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舌戦 ~ レッテル貼りの厄介アンチ


「うおぉっ!?」



 驚愕にたたらを踏むクロックマスターなど眼中にないかのように、彼女は動いた。



「驚かせてしまい申し訳ありません。ですが、私には納得致しかねます」



 共闘者から離れ、一歩、また一歩とシスターが歩み出て瓦礫を上る。

 威風堂々たる立ち姿は、つい十数分前の戦闘を見ていたものならば感じ入るものもあるかもしれない。

 教授と同じ高さまで上ったことで、対等さの演出は極まった。



「私はプレイヤーNo.45、『ジャンヌ』。どうぞ皆様、一度冷静になってお考え直しくださいませ! 今この場で教授さんの意見に全て従うことの誤りに気付かなければなりません!」


「ほぉ?」



 その一言は波紋を呼び、熱気に冷や水が浴びせかけられる。

 この女は何を言うつもりなのか。

 だが、最前線で戦っていたプレイヤーの言葉とあっては教授も無碍にはできない。



(さて、教授。美味しいところを独り占めなんてズルいじゃないか。僕にも分けてもらうぞ)



 セナは舌戦に備え、静かに瞼を閉じて意識を集中させた。



「それはどういうことかな、シスタージャンヌ?」


「どうもこうもありません。無効化のイデオ所持者の身の危険を、貴方は考えていないのですか?」


「はて、言っている意味がわからないよ?」


「とぼけないでください! ならば尋ねますが、不死者の討伐が終わった後はどうなるのでしょうか? その場で役目は終わったから解散だ、となるのでしょうか! そこで無効化能力者たちの『処分』を考えるのでは!?」



 セナはまず、プレイヤーの不安を煽ることに決めた。

 特に今回最も重要な無効化持ちは、直接戦闘力自体は不死よりも劣る。

 本来はプレイヤー達に疎まれこそすれ、持ち上げられる展開になどなりにくい彼らに、『教授こそが救世主である』などと目され神聖視されてしまうのは看過できない。



「それはもちろん──」


「そもそも、解散の時期だって不透明じゃないですか! だって、不死者の正確な人数なんて誰にもわからない! プレイヤーの人数とイデオの内容を正確に知ることができる者だけにしか判断は下せないのです!」



 理知的な反論は被せて殺せ。


 このジャンヌというプレイヤーは、先程まで勇敢に戦っていた人間だ。

 そういう者の言葉は、理屈から多少外れていても耳触り良く納得してしまう力がある。



「そんなプレイヤーが都合良くこの場にいらっしゃると? いらしたとして、情報戦特化な己のイデオを明かしてくれるとでも? そんな保証は全くない! 希望的観測を抜きに考えれば、同盟の解散決定のタイミングは実質的な結成者である教授さんの胸先三寸となるのは必然でしょう!」



 第二に、とにかくしゃべり続ける。

 自信満々な態度と勢いさえあれば、理屈抜きに心が傾く人間が一定数存在する。


 舌を回し続けろ。



「……そんな情報戦特化プレイヤーも、我々が守護し、確実に不死者を滅する方向で協調する。だからイデオを教えてもらう。それでいいのではないかね? 声をかける前から決めつけるような発言はとてもじゃないけど議論向きとは言えないねぇ! そうじゃないかね諸君!?」


「なるほど、我々が守護する。その我々とは誰を指すのですか?」


「……」



 第三に、教授の印象を貶めながらジャンヌの心象の上昇を狙う。


 これも当てこすりのような、破綻した理論でも構わない。

 とにかく教授の方針に真っ向から対立する反抗勢力として立ち振る舞って受け皿を作るのが目的だ。


 だから、『これ以上は叩いても無駄』だと思った箇所は捨て置いて、次の問題点を捻り出す。



「不死の討伐に不必要なイデオの持ち主の処遇は? この場の全員の安全を貴方は確実に担保してくださると? 貴方は人間一人分のキャパシティしか持ち合わせていないのに、よくもそんな安請け合いができるものですね」


