表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/148

運が悪かったね:sideさとうきび


 まだ全力疾走が出来るほどには回復していない。

 とっさに後ろへ飛び退くが、落ちてくる瓦礫も相まって幸と連携が取れない。



「反対側ァ! 無防備な部分をぶっさせぇ!」


「わ、わかったよ!」


「ぬ」



 天井を落とした巨腕は、その勢いのまま幸の方へと振り抜かれる。

 ぶつかればただでは済まない一撃は、蹴躓いて膝を突いた幸の頭上を通過していく。



「うわ、うわわ、あぶない!」


「倒さねぇ限りあぶねぇまんまだぞ!」


「こ、こうなったら……えいっ!」



 やぶれかぶれになったのか、本気の一撃だったのかはわからない。

 幸は確保していた包丁の一本を思い切り投げつけた。

 ターコイズブルーの目立つ柄が飛びかかったが、当然そんなものは巨腕に吹き飛ばされてしまう。



「その程度で俺を、殺れるものか!」


「うわわぁ!」



 質量の嵐の中だが、未だに幸もさとうきびも致命傷を受けてはいない。

 それは間違いなく、巨人がその場を動かずに巨腕のリーチ頼りで攻撃を仕掛けてきているからだ。

 足の傷は間違いなく機動力を奪っている。



(とはいえ、近づかねえと……な!)



 持ってきていたフライパンを、もう装甲がない頭部めがけて投げ放つ。

 同時に、体相応に大きな耳を壊すつもりで腹から声を張り上げた。



「ぐあっ!」


「今だァ! 突撃ィ!!」



 合図に素直に従って、二本目を構え走り出す幸。

 見事フライパンがこめかみへと命中したことで、ただでさえふらつく足をさらに揺らす。



「く、そ」



 男は瞬時に拳から先の巨椀を切り離した。

 外皮は音を立ててその場に落ち、同時に幸の切っ先がわき腹に命中、したが金属音と共に弾かれた。

 新たな外皮を展開しての防御が間に合ったらしい。



「けど、これで詰みだなぁ!」


「しまっ」



 まんまと接近に成功したさとうきびが、大手を広げて巨人に抱きついた。

 瞬間、包丁からは守ってくれた自慢の外皮が反逆し、纏めて内蔵を食い破る。



「ぐおあああぁぁぁああ……かっ……──」



 大きな大きな咆哮を上げ、二度痙攣した巨人は、ついに前のめりに倒れ……勝負は決した。



「……」


「や、やった! やったよ!」


「……ほんとに倒したよな?」



 念には念をと、近くにあった一番長いダンベルのシャフトを手にとって、先端を頭部に振り下ろして確認を取る。

 反応はなし、本当に脱落だろう。



「うわわ、バイオレンス……」


「ゾンビみてぇな耐久力してたからな。念のためだよ。それよりも」



 部屋の隅では、捕らわれたプレイヤーが未だに転がっていた。

 指先や足が動いていることから意識はあるみたいだ。



「あの大破壊に巻き込まれなくて良かったな」


「ほんとだよね! あ、アタシ縄跳びほどいてくるね!」


「おう、頼むわ」



 命がけの戦闘の余韻で、さとうきびは一気に脱力していた。

 

 あの男にとっても治療できるプレイヤーというのは大事だったはずだ。

 でなければ全身を覆って耐久力を確保してから、あの一点集中だかなんだかで床をぶち壊せばこのフロアの全員を一網打尽にできた可能性はある。

 諸々の要因が良い方に転がったとしか思えなかった。



「はー、つかれたわマジで。上手くいけばもう一人協力者ができるかもだし、そしたらあのでけぇ木に急ぐ必要も薄くなるか?」



 ここでの戦闘音は当然だが外に漏れている。

 周囲のプレイヤーが戦闘に気づけば、ハイエナにやってくる可能性は高いだろう。

 はやいところ恩を売って回復し、逃げ出す必要があった。



「さとうきびさん! この人が、お礼したいんだって!」


(お、早速来たか)


「はい、立てる? だいじょぶ?」


「……うん、だい、じょうぶ」



 幸の手を借りて立ち上がったプレイヤーは、ふらふらとさとうきびの前へ連れられて来た。

 目はどこか虚ろであり、顔色はそれなりに悪い。



「ほらほら、この子すごいんだよ。もう元気になっちゃったもん。さとうきびさんも早くやってもらって!」



 幸はそう言いながらも、さとうきびの後ろに回って体を押した。

 そんなに急かせるのは、激闘の後だからか、それとも治癒能力がそんなにすごいのだろうか。



「あ、の、ありがとうござい、ます」


「あーいや、いいんだ。乗りかかったなんとかってやつでなぁ」


「いえ、その、僕みたいな敵プレイヤーを、結果的にでも助けてくれて」


「まあ、言ってることはわかるけどな? ならまあ、アンタのイデオで俺も治してくれ。それでチャラってんでどうだ?」


「……そうですね。でも、必要ない、かもしれないです」


「ん? ああ、見た目は大丈夫そうかもしれないけど、割と内臓が痛くって」


「いえ、そうではなく」



 ドン、と。


 さとうきびは背後から衝撃をひとつ感じた。

 腹を殴られたときは痺れるような痛みが走ったが、今回のは鋭く、切れてはいけない何かが断絶された激痛だった。



「もうお前には必要ないだろう?」



 信じられない光景だった。


 なんで、幸が、後ろから包丁を突き立てているんだ?

 幸の目は先程まで満ちていた喜色も楽色も消し飛んでいて、からっぽのがらんどうだった。



「──な、んで……」



 引き抜かれ、血があふれ出し力が抜けていく。

 倒れた隣では、あのプレイヤーが幸から凶器を受け取っているところだった。


 幸もあちらの仲間だった?

 いやまて、受け渡していた包丁に、強烈な違和感を感じる。



 そう、幸は包丁を選別していた。

 なるだけ綺麗な色のものがいいとかいう理由でだ。

 

 だというのにあの包丁は、柄まで全てステンレスで出来ている銀単色。

 だが見たことがないわけではない、あの包丁は大男が最初に構えていたものと同じ……。



「ネタバラシはしない主義なんだ」



 倒れたさとうきびの背に馬乗りになって、一刺し。



「ぎゃああぁ……が……」



 肺を貫く一刺し。

 胃を開く一刺し。

 背骨をかすめる一刺し。


 刺し。


 刺し。


 刺し刺し刺し刺し──




「運が悪かったね」




↓広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、毎日投稿のモチベーションに繋がります!

さらに『ブックマーク』、『いいね』、『感想』などの応援も、是非よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