不死能力者:sideクロックマスター
「……ぶあー! つかれたー!」
「ええ、お疲れさまでした」
その場に座り込む少年に、労いをかける修道女。
本来はサバイバルなのだから、共通の敵を排した今こそだまし討ちが起こっておかしくない。
それでもなお何も起こらないのは、全員が本気でイデオを使ったことで疲労したからか、愚かにも仲間意識なんてものが生まれてしまったからか。
「……にしても、なんだったんだ、ありゃ」
ナイフで刺しても、押し潰しても、削り取っても死なない化け物たち。
痛みも恐怖も何もなく、愚直に纏まってプレイヤーを狩る姿はまるでマシーンだ。
奴らは組んで、ここでプレイヤー狩りをしていたのだろう。
とはいえゲーム開始から、ゲーム内時間でもまだ二時間と少しだ。
それだけの短時間で複数人が、特攻ともとれる作戦を選んで連携できるものか?
「よくわかりません。ただただ不気味でした」
「イデオは多分だけど、不死だよねあれ」
「だろうな。そうでなきゃ説明付かない」
──『不死』
特殊な能力が登場する創作では人気が高い特徴の一つだ。
主に吸血鬼だとかの種族にオプションとして付与されて、その絶対性を高める一因となっている。
そして、大抵の不死には弱点が存在している。
吸血鬼ならば心臓に杭を打つ、などといった対処法だ。
そういうものが存在しなければ、物語に終わりはなく、ハッピーエンドも訪れない。
「てことは、俺とアンタには絶対に倒せないってわけなんだよな」
「……残念ながら、その通りです。それどころか参加プレイヤーのうち、何人が倒せるかもわかりません」
そう、これはハッピーエンドが必須の物語ではなく、慈悲無きサバイバルデスゲーム。
不死に弱点が存在する必要は全くない。
運営のさじ加減次第だろうが、弱点皆無な完全なる不死だとしてもおかしくはないのだ。
「だからこそ、お前のイデオは要だ」
「そっかそっか! やっぱりつえーよな俺の能力!」
後頭部で手を組んでドヤ顔をする短パン少年、彼のイデオは『一定範囲を消滅させる』ことができるようだ。
いくら不死といえども、存在さえしなくなってしまえば蘇れる道理はない。
それらを加味してクロックマスターは、わざわざこの場に残って共闘した真意を告げ始める。
「聞いてくれ、提案だ。俺はこのゲーム、自分で最強の能力をひりだして、それを使って全員倒す……いわゆるチート能力無双ゲームだと思ってた。けど、違ったんだ」
そう、考えてみれば当たり前だ。
個々人で思いつく『最強』には個人差がある。
だがそれでも、絶対に覆らないルールが運営に提示されているじゃないか。
「このゲームは死ななきゃ敗退にならない。なのに不死能力者が複数存在している。どんなに最強のイデオを持っていても、その最強同士で相性があるんだ」
「まるで矛盾の故事のようですね」
そう考えると意地の悪い話だ。
このゲーム、最後の一人になることが目的なのに、協力しなければ絶対に倒せない相手が当たり前に居ることになる。
仮にクロックマスターが最初の奇襲でこの少年を脱落させていたら、不死者相手の対抗手段は失われていたのだ。
「だから、この三人で組もう。もちろん、不死者のような絶対に対処不能な能力者が居なくなるまでだが」
「私も同じ事を考えていました。貴方が一カ所に纏めて、私が圧縮して、彼が消す。チームとしての相性も悪くないと思います」
「俺もいいぜ! あんまり広い範囲を消すのは難しいから、団子にしてくれるなら失敗もしないしさ」
やっぱり、リスク覚悟で大樹まで赴いたのは正解だった。
己の判断と、共闘という新たな力を得ることに成功したクロックマスターは、思わず心からの笑顔を浮かべて手を差し出す。
その意に気付いた修道女が、まず手を取って固い握手を交わした。
これだけの能力者が居るならば、不死なんてただ死なないだけの一般人に過ぎないのだから。
ドチャッ
すぐ隣で、何かが潰れる音が響く。
とっさに二人は振り返り、そして固まった。
何が起こったのかすぐに理解することは出来なかった。
ただ、つい数秒前まで元気いっぱいだった短パン少年が、人体に押し潰されて死んでいる。
それだけの現実を受け止める猶予欲しさに、クロックマスターは時計を使う。
「──タイムストップァ!」
色は消滅した。
さっき最大時間を消費したため、今回は十秒ほどが限界だ。
その事実を時計で流し見てから現状把握を開始する。
(──なんでだ!?)
現状の理解という第一段階は一瞬で不可能だと悟った。
ついさっき、間違いなく協力して消し去った不死のプレイヤーが、あろうことか少年を押しつぶしているのだから。
(どういう、どういうことだ、何が起こっている)
視線を起こして左右を見渡す。
すると、真上に。
そう、クロックマスターの真上にもさっき消えたはずの不死者が、重力と己の肉体で潰し殺すため、文字通り命を落としに落下してきていた。
(こいつらどっから現れやがった!?)
死なないにしても、消滅攻撃を食らった場所で再生するのが道理のはずだ。
どういうカラクリかは不明だが、奴らは一瞬でこちらの真上を取っている。
残念ながら思考の時間は無く、修道女の真上からも三人目が落下の途中なのが確認される。
周囲のビルから、もしくは大樹の上からの、計画的な投身攻撃なのは明白だった。
(間に、あええぇぇ!)
運が良くも握手を交わしていた修道女の体を引っ張り抱き上げ、横に二歩。
そこが限界。
世界が時を刻み始め、残り二人が瓦礫に叩きつけられ、ミシャリという嫌な音を立てた。
「き、きゃあああぁぁ!?」
「離れろ、どうしてかあいつら、まだ死んでねぇ!」
唯一の決着手段を真っ先に潰され、すでにこの場に勝ち目はない。
クロックマスターはもはや『無事に逃走すること』で頭がいっぱいだった。
(だめだ、わからねぇ、消滅できえねえとか、本当の本当に不死で不滅じゃねえか!)
逃げる男、手を引かれる女。
絶体絶命の状況に救いなんてあるはずがない。
そう、その場の誰もが思っていた、そのときだ。
「──はーっはっはっはっはっはっは!」
摩天楼の間を反響する山彦が、甲高い狂笑を増幅する。
そのあまりの大音声に、クロックマスターらも、不死者たちも思わず天を仰ぎ見た。
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