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地雷探知犬の便利な使い方


「……ならもう好きにしてくれ」


「やった!」


「ただし、指示に従わないのなら、それは僕にとって迷惑だ。だから指示は守ってもらう」


「りょーかいしました!」



 調子が良いとはこの事だ。

 立っている幸が歩み寄って右手を差し出してきたので、ため息混じりにその手を払ってやろうと──したのだが、すんでで手を引っ込められた。



「……え、なにこれ?」


「今、握手はまだできないよねーって言おうと思ってたら逆に払われそうになってなかった!?」


「気のせいでしょ。それでなんのつもり?」


「こっちにもひとつ大事なことがあったのでそれを済ませないと握手できません!」


「しないから」



 幸はフンと鼻を鳴らしてからセナをにらみつけてくる。

 飼い主に餌を貰えなかった子犬がこんな感じなのだろうか。

 そんな没意義なことを考えながら何事かわからず見上げていると、彼女はすぐに堪えきれずに破顔した。



「貴方の名前、教えてよ」



 そういえば、タイミングも無かったし必要もないと思って、自己紹介をしていなかったことを思い出す。

 深呼吸を一つ挟んでから、幸の目を見て、ここにきて初めて名乗りを上げた。



「僕は、セナ」


「セナだね! よろしく!」



 警戒はするし用心もする、それでも、初めての対等な協力者だ。

 まあそれはそれとして、セナは幸の手をやはり取らずに自力で立ち上がり、幸は目に見えてむくれることとなった。





 倉庫街の影に紛れるようにして、二人は大きめのビルへと接近した。

 裏口の鍵が開いていたので、誰も施錠していないという観点から中に滑り込む。



(どうも、基本的に建物は施錠されてないみたいだな。鍵がかかってる方がむしろ危険、か)



 ここも電気はつきっぱなしのようで、視界の確保を気にする必要がないのは助かった。

 先行していた幸が振り返る。



「それで、結局どうするの?」


「……幸のイデオが、敵との遭遇を回避してくれるものかはわからない。だから、幸が先頭で進んで。君が接敵した時は、背後から僕がイデオを使う」


「おっけー。敵がいっぱいいたら?」


「洗脳した奴で不意打ちするしかないね。敵の数が多かったら、僕が作った隙を見て離脱するんだ。ただし僕の方には逃げてこないようにして、別々でこの出入り口を目指す。はぐれたときの集合場所もここだよ」


「うわーい、きっちり方針出してくれると悩まなくて楽だなー」



 自分を囮に使う作戦の話を聞かされて、『楽だな』と返してくるその精神性は正直ちょっと引く。

 まあ、本人にやる気があるのだからとやかくは言うまい。



「一番は敵と遭遇しないことだからね。エレベーターは気付かれたら袋小路だし階段で行くよ」


「うーん、どこまで上るの?」


「もちろん、大樹周辺の地表がみえるあたりまで」


「うえー……」


「案外上らなくていいかもしれないよ。でっかいのが大暴れして、周囲の建物は倒壊してるだろうからさ」



 ゲーム開始直後にもあった階段を上る作業だが、このフィールドでは今後も何度か行う必要が出てくるのは間違いない。

 古来より戦は上を取った方が戦術面でも情報面でも強いのだ。



 先を進む幸の疲弊が目に見えてたまっていく中、セナは耳をすませて警戒を担当する。

 といっても、もちろん緊急時に自分が逃げ切るためだ。


 隙があれば幸を救出することを考えなくもないけれど、それはリターンがあるからであって敗北と天秤にかける問題ではない。



「へぇ、ひぇ、うっへ……こ、これくらいで、どう……?」


「よし、窓から見てみよう」



 静謐な無人の雑居ビルのど真ん中に置いておくには、肩で息をする幸は目立ちすぎていた。

 先に行かせて7メートルほど距離をとって安全を担保する。


 幸が何度か不安げに振り返ってきたが、そのたびに頷いて見せたり、進行を促すジェスチャーをしたりで突っぱねる。

 こっちを見ないで欲しい、敵に複数だとバレたらどうするつもりだ。


 廊下の左右を店舗が埋め尽くす中、最奥に見えた小窓へ到着した幸は一足先に外を観察し始めた。

 そのまま五分、店舗の影に隠れて異変が起こらないことを確認してからセナも窓へと向かった。



「……」



 来るのが遅かったことに疑問を呈されたり文句を言われるかと思いきや、幸は顔を真っ青にして屋外を見下ろしている。

 セナも横の隙間から戦場を観察し始めた。



 『戦争』という言葉や概念を知らない世代は居ないだろう。

 だが、そこで行われるリアルを正しく想像できる人間は現代日本には皆無だ。


 VRゲームの発展により、リアル重視のシューティングゲームなどでは臨場感を味わうことはできるが、そこにある必死さに現実味は薄い。

 

 そして、大樹の根で展開されていたのはまさしく戦争……ですらなく、ある種それよりも想像不可能なおぞましい戦いだった。



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