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異物、あるいは異質な精神


「えっと、とんでもない超幸運っていうけど全部がラッキーになるわけじゃなくてー、『このゲームを勝ち残る』っていう一点だけすっごい幸運なの。自分で決めたイデオなくせして本当に効果あるか微妙だと思ってたけど、何度も戦闘に巻き込まれてピンピンしてるから、ちゃんと効果ある……みたい?」


「使い手本人が疑問系で答えないでよ」


「だってー、結局すぐ転ぶし! ドジ直ってないし! なんだかんだでいつも通りなんだもん!」



 遠目から観察していたアレは、やっぱり本人の意思とは無関係だったらしい。



(わざととしか思えない回数の転倒だったけど、日常生活は無事におくれているのかな)


「ともかく、アタシを生き残らせる幸運特化! だから貴方のために使うってのは難しいと思うよ」


「なるほど」



 能力の詳細がわかったとして、それがゲームとしてどういう処理をされるのかは不明だ。

 故に推測することしか出来ない。



(イデオの全てを生存運に注ぎ込んだのだから、相当に強力な運命力が働くと考えた方がいい。ならばむしろ、洗脳できている今のうちに命令して消した方がいいのか?)



 どうやって使い捨てにするか。



(別行動して距離を取って、自殺命令を試してみるのはアリかもしれないな)



 どうすれば死亡条件を満たすか。



(イデオ同士の激突のど真ん中にでも飛び込ませてみれば、真価がわかりそう。)



 最終的に倒す必要があるのだから追々探る必要は出てくるだろう。



「……あれ?」


「今度はどうしたのー?」



 一応、隠し事がないか吐かせようと脳への干渉を強めようとしたところで、気づく。


 頭がスッキリしすぎている。

 異物の一つも混じっていない爽快さに、セナの脳裏に悪い予感が走った。



「幸、正気?」


「なにさー! 一日に七回すっ転ぶのはそんなにおかしいのかー!」


「いやそうじゃな、ごめんそれも十分おかしいけどそうじゃなくて」


「違うっていうなら何が……あ、そういうことか。うん、貴方の能力とっくに解けてるよ」


(どうして気付かなかったんだ僕は!)



 要因はいろいろあったのだ。

 イデオ使用中の状態の方が異常だったとか、寝起きだったとか。

 幸もまったく敵対的でなく、あまつさえ下した指示をちゃんと守って隠れている。


 とまあ、言い訳はいくらでも並べられるが、結局は自らの不注意でしかないので、セナの心は凹む一方だ。



「……ならどうして助けたの?」


「どうしてって」


「解除されても話が通じてるってことは、操られている間の記憶はちゃんと残っているんでしょ?」


「まあ、そうだけど」


「自分を洗脳して、仲間を殺させた相手が幸運にも目の前で気を失ったのに、どうして倒さなかったのかって聞いてるんだよ!」



 その行動の何一つも、セナには到底信じられない。

 いや、このゲームの参加プレイヤーでも信じることはないと断言できる。


 能力に奢っている様子もなく、ダイアマイトに対する行動を見るにプレイヤーを脱落させる意志くらいは持ち合わせているはずだ。

 それだけの勝ち気を有しながら、この戦いで最重要である『自分のイデオ』についてベラベラと無警戒に全て喋ったのだ。


 セナはこの娘のことを、どんな特殊な能力よりも気持ち悪く、そして脅威に感じていた。



「そりゃ、最初は倒そうとも思ったよ? だってサバイバルゲームだし、最後にはみんなライバルだし。でも、貴方はアタシをあのでっかい人から助けてくれたじゃない?」


「……は?」


「それでー、逃げてる最中に貴方の能力が消えて……自由になったけど、目的地は同じだったし、助けてもらったお礼になると思ったからここまで連れてきたんだ」



 嘘か真か、屈託のない笑顔を見ても何も読みとることが出来ない。

 幸はどこまでも自然体で、嘘を言っているように見えず、けれども嘘にしか聞こえないのだから。



「……借りを返したくて助けた。うん、そこはまだギリギリ理解できる」


「あ、良かった!」


「けど! なら僕をここに連れてきた時点で借りは返し終わってるはずだ。殺さないならさっさと立ち去るべきだったんじゃないの?」


「いや、えっと……それは~」



 目をそらしてどこか言いにくそうに言葉に詰まった様子が、セナにやっと得心をもたらした。



(やっぱりなにか目的があったんだ! ゲームを有利に進めるためのプランがあって、それを活かしたがるような助平心を隠しているに決まってるじゃないか。看破されたショックで言い淀んだのが仇になったな、残念ながら僕にはお見通しだ!)



 少しばかり視線を鋭くしたセナに対し、幸は恐る恐る口を開く。



「えっと、怒らないで欲しいんだけど」


「話すんだ!?」


「え、話さなくていいの?」


「……いや、いい。聞かせて」


「その、貴方が寝言でうなされていたから?」



 頭痛がしてきたセナは、無意識のうちにこめかみを右掌で押さえてしまっていた。



「なんで僕がうなされてたら、ずっと膝枕をする事になるんだ……」


「そこは秘密ー! あ、それとよかったら今後も一緒に行動しよ!」


「はぁ!?」



 ──だめだ、この女は別次元の生物だ。


 この精神性で本性を隠していましたーなんて深慮遠謀の持ち主なら最高にイかれている。

 真面目に関わると思考のノイズになるし、下手に考えると墓穴を掘りかねない。

 

 セナは初めて、どう行動すればいいのかを見失っていた。


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