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VSさとうきび①:sideさとうきび


 さとうきびの能力は、セナの推察通り『能力反射』だった。

 常時発動しているイデオであり、己へ向けられた能力の影響を皮膚より下に通さず、触れた能力は相手に丸ごと跳ね返す。


 能力選択の時に『全反射』と悩んだが、何もかもを反射する力にしてしまうと問題が起こりそうなので断念した。

 空気まで反射して窒息死して脱落、なんてことになったら、間違いなく悪い意味でこのゲームのレジェンドプレイヤーになっていただろう。



 開始直後の混乱の中、あの怪獣大決戦に巻き込まれなかったのは幸運だった。

 加えて、本来は敵同士のはずの他プレイヤーから救われるという僥倖。

 しかもそのまま共同戦線ときたら、勝ちの運命に乗っていると感じるのも無理はない。


 さとうきびは内心、ラッキーイベントの連続に小躍りしていた。


 幸と名乗った少女がどういうつもりだとしても、相手のイデオを受け付けないのだから油断さえしなければ負けはない。

 少女がこの能力に目を付けて共闘するために助けたのだとしたらむしろ最高だ。



 100人のプレイヤーが居て、それぞれが最強だと考える能力を持ち込むこの戦いにおいて、『最強のイデオ』というものがあるのかはわからない。


 頭のいい者、こういうゲームや最強能力考察に長けた者ならば、自分より遙かに強力な力を得ていても不思議じゃあない。

 

 まあ、能力選択で出遅れたとしても勝率を上げる方法はある。それこそが共闘だ。

 最終勝者が一人だけという性質上、共通の目的で動けるタッグパートナーが見つかる方が稀なのだ。



(このままこの子が仲間になってくれりゃ、超有利で事が進むな)

 


 相手は一人、こちらは二人。

 ゲームのスタートダッシュに成功し一歩抜きん出たという確信が、さとうきびの思考を緩くしていた。



 雑居ビルの入り口からは、エレベーターと小さな階段が見えた。

 各フロアに店舗や事務所が入っているタイプらしい。


 あの男が居た五階は、入り口の看板を確認するとスポーツ用品店となっている。

 さっきの鉄アレイしかり、凶器になりえる品物はいくらでもあるだろう。


 おそらくあの絡んできた学生服とのやりとりは見られていたはずだ。

 でなければイデオではなく、わざわざ物理的に殺そうとしてくるわけがない。



「階段狭いな。一人ずつしか上れねぇじゃんこれ」


「エレベーターなら二人一気にいけそうだよ?」


「いやいやいや、階段で行こうぜ。入れ違いになったら倒せないし」



 などと言い訳したが、エレベーターごとペシャンコにされたら自分が死ぬからこその拒否だ。



「見つけたらどうやって戦うの? どこかで武器を見つけないとダメだよね」


「……イデオを使えばいいんじゃねえの?」


「あー、アタシの能力だと戦えないから……でもきっと、一緒の方がいいよ!」


「しーっ、静かに」



 どうやら力を明かすつもりはないらしい。

 それでも先頭を進むのだから何もないということはないのだろう、多分。


 階段の踊り場まで上ったが、未だに物音は聞こえない。

 幸の声で聞き逃している、なんてことなら笑えないのだが。



「二階にキッチン雑貨のフロアがあるみたいだから、そこで武器を調達しようぜ」


「わかった。でも、ゲームだとしても包丁とかフライパンで攻撃するの、ちょっと嫌だねぇ」


「なにを……」



 甘っちょろいことを、といいそうになってなんとか飲む込む。


 別に他人のプレイスタイルにケチをつけるのが良いことではないし、なによりその言葉が本気なら付け込む隙になるのだからこちらにも利がある。



(……仲間にするのは難しいか? 戦えないんじゃキツいよなぁ)



 流石に演技だと思いたいが、どこまで本気かわからず不穏だ。



 キッチン雑貨屋の引き戸を幸がゆっくりと引く。

 呼び鈴のようなものは設置されていないらしく物音が立たないのはラッキーだった。


 銀色のボウルが各種サイズで並んでおり、その横の棚には色とりどりの鍋にフライパンといった調理器具が展覧会めいて配置されている。

 奥には食器が敷き詰められたコーナーやら、外国メーカーの電気ケトルと、いくらでも鈍器に転じそうな物品で溢れていた。


 幸が奥を見ようと進んでいくので、さとうきびはひとまずフライパンを手にとっておく。

 攻撃にも防御にも使えるという点で包丁よりも汎用性は高そうだ。

 そこまで広い店内でもなし、入り口を見張っておいたほうが良い。



「……誰もいないよー?」


「だろうなぁ。俺が見かけたのはもっと上の階だし」


「あ、包丁みっけ。どれが良いかなぁ」



 どこか緊張感の欠けた声にどうにも心配になってしまう。

 あまり音を出さないで欲しいのだが、この数分の付き合いだけでもそれが高望みだと感じてしまうのは如何とも。


 一度振り返って、チラリと最奥にある包丁のコーナーを覗いてみた。

 包丁なんて武器にさえなればなんでもいいのに、どれにしようかと選んでいる様子がやはりどこかズレていた。



「いくつ持って行く気だよ?」


「え? いや、せっかくだし何本か……?」


「ならガバッといきゃいいだろ」


「けどせっかくなら、出来るだけかわいい色の方が良くないかな……なんて」


「勝手にしろよ。……けど一本か二本にしとけ。両手塞いだ状態でちゃんと戦えるかどうかもわからね──」



 ガン ゴン ガランガランガラン



 階段の、おそらく踊り場から強烈な金属音が響いたのはすぐにわかった。

 

 どこか脳天気な幸も体をびくりと跳ねさせて動きを止めている。

 さとうきびは人差し指を唇の前に添えて見せてから、フライパン片手に店の入り口へと摺り足で移動を開始した。



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