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全知の目、全知の耳



 不死狩りが決起したときに、六つの班にわけて各方面の捜索を開始した。

 もちろん、一度の捜索で全ての不死能力者が見つかるなんて、当時の首脳部は考えていない。

 出発後、二回目の朝までには戻ってきて情報交換をするという事前取り決めがあった。


 空が曇天に覆われ時間の感覚がわかりづらいが、すでに昼は過ぎているだろう。

 案外、合流までの残り時間は少ない。



「方針は了解したよ。でもさ、懸念点もあるよね」


「というと?」


「セナ君だよ。放置しておくの? まだ目を覚ましていないかも知れないし、三人がかりで消しておかない?」



 クックの柔和そうな顔から物騒な提案が飛び出す。

 確かに悪い話ではない。

 サトリが断念したのは、骨折した自分では大鼠に勝てないと踏んだからだ。

 セナの話に、当のサトリも口を開く。



「戦闘要員無しでリスクを負う場面でもないだろう。大鼠はセナに付きそうだったからな。教授と野薔薇、大納言あたりを引き込めば無効化が居ても数で押し切れる」


「幸君は?」


「放置だ。現状の優先順位だと最下位だしな。危険度がわかりやすい方を出汁にして味方を集めよう」



 目指すは不死狩りの復活。

 だがもちろん、次に倒す相手は不死などではない。

 教授の倒し方もすでに用意できているし、慌てる必要は皆無だ。

 明確に反抗する相手こそ第一の敵。



「じゃあ急ぎましょう。あちらがいつ目を覚まして移動するかわからないのですから、こっちも手早く動かないと」



 そう切り出しながらも、ノウンは口の前に人差し指を持って行く。

 サトリとクックはそれを確認し、耳をそばだてた。



「……部屋を出て左、消火器が置いてある柱の影です」



 ノウンの小声に、クックが頷いて立ち上がり、部屋の扉を開く。

 廊下は薄暗い外光のみで照らされ、壁に刻まれた経年劣化の亀裂がどこかノスタルジックだ。

 物音も無ければ人影もなく、気配もない。


 それでもクックは部屋から出ると同時に走り出し、柱の影へと両手を伸ばして、捕まえた。



「きゃっ……!」


「よし、確保したよ!」


「でかした、逃がすんじゃないぞ」



 何もない空間に、確かに何かがいる。

 漏れ出た声から、それが少女のものだということがわかった。

 以前ノウンから報告を受けていた、透明化プレイヤーで決定だろう。



「なん、で……!」


「ホテルの喫煙室ではどうも。あの時から、あなたの動向だけは必ず調べると決めていたんですよ。プレイヤーNO.15、『透明化』のルリさん」


「なんで、知って……!」


「おっとと、暴れないでよねー」



 どたばだと抵抗する音が響き、消火器が蹴飛ばされて転がる。

 だというのに相手が見えないものだから、一見すると間抜けな光景だ。



「とりあえず、聞きたいことは山ほどあります。お時間頂戴しますよ」


「……いやっ、たすけ……!」



 クックと二人がかりで先ほどの部屋に連れ込もうと、服のどこかをつかみ、引きずって──



「──逃げろ、もう一つ声がする!」



 サトリの声に、ノウンとクックはすぐさまその場を飛び退いた。

 ほぼ同時に窓ガラスが甲高く割れ、外から何かが侵入する。

 それは大きく羽を広げた一匹の鷲。

 廊下に降り立つと同時に体積が膨張を始め、瞬く間に猛禽類は哺乳類へと姿を変えた。



「おいおい、僕よりデカいんだけど」


「言ってる場合か、走れ!」


「あの女は!?」


「死にたいなら勝手に追え!」



 鷲が巨大な熊に変身を終えた頃には、三人の男は廊下を散り散りに逃げ始めたところだった。

 結局、猛獣が階段を下りてくる気配はなく、ビルの外でなんとか合流に成功する。



「はぁ、はぁ……つぅ……仲間が居たのは知っていましたが、こんなにすぐに助けにくるとは」


「おおかた、通信機をONにした状態で張っていたんだろ。イヌワシの最高速度は300km以上だ。数百メートル離れていようが一瞬で飛び込める」


「ということは、どちらにしても戦力無しでは叩けませんか」


「そうなるな。合流し次第優先して消そう。変身能力者だけなら逃がしかねないが、透明化を守るつもりなら捕まえやすい」



 ビルを見上げる。

 まだこの中に居るはずだが、手が出せない。

 情報戦で圧倒しているだけに、歯がゆい思いだ。



「ところで、勢いよく走ってたけど、痛くなかったかい?」



 クックの一言に、まるで体が思い出したかのように痛みと倦怠感が溢れてきた。

 人間、脅威にさらされた時は痛みも忘れるというのは本当だったらしい。



「……クックさんが言わなければ、もうしばらくは平気でいられたかもしれません……」


「やっぱりこの程度じゃ治療とは言えないな。急いで移動しよう」



 ぎくしゃくしたロボットめいた歩き方をする大の大人二人。

 その様子を見たクックは、笑うのを隠しもせずに後から付いてきた。



「ガラスの割れる音が響きましたし、念のため周囲を探っておきます」


「わかった。すぐにすませろ」


「言われずとも」



 とりあえずプレイヤーの動きだけが知れればいい。

 情報の取捨選択を決め、イデオを起動する。

 あっという間に情報が集まり──



「──馬鹿な」


「どうした?」


「あり得ない。あり得ないものが見えました」



 狼狽を隠せないことが伝わったのか、サトリとクックの表情も強ばる。

 情報の意味がわからない、だが、伝えないわけにもいかない。



「簡潔に言え、何を見た」


「だ、脱落したはずの……()()()です」


「!?」



 顔を見合わせる両名だが、ノウンだって信じ難い。

 間違いなく、その死を確認したはずなのだから。



「そこまで遠くはありません。薬局に寄った後でもいい、様子を見に行きたいのですが」


「全知の情報だけじゃ不十分なのかな?」


「私自身が、この情報を疑っていますので」


「……わかった。ならば急ごう」



 サトリの言葉に従い、三名は裏路地へと消えていく。

 混迷を極めた情勢に、また一つの不安材料が投下された。

 この絡まった糸を、正しくほどけるプレイヤーは居なかった。




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