崩壊
「成果はあったかな、ルリ」
「うーん、どうだろう……」
ノウンの絶叫より十分前。
モールから離れたビルの屋上から、不死の捜索作業を見下ろす影が一つ。
スケアクロウとルリの二人は、安全地帯から戦争の終わりを見届けていた。
「とりあえず、俺のほうは言ったとおりだ。不死狩りのジャンヌを倒して、その流れでベートーヴェンとジーニアスも死亡。瓦礫の下だから掘り出せないのが残念だな」
「潰れてくれてるといいんだけど……」
「流石に発掘作業に手出しはできないしな。ルリや俺の存在がバレるわけにゃいかん。欲張らずにここまでだな」
「うーん、もうちょっと削りたかったねー」
不死狩りのメンバー数は未だ多く、軍曹班を勘定に入れずともまだ十四名ものプレイヤーが結託している。
せめてノウンまでは消しておきたかったが、欲張って裏目に出るのが最悪だ。
「ああ。せめてもう二人か三人は落ちて欲しかったが……まあ、不死がほぼ居なくなっただけでも儲けものと思っておこう」
「……私がもっと手伝って、その、不意打ちとかで倒した方が良かったのかな」
今回の戦いで、ルリにはショッピングモールへの突入を禁止していた。
理由は様々だが、やはり爆弾と建物という組み合わせから嫌な予感が鎌首をもたげていたというのが大きい。
「ルリは戦闘開始前に潜入して、中の情報とか、爆弾能力者が居るって調べてくれただろ? だからこれは二人の成果だ。わかったか?」
「……うん」
「納得してない声だなぁ~」
どうも、ルリは自分が役立たず……までは行かずとも、あまり活躍できていないと思いこんでいる節がある。
(自己評価の低いところは性格だろうなぁ。俺の言葉じゃ届きそうにないのが歯がゆいところだな)
実際は、痒いところに手が届く八面六臂の活躍と言える。
というか、要塞化された敵拠点に進入し、一切バレずに正確な情報を持ち帰れる諜報員がどれだけの傑物なのかを本人が理解できていない。
今回もその活躍のおかげで、爆弾女との交渉という手を思いつけたというのに。
「まあ、戦争は終わった。ひとまず次のことを考えよう」
「次?」
「ああ。これだけの戦闘だからな。間違いなく周囲にプレイヤーが来ている。無計画に襲撃するような馬鹿野郎がそこまでいるとは思えないが、隙があればそいつらの能力情報もゲットするぞ」
「う、うん。他には?」
「あとはそうだな。残り人数を調べるのも面白いな」
「残り人数……生存者のこと?」
「そうだ。それを知っているとな、ものすごい有利になるんだ。どんなプレイヤーが脱落したかっていうのもすごく重要だ。どうしてかわかるか?」
「……逆算ができるから?」
「他には?」
「えっと、まだ必要なイデオと、もう必要ないイデオがはっきりするから、とか?」
「それだけ思いつけるなら十分だ。能力内容から全部覚えてろとは言わないが、なるだけ人数に関しては覚えるようにしてくれよ」
「うん、わかった!」
すっかり懐いた相棒の声に頬がゆるんだ。
もう、声色だけで何となくの機嫌はわかる。
次の話をすることで、気を紛らわせることには成功したようで何よりだ。
(……しかし、ハッカーが何かする様子が無いな)
すでに半分近いプレイヤーが脱落したのは間違いない。
だというのに、ゲームの中止や介入はいつまでたっても起こらない。
ゲーム内時間だと、現実世界の時間の進みが全く把握できないせいもあるだろうが……。
(こりゃ、マジで俺が優勝するしかないかもな)
幸い、まだクックは生存している。
どこかで捕らえお話する機会を作るのが、目下最大の課題とも言えた。
「全員、身を守れ──!」
突如、絶叫が響いた。
思わず視線がモール跡地へと走る。
叫んだプレイヤーがノウンだというのは、声色で判断できた。
「な、なに……?」
ルリが不安げな声を上げる。
襲撃か?
そんな様子は見られない。
異常のない撤収風景。
次の瞬間、閃光が目を、そして爆音が鼓膜を貫いた。
凄まじい衝撃がレインボーモール跡地を、その周辺のビル群を、次から次へと連鎖するように消し飛ばし、後には何も残さなかった。
戦争は終わり、次の戦いが始まる。
敵は目の前だけにいるわけではない。
背後にも、ビルの上にも、そして地下にも潜んでいる。
爆炎と煙は狼煙のように立ち上り、キノコ雲と化し天を覆う。
その瞬間、不死狩り同盟は事実上の崩壊を喫した。
──残り、44名。
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現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。