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VSさとうきび②:sideさとうきび


 ガン カランカラン



 敵は近い、だが何をしているのかわからない。

 ドアを押し開けて顔を覗かせると、銀色の何かが踊り場で転がっているように見える。


 また一つ、上の階から何かが転がり落ちて、壁にぶつかり大きな音を立てた。



「何だぁ……?」



 直後、今度はガラスのようなものが割れる音がどこかから聞こえ──



「きゃああぁ!? ぶべっ!」



 幸の叫び声。



(違う、踊り場の音は誘導だ!)



 気を逸らした一瞬を狙って、店舗内で破壊音の大合唱が始まった。



「中か、クソ!」



 幸が包丁を漁っていた辺りは、棚という棚が横転し見晴らしが良くなっていた。


 倒れ割れひしゃげ崩れた屑鉄の山のその上に、悪魔としか形容できない容姿に変じた大男が仁王立ちし床を見下ろしている。

 その全身は青白い何かで包まれ、人間の皮膚の部分は一つも見当たらない。



「おい、死んでねぇだろうな!」



 間違いなくあの男だ。

 配管を壁伝いに降りてくるとは、見かけによらず頭が回る巨人だ。


 数のアドバンテージはもうないが、相手のイデオが体を覆うものだとわかったのだから情報の不利だって存在しない。

 ただの、プレイヤー同士の一騎打ちになっただけだ。

 


「ヘイ! そのご自慢の筋肉で俺をやろうってか? やってみよろウドの大木!」



 これ見よがしにとりあえず挑発を一発。

 見た目通りの直情型で殴りかかってきてくれれば最高だが……奇襲を仕掛けてくるような男にそれを期待するのはやはり浅かったらしい。


 敵は近くにあった金属製の陳列棚を両手で軽々と持ち上げてみせた。

 未だにぶら下がっていた金属のお玉やフライ返しがバラバラと落ちていく。

 そして巨人は大きく振りかぶって、当然のようにその棚をブン投げた。



「冷静な脳筋かよ、最悪じゃねえか!」



 フライパンは邪魔だ。

 捨てると同時になんとか身を屈め、かわすのを見計らったように男が突撃してくる。

 その手にはしっかりと銀色一色の包丁も握られていて背筋の温度が下がった。



「能力で守りは固めておくけど攻撃は物理ってかぁ!? 虫が良すぎるぜタイタン!」



 身を屈めたこの体勢で、突進してくる肉体派をいなすのは難しいだろう。

 とにかく包丁だ、あれさえ食らわなければどうにでもなる。

 そう判断し、さとうきびは敢えて自分から踏み込んだ。



「!」



 すでに勢いよく猛進しているダイアマイトに、今更止まる選択肢はない。

 両手で握った包丁を自らの胸元あたりで構え、ターゲットの心臓めがけて体ごと押し当てようと突っ込む。



「だよなぁ、けど残念」



 体を屈めて突っ込んでくる巨体よりもさらに低く。

 店舗のすべすべの床の上をヘッドスライディングするように潜り込んで、さとうきびは綺麗な何かで覆われた敵の左足首を握りしめた。


 同時に握られた部分が張り裂け、大量に出血する。



「が!? ぐ、あぁぁあああ!?」



 無防備な背中に振り下ろそうとしていた包丁も激痛に負けて取り落とし、ダイアマイトは床を転がりもんどりうった。

 対照的に、右手を真っ赤に染めたさとうきびは悠々と立ち上がる。



「どうしてこうなったかわかるか? わかんねぇよなぁ!」



 無論、種はある。


 さとうきびのイデオは『己の皮膚を起点に能力を跳ね返す』というもの。

 それは死の宣告だろうが、炎の津波であろうが関係なく相手にお返しする。

 一見すると守りの能力だが、かといって攻撃に転用できないわけではない。



(俺に触れた能力由来のその殻は、跳ね返ってテメーの体の内側に食い込んだ。足がもげちまえば良かったんだがな!)



 落としたステンレス包丁を蹴り飛ばして店の端へと吹っ飛ばせば、脅威はゼロだ。


 だがやはり、さっきの学生よりはものを考える敵らしい。

 さとうきびが安全を確保する一瞬で、能力を解除し人間の姿に戻っていた。



「や……るな」


「お褒めに与り光栄だわな。んでどうすんだ?」


「ここで、殺す」


「ああそうか──よぉ!?」



 足への深手は攻防どちらにも影響がある。

 だから体格差も消えたはずだなんて、今度はこちらが甘い考えだったらしい。

 巨人は血塗れの足で遠慮なく蹴りをかましてきたのだから。



「(この裏VR、受けたダメージはガチでくそ痛ぇはずなんだが、神経通ってねえのかこいつ!)」



 動き自体は少し鈍くなっているが、肉弾戦なんてとんでもない。

 そんなぽんぽん避けられる機動力は残念ながら持ってないのだから、やられる前にやっちまえ。

 さっき転がしたフライパンを拾い上げて、顔面に一発! そしてもう一発!



「うらあぁ!」



 力を込めて腰も乗った会心の連撃だ。

 見ろ、あいつ鼻血垂れ流しながら──



「ふん!」

「ごべぇっ!」



 ……鼻血、流しながら、平然と殴ってくるんじゃねえよ。



「こ、の、やろう」



 こみ上げる嘔吐感にはなんとか耐えたが、まるで腹が粉みじんに爆発したかのようだ。

 感覚が消し飛んで、息ができない。


 耐えきれずにその場に膝をつくのと、追撃の拳が横っ面に叩き込まれるのはピタリ同じタイミングだった。

 床に横倒しにされ、リアリティのある死の予感が体から熱を奪っていく。



「……が……」


「手こずらせ、やがって」



 大男の巨大な足の裏が、かすかに視界のはしに映った。

 こんな巨体のストンプを何発も耐えられるほどの屈強な肉体は持ち合わせていない。

 やっぱり、能力の詳細を知られたのが、ダメだったのか?



「くそ……順調、だ、と、おもった……のに」



 体を起こそうとはするものの、回避が間に合うわけではない。

 もはや自力での解決は不可能だと諦め、最後の望みへと視線を向ける。



 まさにその、絶体絶命のタイミング。

 未だに倒れた棚の下敷きになり、なんとか抜け出そうともがいていた幸と目が合う。


 彼女がやっと自由になった右手を振りかぶり、さっき選別していた包丁を床に滑らせる瞬間だった。


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