表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/148

不死能力者:sideクロックマスター



「……ぶあー! つかれたー!」


「ええ、お疲れさまでした」



 その場に座り込む少年に、労いをかける修道女。


 本来はサバイバルなのだから、共通の敵を排した今こそだまし討ちが起こっておかしくない。

 それでもなお何も起こらないのは、全員が本気でイデオを使ったことで疲労したからか、愚かにも仲間意識なんてものが生まれてしまったからか。



「……にしても、なんだったんだ、ありゃ」



 ナイフで刺しても、押し潰しても、削り取っても死なない化け物たち。

 痛みも恐怖も何もなく、愚直に纏まってプレイヤーを狩る姿はまるでマシーンだ。


 奴らは組んで、ここでプレイヤー狩りをしていたのだろう。

 

 とはいえゲーム開始から、ゲーム内時間でもまだ二時間と少しだ。

 それだけの短時間で複数人が、特攻ともとれる作戦を選んで連携できるものか?



「よくわかりません。ただただ不気味でした」


「イデオは多分だけど、不死だよねあれ」


「だろうな。そうでなきゃ説明付かない」



 ──『不死』


 特殊な能力が登場する創作では人気が高い特徴の一つだ。


 主に吸血鬼だとかの種族にオプションとして付与されて、その絶対性を高める一因となっている。

 そして、大抵の不死には弱点が存在している。

 吸血鬼ならば心臓に杭を打つ、などといった対処法だ。


 そういうものが存在しなければ、物語に終わりはなく、ハッピーエンドも訪れない。



「てことは、俺とアンタには絶対に倒せないってわけなんだよな」


「……残念ながら、その通りです。それどころか参加プレイヤーのうち、何人が倒せるかもわかりません」



 そう、これはハッピーエンドが必須の物語ではなく、慈悲無きサバイバルデスゲーム。

 不死に弱点が存在する必要は全くない。


 運営のさじ加減次第だろうが、弱点皆無な完全なる不死だとしてもおかしくはないのだ。



「だからこそ、お前のイデオは要だ」


「そっかそっか! やっぱりつえーよな俺の能力!」



 後頭部で手を組んでドヤ顔をする短パン少年、彼のイデオは『一定範囲を消滅させる』ことができるようだ。

 いくら不死といえども、存在さえしなくなってしまえば蘇れる道理はない。


 それらを加味してクロックマスターは、わざわざこの場に残って共闘した真意を告げ始める。



「聞いてくれ、提案だ。俺はこのゲーム、自分で最強の能力をひりだして、それを使って全員倒す……いわゆるチート能力無双ゲームだと思ってた。けど、違ったんだ」



 そう、考えてみれば当たり前だ。

 個々人で思いつく『最強』には個人差がある。


 だがそれでも、絶対に覆らないルールが運営に提示されているじゃないか。



「このゲームは死ななきゃ敗退にならない。なのに不死能力者が複数存在している。どんなに最強のイデオを持っていても、その最強同士で相性があるんだ」


「まるで矛盾の故事のようですね」



 そう考えると意地の悪い話だ。

 このゲーム、最後の一人になることが目的なのに、協力しなければ絶対に倒せない相手が当たり前に居ることになる。


 仮にクロックマスターが最初の奇襲でこの少年を脱落させていたら、不死者相手の対抗手段は失われていたのだ。



「だから、この三人で組もう。もちろん、不死者のような絶対に対処不能な能力者が居なくなるまでだが」


「私も同じ事を考えていました。貴方が一カ所に纏めて、私が圧縮して、彼が消す。チームとしての相性も悪くないと思います」


「俺もいいぜ! あんまり広い範囲を消すのは難しいから、団子にしてくれるなら失敗もしないしさ」



 やっぱり、リスク覚悟で大樹まで赴いたのは正解だった。


 己の判断と、共闘という新たな力を得ることに成功したクロックマスターは、思わず心からの笑顔を浮かべて手を差し出す。

 その意に気付いた修道女が、まず手を取って固い握手を交わした。

 これだけの能力者が居るならば、不死なんてただ死なないだけの一般人に過ぎないのだから。




 ドチャッ



 すぐ隣で、何かが潰れる音が響く。


 とっさに二人は振り返り、そして固まった。


 何が起こったのかすぐに理解することは出来なかった。


 ただ、つい数秒前まで元気いっぱいだった短パン少年が、人体に押し潰されて死んでいる。


 それだけの現実を受け止める猶予欲しさに、クロックマスターは時計を使う。



「──タイムストップァ!」



 色は消滅した。

 さっき最大時間を消費したため、今回は十秒ほどが限界だ。

 その事実を時計で流し見てから現状把握を開始する。



(──なんでだ!?)



 現状の理解という第一段階は一瞬で不可能だと悟った。

 ついさっき、間違いなく協力して消し去った不死のプレイヤーが、あろうことか少年を押しつぶしているのだから。



(どういう、どういうことだ、何が起こっている)



 視線を起こして左右を見渡す。

 

 すると、真上に。

 そう、クロックマスターの真上にもさっき消えたはずの不死者が、重力と己の肉体で潰し殺すため、文字通り命を落としに落下してきていた。



(こいつらどっから現れやがった!?)



 死なないにしても、消滅攻撃を食らった場所で再生するのが道理のはずだ。

 どういうカラクリかは不明だが、奴らは一瞬でこちらの真上を取っている。


 残念ながら思考の時間は無く、修道女の真上からも三人目が落下の途中なのが確認される。

 周囲のビルから、もしくは大樹の上からの、計画的な()()()()なのは明白だった。



(間に、あええぇぇ!)



 運が良くも握手を交わしていた修道女の体を引っ張り抱き上げ、横に二歩。

 そこが限界。


 世界が時を刻み始め、残り二人が瓦礫に叩きつけられ、ミシャリという嫌な音を立てた。



「き、きゃあああぁぁ!?」


「離れろ、どうしてかあいつら、まだ死んでねぇ!」



 唯一の決着手段を真っ先に潰され、すでにこの場に勝ち目はない。

 クロックマスターはもはや『無事に逃走すること』で頭がいっぱいだった。



(だめだ、わからねぇ、消滅できえねえとか、本当の本当に不死で不滅じゃねえか!)



 逃げる男、手を引かれる女。

 絶体絶命の状況に救いなんてあるはずがない。


 そう、その場の誰もが思っていた、そのときだ。



「──はーっはっはっはっはっはっは!」



 摩天楼の間を反響する山彦が、甲高い狂笑を増幅する。

 そのあまりの大音声に、クロックマスターらも、不死者たちも思わず天を仰ぎ見た。



↓広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、毎日投稿のモチベーションに繋がります!

さらに『ブックマーク』、『いいね』、『感想』などの応援も、是非よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