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『忠犬爆弾』幸


「僕にリスクしかない」


「そんなわけないじゃーん! 一人より二人のほうが絶対便利だって!」


「お前を信用できない。それとももっかい洗脳されたい?」


「えー、それはちょっとなー。それに、アタシを洗脳してもあんまり役に立たないと思うけど。なら正気のままで協力したほうがいいじゃん」


「今、信用できないって言ったよね?」


「アタシは信用できるけどー? アタシよりずっと頭良さそうだし」



 すでに付いてくる気満々なのが厄介でしかたない。


 確かに幸を洗脳したところで能動的に使える能力ではなく、場合によってはセナ自身を危険にしかねない爆弾ですらある。

 そんなもんにイデオを使うくらいなら、次に見かけた相手に無差別に使用する方がまだマシだ。

 体格もほぼ同じなのだから、武器さえ持たれなければ一方的にやられるということも、多分無い。


 協力という点に関しては、セナも一人きりだと最後まで生き残る可能性はそう高くないと見積もっていたのは確かだ。

 特に混乱する中盤までなら手を組むこと自体はやぶさかでない。


 『出会ってしまえば即戦闘』の話が通じないプレイヤーと比べればだが、ある程度は優良物件だと感じてしまうのも事実だ。



 だが、それはそれだ。セナにだって同行者に求めるものが強さや利便性だけではない。


 深く息を吸って、吐く。

 このルーティンはいつでもセナを後押ししてくれた。



「一つ、聞かせて。これの回答次第では、どんなすごい幸運に守られているとしても、この場で殺す」


「うぇ!?」


「答えろ」


「え、ぅ、わ、わかった」



 この鈍感そうな娘にも、空気感が変わったことがちゃんと通じてくれたらしい。

 ふくらはぎをほぐしていた手を取め、背筋をわざとらしく伸ばして『聞いています』という態度を見せてきた。



「さとうきび……あのプレイヤーを殺させたのは僕だ。これが僕のやり方だ。なのにどうしてそこまで信じられる」


「……絶対に怒りそうだから、そうだなぁ。怒られなさそうな部分だけ?」



 幸も、誤魔化そうとはしていないし、顔や声色だけなら真剣みが増した。

 それでなお怒りを買う理由があるのだとしたら、決裂もありえるだろう。



「ここに連れてきて、寝かせて、一人で逃げようかどうしようかって時に、さっきも言ったけど寝言が聞こえたの」


「……真面目に言ってるんだよね?」


「真面目だからとりあえず最後まで聞いてー!」



 そんな無茶な。



「それでさ、さっきも言ったとおり。アタシはその寝言を聞いて、貴方を助けたいって思った。それだけ」


「それだけのはずは……」


「本当にそれだけだよ? そりゃ、本当に現実でアタシを操って人殺しをさせるーとかなら絶対にダメだけどさ」



 足の痺れから回復したのか、幸は壁伝いに立ち上がり、尻を軽く払う。

 そしてセナの発する威圧と睨みに晒されながら、それでも満面の笑顔を浮かべて言い放った。



「だけど、これ、ゲームじゃん」


「!」


「敵同士の時にダーティープレイされたくらいで、確かに悔しくはなるけど信用ゼロにはならないよ」



 ハンマーで殴られたような、という衝撃を本当に味わうことになるなんて想像したことは今までにない。


 高額賞金、豪華副賞、五感があって重力があって、見慣れた都市での殺し合い。

 セナにとってはリアルを変える一大事なこともあり、いつの間にか現実と混同してしまっていた。


 仮に賞金などがかかっていない場での、一般的なゲームプレイヤーとしての感性ならば幸の方がずっと正しい。

 この娘には欲がないのか?



「むしろ、ゲームと関係ない本音が聞けて、だから手伝いたいって思ったの。そりゃアタシだって優勝したいし、だからイデオも真面目に選んだけど……アタシの行動を決める要素って、それだけじゃないでしょ?」


「……えっと」


「やーっとわかってくれた?」


「その、なんだ。幸が僕を信じられるくらいの、衝撃的な寝言って……なに?」


「それを喋ったら絶対に怒るから言いません。以上!」


「くっそ、やっぱりか!」



 どこか勝ち誇った幸の笑顔が憎たらしい。

 ここで洗脳を使ってまで聞き出すのはなにか違う気がするし、謎の敗北感に悶えるのみである。



「……確かに、ちょっと気負いすぎてた。けどそれとこれとは別だ。今ここで信じる理由にはならない」


「想像以上に頑固!」


「優勝を目指してるとか言っている癖に、僕を警戒しないのならそれは怠慢か、あるいは馬鹿ってことだ。そのイデオに絶対の自信があるのか知らないけど、はっきり言って神経を疑う」


「そこまで言わなくても! 迷惑はかけないから!」


「使い捨てにするぞ。僕のやり方を見た上で言ってるんだから、そこは文句を言わせないけど」


「いいのいいの、簡単に死んだりしない能力なんだから!」



 やはり裏があるようにしか思えない。

 だが、洗脳が一人にしか使えない以上、初期プランの全洗脳は使えないわけで、人員の補充をするためにはイデオ以外の方法で他者と協力する展開が今後も続くだろう。



(最低限、警戒すれば僕だって抵抗や逃走はできる。この程度の小物をうまく使いつぶせなきゃ、僕に勝利はない……か?)



 生存特化の能力に、協力的な態度。

 洗脳が解けても指示を守った実績。


 非常に悩ましい案件だが、セナはこの爆弾を抱え込む覚悟を決め、ズレた感性の彼女にとりあえず話を合わせておくことにする。


 とはいえ気は重く、大きなため息があふれ出し止まらない。対照的に幸は終始笑顔だった。



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