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百番目のプレイヤー:side赤羽



「ふーん、これって赤ちゃんの押しの子だっけ?」


「カカカカカ! まあぁぁぁそうだなぁ。青城の一押しに上手いこと切り込んでいやがる!」



 モニタールームにて、赤羽はどこか上機嫌にクラッカーをかみ砕く。

 バリボリという下品な音も、プログラミングチームから拾われる情報を目で追っていると頭に入れる余裕はない。



「青ちゃんお気に入りの子、『教授』ちゃんって言ったっけ。面白い能力の使い方してたよねー。あれじゃどんなイデオかわかんないよ」


「その気になりゃぁあ、いくらでも誤魔化せるしなぁああ」


「逆に27番ちゃんって洗脳でしょ? しかも45番ちゃんに使ってる最中となると、能力紹介の時に誤魔化せないよね?」


「ま、そこは見てりゃわかるだろぉおお? 俺ぁ気に入ってるだけで応援団じゃああぁねええええええんだよぉ! それくらいの事はテメェで解決して貰わねえとなあぁぁぁああ!」



 モニター画面では、まさにこれからイデオ情報の交換が行われようとしていた。


 広い場所が欲しい、イデオ情報の共有を見られたくない。

 この二つの要望をまとめて叶えられる場所がまず議論されたが、これは頓挫となっていた。


 フィールドはビル立ち並ぶ摩天楼、となれば気兼ねなく危険な能力を使用できる広さなんて、この大樹の根の前しか存在しない。


 教授らを含めた広場前に集った人数、合計27名。

 彼らはこの場でイデオ情報を共有することに決定し、明かした者は周囲のビルの警戒に回るという形で決着が付き──プレイヤー垂涎のイデオ公開が始まった。



「あ! 3番からじゃーん!」


「萌黄の一押しだったかぁあ? 確かイデオは……」


「そう! 『ゴミを食料に変える能力』だよ!」


「カーッ! これだから二週目の連中は嫌なんだよなぁ!」



 とがった毛髪を掻き乱しつつ、赤羽の表情は少々醒めたものに変わる。


 このゲームは決して公平なものではない。

 特に今回のような大規模な回には、運営にもコントロールしきれないイレギュラーが満ちるものだ。


 ある程度の介入は望むところと広報したのは赤羽本人ではあるのだが、それは大会の盛り上がりと興行の成功の為のものだ。

 セナたちを推すことに決めた今となっては好ましい展開ではない。



「他にはどんなやつがいるんだあぁぁ?」


「えっとねー……赤ちゃんの一押しはどっちも居てー、萌の一押しはデブちゃんだけかな」


「おうおうおう、思わず俺らの贔屓が勢ぞろいってかぁ? なぁあ青城よぉ、お前も『教授』とかいうプレイヤーの今後について、話に入ったらどうだあぁぁ?」


「お断りしますが? それと、少し退室しますので後をお願いしますね」



 そう告げるやいなや立ち上がり、青城は何も語らずにヒール音響かせ出て行ってしまった。

 赤羽は萌黄と共に目を見開いてはパチクリとさせ、同時に口を開く。



「「怪しい」ぃぃなぁ?」



 付き合いの長い幹部同士だからこそ感じ取れる違和感。

 それが、ただ席を立つというその行動からむんむんに匂い立つ。



「これから嬉し恥ずかしの『僕の考えた最強の能力大公開祭り』が始まるのに、青ちゃんがモニタリングをしないとか、そんなことある?」


「ねぇぇぇぇなぁ! あいつは能力公開を見聞きしてるプレイヤーの感情だの脳の動きだのを見て涎垂らす変態だろぉぉぉおお? 気持ちよくなれるタイミングでだーれが出て行くかよぉお!」


