(最後の一人として、本来の目的にも、それ以外の目的にも使えそうなプレイヤーは……)
幸のノートと映像記録を見比べて、悩みに悩んだセナが出した結論は。
「──プレイヤーNo.22『ベートーヴェン』。このプレイヤーをチームに迎え入れる」
サトリの、サングラスの下の眉根がピクリと持ち上がった。
スマホの画面には、丸眼鏡にタキシードでピシっと決め、山高帽を被った老人が映されている。
洒落た茶色いステッキを持ち、それで地面を叩くことで能力を使っていた。
そのイデオは『音を消す』というものだ。
「……そのご老人。音を消すことしかできないはずだが。なぜそれを選ぶ」
サトリの言葉に、セナの思考が動きそうになる。
こうやって呼びかけることを呼び水にして、深層心理まで解析しようというのだろう。
だが、今回ばかりはその手は通用しない。
「……なに? 貴様、やけになったか?」
サトリの表情が、初めてはっきりと変わった。
それにしてやったりと思わないでもないが、正直自分でも博打にしかなっていないのはわかっている。
「さあね。何度でも考えてやろうか。幸のメモでオススメされていたから入れる。それだけだ」
「……」
そう、セナは今回の意志決定から自分の意見を極力排除した。
それはサトリ以上の不確定要素を取り込むということであり、ただ不利に陥る可能性も高い。
一方で、全く打算が無いというわけでもない。
(音を消せる。それはつまり、トランシーバーを無意味にすることが可能という事だ。誤情報や伝達齟齬で、使いやすそうな洗脳能力者を失いたいか?)
セナにできることは多くない。
だが、居るかも知れないサトリの仲間。
その存在へのケアが完璧に整ったときに反撃は始まる。
(洗脳能力者であることがバレれば、自然と僕を狙う勢力が生まれてしまう。それを出汁に良いように使われて終わる僕じゃない。ここで不利を被ってでも、最後には逆転してみせるさ。最悪から勝機を見いだすのが対局なのだから)
「……ふん、好きにしろ」
サトリは部屋の隅に移動し、これ見よがしにトランシーバーをイジったり、小声で話し始めた。
ここでバラすわけはない、圧力をかけているだけ。
そう言い聞かせて目を閉じる。
ジャンヌにメンバーを決めさせ……同盟に入った第二の目的を達成するために。
~~~~~~~~~~
「では諸君、今度の今度こそ、この組み合わせでいいね?」
「ええ、これで、いいでしょう」
議論は紛糾した。
それはもう、プレイヤーの取り合いだった。
人数的に六チーム作ると宣言したのに無効化能力者が五名しか居なかったとか、不死に対して意味が薄い能力やら協力しづらい能力なども入り交じっていたとか。
皆、組む以上は有利ではあるが、さておきチームメイトは役立つ相手が良いものだ。
「ですが教授殿! この組み合わせではクロックマスター班が強力すぎるうえに浮いているのでは!」
そう声を上げたのは、『軍需品創造』のイデオを持つプレイヤー『軍曹』だ。
彼も班長に任命され、無効化能力者たち用の武器を制作しながらの参加となった。
「まあ、それは俺も少し思ったけどさ。なにせ内訳が『時間停止』に『斥力操作』、『強制老化』と『結界生成』、極めつけが『事象を無かったことにする能力』だろ? 過剰戦力すぎる」
問題の班長に任命されたクロックマスターは、沸いた意見に少々申し訳なさそうに後ろ頭を掻いていた。
事象無効化が不死にどう作用するかは不明だが、足止めや生け捕りなら問題なく行える最強メンバーなのは間違いない。
そこで声をかけたのは、進行役の教授ではなく、ジャンヌだった。
「無効化能力者が入らない以上、相手の攻め手を防ぎにくい。あなたの班は生け捕りチームです。そのあたりを考慮して、他のチームよりも人数や能力者の質を尖らせましたが……それらは全て、クロックマスターさんたちの力が間違いのないものだからです」
時に力強く、時に勇猛に声を上げていたジャンヌが、今は表情からして慈悲深い。
その微笑みは事実として、その場の何人かの心に光を照らしてもいるだろう。
クロックマスターもその一人だ。
(助けられて良かった。形はずいぶんと変わっちまったが、大同盟に入って不死を倒せる。解散後には雌雄を決することになるだろうけど、それまでは安心だ)
自然と拳に力が籠もる、そんな男の手を聖女は優しく両手で握った。
「最も力ある遊撃捕縛隊をお任せいたします。共に頑張りましょうね」
「……おう、任せてくれ! これだけの戦力なんだ、必ず仕留めてみせるさ!」
VRゲーム内でも確かに感じるリアルな温もりを握り返し、意気軒昂な返答をしてクロックマスターは退室する。
不満の色が顔に出ている他の班長も続々と会議室を後にしていき、ジャンヌと教授の二名だけが最後まで残った。
扉は閉められ施錠される。両者が出てきたのは、それからたっぷり十五分が経過してからとなった。
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