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キングゼロ ~13人の王~  作者: 朝月 桜良
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軽食スコル

 仕切り直すべく、話題を変える。

「そういえば、ルナリスとシルファって本当の姉妹なの?」

 二人は自然と顔を見合わせた。

 ルナリスは表情を変えることもなく、平然と語る。

「私たちは異母姉妹──母が違うのです」

「お母さんが違う? それって……」

 どうしてシルファが兵士をやっているのか、疑問に思った。王であるルナリスの妹ならば、例え母親が違ったとしても、シルファもまた王族であるはず。わざわざ兵士になった理由は何なのか。

 一瞬、二人が王位を巡って争う姿が浮かんだ。有り得ないと一笑に付す。

「普段、シルファには私の側近としてサポートしてもらっています」

「へぇ、そうなんだ」

 相槌を最後に、シンリは口を噤んだ。

 ルナリスとシルファも同様だった。

 三人の間に、湿った風が吹いているような気持ちの悪い空気が流れる。


 沈黙が続く中、シンリはスコルを取り出した。

 ガサガサと、紙袋が擦れる音が空気を乾かす。

 ほんのりと空を白く塗る湯気で、乾き始めていた空気がまた湿った。だが、今回の湿り方は嫌なものではない。パンと肉の焼けた芳ばしい香りと、スコルの持つ温かみがおまけで付いている。

「スコルだっけ? ありがたくもらうね」

「ええ。どうぞ」

 ルナリスが少し戸惑いながらも頷くのを見届け、大きく口を開けてスコルにかぶりついた。味わうようにゆっくりと咀嚼する。


 もぐもぐもぐもぐ──ごくん。

 しっかりと味わい、もう一口かぶりつく。

 もぐもぐもぐもぐもぐ──ごくんっ。


 二口目を飲み込み、

「美味っ!」

 その口から自然と声が出た。

 中はふんわりとしながらも、外がサクサクに焼けているパンの絶妙な柔らかさと、肉の存在感ある旨み。野菜がシャキシャキとした気持ちの良い歯ごたえを与えている。それらが持つ甘みを、特製のソースが協調させていた。

 あまりの美味しさに食欲が止まらない。

 すぐさまもう一度かぶりつこうとするが、

「ふふっ」

「くっくっ」

 二つの笑い声に、やむなく食べるのを中断する。

 ルナリスはおろか、シルファまでもが、笑うのを隠すように手で口元を覆いながら、それでも隠し切れずに笑っていた。


 シンリは、笑う二人とスコルを交互に見てから、改めてもう一口かぶりついた。頬がパンパンに膨らんだまま、首を傾げる。すると二人はまた笑った。

 ルナリスが目尻に溜まった涙を指で拭う。

「す、すみません。あまりにも美味しそうに食べるものですから、つい……」

「まさかスコルをそこまで瞳を輝かせて食べるとは」

 シルファは、くっくっくっ、とまだ笑っている。

「だってこんなの食べたことないし、あんまり美味しいもんだからさ。というかほんとに美味しいよ?」

「いや、美味しいのは知っているが」

「もしかしたら、私たちの国では普段から食しているものなので、そこまでの感動がないだけなのかもしれませんね」


 ふと、シルファの目つきが鋭くなった。

「普段から?」

 ルナリスに冷ややかな視線を送る。

 反射的にルナリスもびくんと過剰な反応を示す。

「城ではあまりスコルは出しませんよね?」

「え、えぇっと……そうだったかしら?」

「少なくとも、普段から食しているなんてことはないはずですが?」

「そ、それは、その……」

「やはり抜け出して」

「ぬ、ぬぬ、抜け出してなんていないわよ?」

「姉様ぁ?」

「うっ……」

 焦り戸惑い呻く姿からも、シルファの勘が言い逃れできないほどに正しいことを物語っている。目を泳がせるルナリスはやけに小さく見えた。


 不意にシンリの口から漏れ出た言葉が水を差してしまう。

「感動がないのか。もったいないな」

 ルナリスは意外そうな表情を浮かべた。

「もったいない、ですか?」

「だってこんなに美味しいんだから、いつまでだって美味しいって感動したいじゃん」

 最後の一口にかぶりつく。

 よく噛んで味わい、飲み込んだ。

「うん、やっぱり美味しい。ごちそうさま」

 手を擦るように叩き、合わせる。


 二人はシンリを見つめ、またも微笑んだ。

「シンリの顔を見ていると、本当に美味しそうに思えますね」

「そうですね」

 まるで子供を見守る親のような眼差しだった。

──ぐるるぅぅぅっ。

 シンリの腹がまたしても催促する。

「食べてすぐにか!?」

「スコルは軽食ですから、逆に食欲をかき立てたのかもしれませんね」

 シンリは、なははっ、と笑う。

「お城に着いたら何か食わしてくれるんだよね?」

「ええ。それでは急ぎましょうか」

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