『アルモアダ』というプレイヤー
「……話は変わるのだけれどね。アルモアダ君の無事をどう確認するべきだろうね」
「あぁ……。トランシーバーのたぐい、持っていませんもんね」
「遠距離から一撃で相手を行動不能にするイデオだ。なるべく手元に置いておきたかったんだけれどもねぇ」
レインボーモール攻略戦における最終防衛ラインであり、勝利の立役者の一人でもあるプレイヤー『アルモアダ』。
教授の隠し玉扱いであり、正式には不死狩りですらない。
「私と合流したときにはもう一緒に行動していましたよね。あの人、なんなんです?」
「……あぁ、後に話すと言ってそれっきりになっていたっけね」
「良い機会ですし、教えてくださいよ」
教授は袖に隠れたままの手で顎を撫でながら当時を思い返した。
「まあ、そうだねぇ。大したことではないのだけれどもね」
「前置きはいいですから」
「ゲーム開始直後、私が真っ先に遭遇したのが彼だったのさ。出会い頭に眠らされてねぇ! 死ぬかと思ったよ! ハーッハッハッハッハ!」
「大したことありまくりじゃないですかぁー!?」
「どうやら寝かせた後で、鈍器で頭を潰そうとしたみたいでねぇ。そしてそれは叶わなかった!」
「先生のイデオ、発動の仕方が卑怯ですからね~」
落下でも、斥力でも、炎熱でも、大爆発でも死なないプレイヤー。
鈍器程度で殺せる道理はもちろんないが、寝込みを襲ってもダメ。
この白衣の傑物を倒せる存在が、無効化と黒い女以外に居るのだろうか。
「何度振り下ろしても殺せない! ダメージも与えられない! そうなったとき、彼は心の中で白旗を上げたらしいのだよ!」
「というと?」
「まさか殺せない相手が居るとは思っていなかった彼は、私にこう持ちかけたわけだ!『一人では勝ち切れないかもしれない。だから協力しよう』とね! 実際は私を殺す方法などいくらでもあったにも関わらず、インパクトの強烈さに思考をやめてしまったんだよ!」
「で、提案に乗って味方に引き入れられたってわけですか」
「そんなところだとも。その時は私も、野薔薇君との合流をどうしようかと悩んでいたし、バカみたいな破壊者達がまとめて脱落していく真っ最中だったからね。一丁前に身の危険を感じて、ボディーガード件切り札という立ち位置を提案したのだよ。護衛してもらいながら大樹に到達し……そこからは伏せ札になってもらったってわけさ!」
「あのときは、いきなり知らない人を連れてきたからびっくりしましたよ……」
『どんなゲーム内容であれ、可能ならば合流して協力しよう』
そんな提案をし合い、見事再会できたと思ったら見知らぬプレイヤーとすでに仲良くなっている。
本当にデスゲームの渦中にいるのか、野薔薇は混乱したものだ。
「再会したとたん二度目の不意打ち、とならないよう、誰かに悪いことを吹き込まれないうちに合流したいんだけれどもねぇ。ままならないものだよ」
「……不死狩り、何人が生き残っていますかね」
「何人だろうが、基本的には受け入れるさ。よほどおかしなことにならない限りはね」
「……」
話の一段落と同時に、野薔薇の口から薄くため息が漏れた。
袖口ごと頭を掻いた教授は、数秒思考してから口を開く。
「ついでだし、これまでのおさらいみたいな話をしておくかい? 暇だろう?」
「そうします?」
「手持ちぶさたは心に悪い。メンバーの動向、何名が脱落し、残り人数がどれほどになったか。整理すればきっと役立つときもある」
「……なら、やりましょうか」
「もちろん。勝つためにやるべきことはいくらでもあるぞ!」
はにかむ幼女のまばゆい笑顔に、少女の口が持ち上がる。
やっぱり、この人に来てもらってよかった。
口には出さずともわき上がる謝意に震えながら、野薔薇は今できることへの没頭を開始した。
~~~~~~~~~~
「えぇい、ぬかった! これだけの人数が揃っていて返り討ちってどういうことだ!」
どこかの建物の機械室。
なんとか手下を回収し終えたミスラ一派が、断続的に駆動音を鳴らす大型機械類の陰に隠れていた。
横倒しになり呻いているのは、四番『スプレッド』と、五番『兎』の二名。
回復する兆しは全くない。
「ていうかヤバいっしょ~。ライブで見てたけどさ、何あのイデオ意味不明なんだけど」
「……二人には何が起こっている? 映像ではわからなかったのか?」
「そりゃもうぜーんぜん? いきなりダウンしてもう動かなかったよねー。ウサギちゃんに至っては逃げた先で倒れたっぽいし?」
「確かに、条件がわからんな」
頭脳派巨体の一番が顎を撫でながら首をひねる。
ギャルの三番も、何もわかっていない様子だ。
とはいえ、ミスラにはある程度だが見当は付いていた。
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