合理的判断
「セナの本心はわかりませんけど、次々洗脳されて全員私兵化されたかもしれないってことじゃないんですか!」
「……心を読んだからわかったことだが、セナは常に一人しか洗脳しておけない。ジャンヌが真っ先に操られたからこそ、私が接触し手綱を握っておいたんだ」
「なんですって?」
「ほっておけば、洗脳対象が脱落する度に次の相手へ乗り換えていけばいい話だ。それをさせないためにも、私はセナを脅迫し黙らせていた」
「脅迫と言うことは、つまりあれだね? 本当のイデオをバラされたくなければってやつだろう?」
面食らう野薔薇の背後から、教授も口を挟み始めた。
「ご推察の通りだ。それに、不死との戦闘では上手く使える可能性もあったからな」
「……それつまり、利用する気満々で、あわよくば手駒にしようとしてたってことじゃないですか!?」
「そうだが。それが?」
「ッ!」
勝つために最善を尽くすなど当たり前のことだ。
使える物は何でも使っての蹴落とし合いこそが本質。
結局のところ、このゲーム中に仲間なんてものは作れない。
それこそ、ゲーム外から持ち込んだ因縁でもなければ。
「……あの爆発でセナとははぐれ、衆人監視の檻から抜け出される結果になった。もう押さえつける蓋が無い。ほっておけば、誰も信じられなくなる。あいつが本格的に動くより先に、対策を練り、倒しておくべきだ」
「──……」
「それとも、教授がやられるまで気付けないか?」
「……はぁ~~~」
大きく深い一息。
野薔薇は目を閉じ、口を噤んだまましばらく顔を伏せていたが、十秒程度でサトリを見た。
「わかりましたよ、わかりました。私が甘かったですよ」
「少し考えれば思い至ったことだろうに」
「すみませんね、ちょっと色々参っていたんです」
教授を見れば、彼女には珍しい無表情で野薔薇とサトリを凝視している。
言いたいことは飲み込んだという感じだ。
「……セナは、見つけ次第倒します。セナに味方する人……つまり洗脳されていそうな人もみんな。それが一番って話でしょ?」
「ご理解助かるよ。教授もそれでいいな?」
「致し方ないようだね。戦力分散せずに不死狩りとして動いていきたかったが、内部の結束が崩れるのも問題だからね」
「……よし。これで次の話ができるな」
サトリが頷いたのを確認してから、ノウンはイデオを起動する。
調査対象は『軍曹班の現在地』及び『周囲1キロメートル範囲内の生存者の位置』だ。
瞬時に、南西方向から北上中の面々の無事が捕捉された。
「ノウン」
「はい。次に目指すべきはやはり軍曹班との合流になります。彼らの無事は事前に予知で確認済みです。今頃はトランシーバーでの通信可能位置まで来ているかもしれませんね」
「なら、もう一度試す価値はあるということだね!」
「出たがりの軍曹が軍隊式で反応してくれるかもしれませんよ」
軍曹班は、特殊な班だ。
なにせ無効化能力者が二名もいる。
今後、どのような相手と当たるにせよ合流は必須だ。
「あの人、声馬鹿でかいから通信したくないんですよねー」
「まあまあ野薔薇君! 今聞けば案外、懐かしさと安堵で喜びが勝るかもしれないじゃあないか!」
「そうですかぁ~?」
見るからに軍人な出で立ちの癖に、軍曹はどこか頼りない印象が拭えない男だ。
そのくせして"上官"というものにこだわりがあるようで、とにかく班長に成りたがっていたという。
「まあまあ、人格の話はやめておきましょう。それに、そのあたりは班員が補ってくれているじゃないですか」
「あー、それはそうですね! ヴァニシュちゃんも朧くんもファントムさんも、みんなちゃんとしてます」
「ぎゃーぎゃー五月蠅いだけだがな。あれと張り合っている軍曹が班長なのもおかしな話だが」
無効化能力者であるヴァニシュと朧の低年齢コンビと、それを引率する『 』能力者のファントムの組み合わせは安定感がある。
主に、どこか影が薄く大人しめなファントムが二人……いや三人を諭しているという部分にだが。
「ともあれ、彼らに連絡が取れるかチャレンジしてみましょう。上手く行けば万全の体制で今後に備えられますので」
「そこまでいければ、残り人数から考えても一気に優勝候補ってわけだ! 合流を止める理由はないし、ちょっと一報してくるとも!」
「ええ、お願いします教授さん」
もう野薔薇は大丈夫と判断したのだろう。
教授は部屋の隅の軍用トランシーバーを手に取ると、いつものテンションで部屋の隅へと移動し通信を開始した。
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