幼女による独裁組織の作り方
御高説を窓から聞いていたセナは、その内容に思わず舌打ちをしていた。
こういうまとめ役は必須だとはわかっているが、演説巧者になればなるほど脅威度も高くなる。
それに加えてあの意味不明な能力。
(厄介だな)
「なので私からの提案だ! この対不死同盟に是非とも奮って参加して欲しい! 特に、そう特にだ、能力無効化のイデオ持ちの諸君! 君たち以外に不死を消しされるものは存在しない! ここで姿を現してくれるならば、共に力を合わせて不死を討滅できるのだ! 無論、いかなる理由があっても能力無効化の君たちに攻撃することを禁止する! 非参加者に加え、これを守れない狼藉者も、我ら同盟の敵となると知るが良い!」
これからチームを結成します。
そこでは無効化能力者を厚遇します。
参加しないなら無効化能力者を加えた大同盟が相手になります。
なるほどこれは脅迫だ。
参加しなければ有志と共に纏めてすりつぶすと、あの幼女はそう宣言したに等しい。
「不死の完全なる討伐、これに賛同いただける諸君には、集ってもらいたい! 能力バトルを真っ向から否定する不滅のゾンビ軍団に、確実な死を与えようではないか!」
言い切って満足したのだろう。
教授はその場に座り込んで待機を始める。
この提案を真っ向から否定するプレイヤーも、反発する者も、まして教授を倒そうとする不埒な輩も現れることはなかった。
「ど、どうするの?」
共に演説を聞いていた幸は、まずはセナに意見を訪ねる。
熟考していたセナといえば、ブツブツと何かをつぶやいていたが、不意に止め顔を上げた。
「不死者を倒すために同盟が組まれる。ここまでは想定通り」
「うえぇ、そうなの!?」
「あの白衣が出てこなかったら僕が提案していたよ。もっとも、戦ってた修道服のお姉さんあたりに『協力』してもらっただろうけど」
洗脳はパフォーマンス向きの能力ではなく、むしろ隠匿すべき性能だ。
だからこそセナは、ギリギリまで飛び出していくつもりはなかった。
誰か一人くらい同じ事を考えるだろうプレイヤーが居れば御の字なわけで、その役目をセナが負う必要は全くない。
「これから、きっとあの場所で同盟参加者の自己紹介と……互いの能力情報の交換が行われる」
「え、なんで? セナ言ってたじゃん、イデオの内容は一番秘密にしなきゃって!」
「互いの能力がわからなきゃ、誰が不死を倒せる無効化能力持ちかわからない。搦め手向きじゃない強いイデオ持ちや対処困難なイデオ持ちなら、自分の能力がバレることより他のプレイヤーの力を纏めて知れる方がメリットの高い場合もある。そして、のこのこ出て行った癖に教えなければ、無効化能力者がイデオを封じて賛同者が粛正だ」
「うっそぉ……」
「これから作られるのは、対不死同盟という名前の独裁チーム。けど、僕たちはあの中に入っていかなきゃならない。もちろんただの独裁で終わらせるつもりはないし、一計くらいは案じるけどね」
セナにとって、他プレイヤーのイデオ情報は喉から手がでるほど欲しいものだった。
それになにより──
「なんで? 罠みたいなものじゃない? 入らない方が……」
「ダメだ。僕たちはあの中で、絶対に必要なものを手に入れなきゃならない」
「絶対必要……? そこまで言うくらい大事なものって、あったっけ……?」
「もちろん」
それはおそらく、この機を逃したらゲームエンドまで手に入らない可能性すらある珠玉の一品。
いつか起こる最大の決戦に向けての下準備の一つ。
「僕たちはあそこで、無効化能力を持つプレイヤーを仲間として手に入れる。それが最大の目標だ」
白衣の小柄な少女、『教授』の呼びかけに応えるかのように、大樹の根には二十を超えるプレイヤーが集っていた。
その中には果敢に戦っていたクロックマスターと修道女の姿もある。
セナは単独でプレイヤーに混じっていた。
幸とは別行動の最中で、彼女はこの場には居ない。
今頃はおそらく、言いつけを守るべく必要な品を探している頃合いだろう。
(幸が間に合ってくれればいいけど……)
「諸君、集まってくれて感謝する!」
声を張り上げる教授の姿にどこかカリスマ性があるのは事実で、なんというか声が良いのだ。
聞くに値する理論を述べている、というだけではない。
聞き入ってしまう魅力が確かに声質に存在している。
「ここに集ってくれた有志諸君は、それぞれがこのサバイバルを生き抜き、最後の一人を目指していることだろう! そんな全てが敵というゲーム内において、一時でも協力できるこの状況を素直に喜びたい! はい、拍手ー!」
ぺちぺちぺちぺち、と虚しい衣擦れの音が一つだけ響いた。
黙りこくった聴衆に不満があるのか、教授は眉根をすぼめて高台から睨みつけている。
「あーっはっはっはっは! ノリが悪い! とはいえそれも仕方がないことか! ならば早速本題だ。今この場で行動不能にしている不死のプレイヤー三名をとりあえず脱落させたい。イデオを使用してくれるという勇敢な無効化能力者の諸君! 名乗り出て貰えないだろうか!」
とたんに、黙っていただけ、聞いていただけの聴衆たちが一斉に周囲を見渡し始めた。
それは、自分ではないという意思表示なのかもしれない、お前が行けという意志の発露かもしれない。
押しつけ合う空気だったが、ついには群衆の中から一人、手を挙げて前に出ていった。
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