「オーケーオーケー……シスタージャンヌ、君は何が言いたいんだね? この私の提案は理に叶っているもののはずだ! なんといっても、ここで協力しなければエンドゲームを迎えることはできないのだから!」


「その点については私も同感です。戦って実感しましたが、やはりあれらを確実に倒すためにはイデオ無効化能力は必須。ですが、だからといって、その事実が教授を信用することには繋がりません」



 そしてここが一番大事なところだが、教授とセナで意見が合致している部分は決して叩かない。


 不死同盟の必要性、イデオを教え合うなど、互いの旨味はつまませてもらう。

 この大前提を崩さずに険悪な関係になるため、最も簡単な方法は『感情論』だ。

 信用できないと言って怒鳴るだけでいい、それだけでアンチスタイルの出来上がりなのだから。



「あーはぁ~ん? つまりなんだ、君はこの私が信用に足らないと? たった今、こうして快い有志と共に君の仇敵を葬ったところだというのに!」



 微かに教授の眉根が上がる。

 苛ついてくれたなら御の字、そう考えて一気に畳み掛けに入る。



「ええ信用できませんね。貴方という人格もですが、この人数の能力者をまとめ上げるという点でも不可能だと考えます。そして、貴方という存在を監視する者……監査役だって組織内には必要でしょう。我々は仲間ではなく、単に不死者を滅するために共同戦線を張るだけ。会社組織のようにドライに考えるべきです」



 セナの目的はまさにその『監査役』を押さえることにある。

 ジャンヌが組織のトップに意見できる立場になれれば、独裁も防げるしセナの意見も通しやすい。



「教授さんだって、まさかゲリラ戦法を仕掛けてくるだろう不死者たちに対して、一丸となって当たろうなどとお考えではないでしょう? 部隊が大型化すればするほど相手に先に位置を気取られ逃げられやすくなり、こちらは狭いフィールドに逃げ込まれたときに追いにくくなります。本陣を決め、いくつかのチームに分けて行動し、各個撃破を狙う……それこそ最も合理的な不死者狩りになるとは思いませんか?」


「そのチームとやらの一つを、自分に任せて欲しい。そういうことかな?」


「その通りです、が、私以外にも貴方に不信感を抱く者を一人か二人選出すべきです。少なくとも私は、貴方に良いように使われるのは御免ですので」


「……はぁーっはっはっはっはっは! はっきりと言われてしまったなぁ! 嫌われたものだよ!」



 険しかった顔が崩れ、教授は腹を抱えて笑う。

 目のはしに涙まで浮かべ、こいつは傑作だと吹き散らして──次に開かれた瞳は猛禽類のような獰猛さを帯びていた。



(……!)


「諸君! どうやら命を救ったのに嫌われてしまったようだよ! だが運営方法に理がある意見なのも事実だ。そこでどうだろう、ここで全員のイデオ能力の共有を行い、その後は六つのチームに分割する。集まってくれた無効化能力者の人数次第だが、これらチームがフィールドを捜索し、不死及び同盟外プレイヤーを倒す! 解散の時期に関しては参加者の合議制でいこう! 異議の無い賛同者は沈黙を、異議のあるものは意見を述べてくれ!」



 賛同者は拍手、ではなく、賛同者は沈黙。



(そういうところが本当に小狡いな、あの女)



 この同盟は旨味が大きい者が多い上に、今更ここで背を見せれば二十を超えるプレイヤーが敵に回るのも自明。

 結局、この広場にのこのこ現れた時点で、異議を唱えることなど誰にもできない。



「んっん~……沈黙は黄金なり。君たちの賛同に感謝するよ!」



 こうして、全プレイヤーの四分の一ほどで結成される大規模連合軍「不死狩り」は、数多の思惑の上で成立が決定した。


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