チーム・サージェント
「……いや、クック君。見張りは私がやろうじゃないか!」
「え? いやでも、能力的に僕だけが役立たず状態だし」
「そうじゃない。対処もしなきゃいけなくなったってことさ!」
教授が指さしたビルの屋上に四つの影。
セナ、幸、大鼠、そして真田。
空を飛べるという優位性をもってしても、追跡を許してしまっている。
「ああもう、そういうことなら頼んだよ!」
「いいとも。あっちだって、私のイデオを食らうわけにはいかないはずだ」
「……洗脳の枠を天下一に食われているのが幸いしたな。急げ、ここも相手の射程内だ!」
屋上の影が何かを振りかぶり──野薔薇の風で飛び上がったその刹那、元居た瓦礫に金属バットのフルスイングがたたき込まれた。
カァァァンという音ごと、一瞬でその場から消える。
「射程が違う。このままじゃ攻撃され放題だぞ!」
「はーっはっはっは! こっちだって射程は視界内になるとも!」
教授も負けじとビルの上へと指を指すが、倒れる様子はまるでない。
「うーむ、やはり私のイデオは消されてしまうか! だがそれでいい、野薔薇君に使われる方が逃げ足が鈍るからね!」
「消耗度外視で飛びますから、舌噛まないでくださいね!?」
風の大砲が足下で爆発し、近くのビルの窓ガラスが一斉に割れた。
圧倒的な推進力を得てまずは摩天楼を飛び越えにかかる。
「ああくそ、どうやって追ってきてるのかと思ったら!」
教授が舌打ち混じりにイデオを連続で使用していく。
セナたちは全員が、ビルの屋上から屋上へと走って追ってきているのだ。
その距離は一瞬でゼロになり、飛べば高さが足りずともフェンスの上へと登り、跳ねれば隣のビルの中央へと着地する。
真田が持つ『距離操作』という、奇襲に追跡と幅広く汎用的な能力一つに追いつめられていた。
「こりゃ逃げ切るのは無理そうだね!」
「合流が先決だ! 奴らが異変に気づけば援護が来る!」
「そこに期待し過ぎると、私の方が先にエネルギー切れを起こしますよ!?」
見るからに焦り顔の野薔薇が、遮二無二飛ばす。
ビルの壁へと暴風を叩きつけて急旋回、急降下、地面すれすれからの急上昇。
射程から外れるために八方手を尽くすが、それでも振り切るには至らない。
「距離を無くすっていうのはちょっと卑怯すぎますって!」
「いやいい、良くやった野薔薇。奥の小さいビルの屋上がゴールだ」
「ゴール……っ!?」
瞬間、表情が強ばる。
ビルの上から複数の発砲光が煌めき、直後に音、そして何かが野薔薇らの横を通り過ぎていった。
それらは真っ直ぐに付近のビル屋上へと飛んでいき、コンクリートを穿つ。
セナらも慌てて静止したようだ。
「教授殿! 軍曹班全員、ここに揃っております!」
灰色迷彩の軍服に軍帽を身につけ、複数の無線機を腰から下げた中肉中背の男が、ゴールから声を張り上げた。
野薔薇たちはすかさず彼らの背後に着地し、給水タンクの影に飛び込む。
「標的はやはり、彼らなのですか!?」
軍曹の指さす先には、より高いビルから見下ろすセナたちの姿。
特にセナはあからさまに不機嫌そうな表情を湛えていた。
「そういうことになってしまった! 申し訳ないけど援護頼むよ!」
「お任せあれ! さあ諸君、我ら小隊の戦いを見せようではないか!」
最後の班長、軍曹の傍らには三名の班員も控えている。
軍曹の指示なのか、彼らも灰色迷彩の軍服を着用し、肘や膝にはプロテクターも完備。
腰のホルスターから抜いたとおぼしき拳銃を、揃って両手で構えていた。
一歩前に出た子供二名が不満を隠さず非難を上げる。
「おい、ぐんそー。拳銃重いんだけど!」
「そーよそーよ! こんなゴツいのレディに持たせないでよね!」
「いやいや、最初あんなに喜んでいたでだろうがお前等!? 今こそ練習の成果を見せる時だぞ!」
「……そうだよ、軍曹が困ってるじゃないか二人とも」
困ったようにはにかむ特徴の薄い顔の男が最後尾から歩み出る。
その男『ファントム』は、自ら率先して引き金を絞った。
「うおぉ!?」
乾いた発砲音と共に飛び出した弾丸が、上から睨みつけていた大鼠の太股を掠る。
たたらを踏み後退する大男の姿を笑うのは、軍曹の隣にいる少女だ。
「きゃははは! うおぉ~だって! あんなでかい大人が格好悪すぎでしょー!」
「うーん、やっぱり軍曹さんほど見事には当てられないな」
「よー、惜しかったじゃねーかファントム! もうちょっとで大当たりだったのによ~」
大鼠の無様を笑うのが、年の頃十五前後に見える少女『ヴァニシュ』であり、軍帽にこれでもかと雑多なピンバッジをぶら下げている。
一方、ファントムを荒い言葉でねぎらったのがヴァニシュと同年代に見える三白眼の少年『朧』だ。
どちらも見た目は最年少参加者であり、無効化能力者でありながら各班に単独配属されなかった理由の一つでもあった。
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