(第8話)現在の断罪
去年ハリー殿下がご乱心されてから一年が経って、今年もダンスホールでのパーティーの日がやってきた。
私とヒューゴ様との婚約の解消はまだ成立はしていなかったけれど、伯爵家でどんなに窘めてもヒューゴ様の行動は変わらずそろそろ伯爵家でもヒューゴ様を見限りそうな様子らしい。このままだったら、きっと学園の卒業までには婚約も解消にできそうな見込みだった。
一応まだ婚約者ではあるけれど、この半年まともに話もしていないヒューゴ様が私をエスコートするはずもなく、一応まだ婚約者のいる私が他の男性にエスコートしていただけるはずもなく、私は一人でダンスホールの入口に立っていた。
ダンスホールの入口の前で、一年前の自分の行動は本当に間違いではなかったのか、そんなことを考えていた。
「入場しないの?」
突然話しかけられて驚いて振り返ると、ハリー殿下と腕を組んだアイラ様が心配そうに私を見つめていた。
「アイラ様」
「……ヒューゴ様はオリヴィア様と一緒にもう入場されたそうよ……」
「いえ。ヒューゴ様を待っていたわけでは……」
「昨年、貴女が勇気を出して私を庇ってくれたから、私は今年もこうしてハリー様と一緒に入場が出来るの。貴女には本当に感謝しているの」
「……ありがとうございます」
「けれどそのせいでオリヴィア様がヒューゴ様に取り入るだなんて……」
「……それは別に……」
「大丈夫。何があっても私が貴女を守るわ。以前も言ったけれど、一年前の貴女のその選択は何も間違ってなかったと私が証明してあげる」
半年前に私の心をキラキラと輝かせてくれたその魔法の言葉は、だけど今回は私の心を輝かせることはなかった。
パーティーでの時間は和やかに過ぎていった。
「メイベル・エバンズ! 俺はお前との婚約を破棄する!」
突然、ヒューゴ様の声がダンスホールに響き渡った。
そのあまりに突然の出来事に、談笑をしていた生徒達は息を呑み、騒がしかったダンスホールは一瞬で静寂に包まれた。
その光景は、一年前にハリー殿下が起こした騒動と全く同じ流れだった。
さらには、ヒューゴ様の隣には、一年前にはハリー殿下の隣に寄り添っていたオリヴィア男爵令嬢が、同じように寄り添うように立っていた。
「ヒューゴ様。一体どういうことですか?」
会場中の視線を感じて諦めた私は、仕方なくヒューゴ様に話しかけた。
「俺はオリヴィアを愛している! 誰よりも! 世界で一番!」
……何を聞かされているの? 多分、会場中の誰もが私と同じことを思ったと思う。
「お前が俺を愛して醜く縋りついてくるから俺はオリヴィアとの真実の愛を貫くことが出来ない! 観念して婚約破棄に同意しろ!」
同意も何も子爵家から持ちかけてもうすぐ婚約の解消が成立しそうですよ、と私が答えようとした時に、予想外の声が響いた。
「オリヴィア嬢! 君はまた嘘をついたのかい?」
その声の主は、ハリー殿下だった。
「一年前の僕は、とても愚かだった。だけど、自分の間違いに気付いて反省することが出来た。そして、そんな僕をアイラは許して受け入れてくれた! 君も同じように反省してくれることを願っていたのに」
ハリー殿下に続いて、アイラ様の声も響いた。
「人間は誰でも過ちを犯します! ハリー様は、確かに過ちを犯しましたがご自分の過ちをしっかりと認めて、誠心誠意私に謝罪をしてくださいました! ですから、私はその過ちを許します!」
会場中がアイラ様を見つめているようだった。
一年前の出来事で、ハリー殿下の評判は少なからず落ちていたけれど、アイラ様の宣言できっとその名誉は回復されるだろう。
「けれどオリヴィア様! 貴女は同じ過ちを2回犯しました! 1年前は私を、今回はメイベル様を陥れようとしました! 私は、貴女の過ちを許しません!」