「だよね、だよね、そうだよねー!」



 元来、幹部たちはみな一癖も二癖もある連中ではあるが、青城の振れ幅は最も落差がでかい。

 真面目な人間ほど裏側が歪んでいるというのはありがちだが、特にそれが顕著な女だった。



「となると……緑野かボスの指示だろうなぁぁあ?」


「でもさでもさ、『キラー』以外に運営が介入しちゃだめでしょ? それだって萌の担当だしさー」


「知らねえぇよ、俺ぁただの広報だぞぉぉおお?! 大方、能力上限撤廃で仕事が増えたとかじゃあねええぇのかぁ?」


「うーん、白様もだけど、緑ちゃんも何にも話さないからねー」



 緑野の名前を聞いて、ふと気になった赤羽はモニターをVIPルームへと切り替えた。


 『ジエンド』脱落直後のブーイングはすっかり無くなり、お歴々は今回の展開を楽しげに眺めている。

 特に巨大化した対不死同盟と、ターゲットと化した不死能力者たちは人気が高いようで、このどちらかに視点を合わせているお客が多い。


 そしてすでに緑野の姿はホールのどこにも見られず、姿を消していた。



「緑野の野郎、一段落したのに戻ってくる気配がねええぇぇなぁ……?」


「やっぱりなんかやってるんだー……早く戻ってこないかなー。萌もちょっと部下の様子見てきたいんだけどなー」


(お前もかよ萌黄ぃ)



 聞こえた一言に、酔った頭が思わず『その席で仕事できるだろ』と口走りそうになったが、酒瓶をくわえることでギリギリ抑えた。



「……なんだぁ? キラーの件で相談かぁああ?」


「まあそんなとこー」


「小黒のやつ、上手く波乱を演出してくれるかね」


「黒ちゃんベテランゲーマーだし、いつも通りじゃないの?」


「ハッ! 今回は能力上限青天井だろぉぉおおおが! いくらマシーン小黒とはいえ、無効化の山が相手じゃ一瞬でお陀仏だろうがよぉ!」


「うーん、こればっかりはなんともねー。だからこそちょーっとお仕事が増えちゃってるんだけど」



 赤羽はモニター欄をちらと確認する。

 ゲーム内の参加者人数と現在生存者は常に観測し表示されていた。その分母は『100』。



(百番目のプレイヤー……賭けを面白くする運営側の殺戮マシーン、キラーか。エンタメとしちゃ賛成だが、本当は毎回の参加者人数が99人ってのは、広報担当としちゃ微妙だよなぁ。景品表示法違反だぜぇ)



 プレイヤーキラーであるコローロ幹部『小黒』の位置は最初からモニタリング済みだ。

 今回のゲームの流れから考えれば最適な立ち位置なことも考えると、他の幹部から情報を得て動いている可能性は高い。



「小黒はもう動き出してやがるじゃねえか? こっちからやれることなんてあんのかよぉぉおお!」


「そこはその、こっちにも色々あんの!」



 結局はヘソ曲げられそっぽを向かれてしまった。



(可愛げねぇくせにめんどくせぇ。同じガキなら、プレイヤーに混じっている学生どもの方がよっぽど大人びてやがる。まあいい、ゲームは間違いなく面白い流れだ。教授に、キラーに、あのデブ……すでに波乱の種は出尽くしたか?)



 思えば、揃いも揃って大同盟と敵対者しか観測していなかった。

 脱落人数まで含めると、およそ半分近くのプレイヤーは未だに対立構造に加わって居らず、そもそも存在にすら気付いていない者が多い。



(さて、なーんか面白ぇ伏兵はいねぇかな……っと)



 広い摩天楼フィールドを運営特権で丸裸にして、不死狩り同盟周辺を一斉にサーチする。

 やはり何人かは大きな動きに気付いて接近を始めたり、逆に潜伏に舵を切ったりと色が出始めているが──



「おぉ!」


「うわぁ! い、いきなり変な声出さないでよー!」



 酔っぱらいも思わずだらけきった居住まいを正す。

 それほどの光景を偶然にも見つけ、ワインに染まった犬歯が表出し笑顔を作った。



「おい、X227のY169を見てみろよ」


「えぇー? イデオ暴露合戦見てたいんだけどなー……」



 むくれる萌黄がモニターを切り替えると同時に、彼女もまた目を輝かせ始めた。

 七夕でちゃんと星空を見られたかのような、珍しさに心躍る気持ちが共有される。



「うわー、あの子ちゃんと生き残ってたんだ! しかもこんなに早くにすっごい漁夫の利!」


「こりゃ、祭りに花を添えてくれそうだなあぁぁぁ!」



 共有された画面には裏路地が映されていた。

 二人のプレイヤーらしき人影が、緩慢な速度で歩みを進めている。


 片方は背中から血液を溢れさせつつ、それを意にも介さない。

 もう片方は傷口ごと体表全てを能力由来の青白い殻で覆い尽くし、見た目はもはやファンタジーに出てくるゴーレムのようだ。



 彼らのプレイヤーネームは、『さとうきび』と『ダイアマイト』。


 物言わぬ両名は静かに、幽鬼めいて摩天楼の闇へと消えていった。



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