勝利の代償・能力の代償
完全に動かなくなったのを見届けると、捕らわれていたプレイヤー……セナはゆっくりと立ち上がった。
頬に飛び散った返り血を親指で拭き、今回の戦果を確認する。
ダイアマイトの脱落。
そして、さとうきびと呼ばれていた反射能力者の撃破。
加えて未知のイデオ持ちであった少女の洗脳成功。
全ては上手く行ったと考えていいだろう。
特に『洗脳した相手の処遇』については今後もつきまとう問題の一つだ。
将来的に必要になる能力がわからないのだから無意味な消耗は愚作に繋がるが、かといってダイアモンドボディは強い能力ではない。
無傷でさとうきびを倒せていたのなら継続して使うつもりだったが、足を抉られた時点で使い潰すことを決定していた。
痛みを無視した無理矢理の攻撃も、とっさに洗脳を解除する必要がでた時にダイアマイトの反逆の芽を潰すための予防線である。
「君、自分のプレイヤーナンバーとプレイヤーネーム、そして能力名を回答して」
「……はい」
溌剌さが完全に形を潜めた幸は、虚ろな目でここではないどこかを見ながら、普段の言動に似つかわしくない冷静で端的な回答をした。
「プレイヤーネームは、幸……No.7……能力名は、『とんでもない超幸運』です」
「超幸運……?」
「あ……とんでもない超幸運、ですよ」
そういえば結局、この少女は一度たりともイデオを発動した様子は見せなかった。
特にダイアマイトを窓から突入させた時、偶然にも吹っ飛んだ彼女が棚の下敷きになったのを見て、これ幸いとタイマンを張ることができたわけだが……。
(終わってみれば無傷か。けど、洗脳を食らった時点で本当の意味での幸運とは──)
ふらりと、足がもつれてしまう。
ナイフで滅多刺しにした結果生み出した、グロテスクな光景を見たから……というわけではない。
「頭、いた……」
「だいじょうぶ、ですか?」
「くそ、ずっと同調してた、せいで……っ」
痛くても、危険でも、滑らせて渡した包丁が立てられるのを知っていてもダイアマイトは戦った。
何故か?
それは本来、認識を書き換えるという洗脳の範囲からは外れた所業だ。
生存本能はごまかしが効かない。
本当は包丁が刺さったときに構わずさとうきびを踏みつぶすつもりだった。
それでも、これは自分の体ではないと理屈でわかっていてもストンプが途中で止まってしまった。
(たかがゲームの痛みが、こんなに鋭いなんて)
セナは広義の『認識を書き換える』洗脳ではなく、『従順な操り人形にする』洗脳を選んでいた。
理由はもちろん、捨て駒にした場合にはちゃんと死んでもらわなければ困るからに他ならない。
そして、そういう能力にした代償は想像よりも大きかった。
「あんなに、抵抗されるとは、思わなかった……痛ぁ……」
痛みを始めとした感覚、感情などの喜怒哀楽。
洗脳した相手の精神と同調すればするほどに、操っている肉体が経験する全てを味わうことになる。
洗脳とは言うが、実際に運営に出したオーダーは『相手に同調して意識を操作できる能力』だった。
それを端的に言い表す単語が洗脳しか思いつかなかっただけで、本質的には洗脳ですらない。
常に自分の脳と紐付けられている感触は、まるで自分の体が二つに増えたかのようで処理が追いつかない。
だからこそ普段は行動を自律させているのだが。
そんな力を乱発し、無茶をしたしっぺ返しと言わんばかりに、疲弊した脳は悲鳴を上げながら休養をせがんでくる。
「さ、幸……僕を、運んで……このビルから、出て、裏通りを、大木のほ、うに──」
途切れ消える意識の中で、脱出の指示をなんとか吐き出す。
かすかに耳元に聞こえた「わかりました」の声が、脳を反響し……溶けた。
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