(第2話)アイラ様の魔法の言葉
この王国では、貴族は15歳になる年からの三年間を王立学園に通うことが決められている。王立学園のクラスは完全に爵位で分けられていて、私のクラスには子爵位の令息・令嬢しかいなかった。
けれど、17歳になる最終学年の魔法学の授業だけは実力順にクラスが振り分けられる。私は昔から魔法は得意だったので、嬉しいことにAクラスに入ることが出来た。
「貴女、パーティーの時の……」
初めての授業の時にアイラ様に話しかけられて、私はとても驚いた。……まさか私のことを覚えていらっしゃるだなんて……。
「メイベル・エバンズと申します」
「メイベル様。ずっと貴女とお話ししたかったの。あの時は本当にありがとう」
「そんな……。私は何も……」
「いいえ。私は確かにあの時、貴女に救われたわ」
アイラ様はとても美しい笑顔を向けてくださって、私はその笑顔に思わずときめいてしまった。
「……このクラスにはノア様もいらっしゃるから……。何か困ったことがあったら何でも私に相談してね」
ほんの少し困った顔をしてアイラ様が、囁くように言った。
サマーパーティーで『アイラ様がオリヴィア様を虐げているのを見た』と証言したノア様。私はクラスが違って関わることがないのでヒューゴ様からの噂だけど、皆から遠巻きにされているということは聞いていた。
「私は大丈夫です。……私よりもアイラ様は……」
「私も問題ないわ。なぜノア様があんな発言をしたのか未だに分からないけれど……」
私はこっそりとノア様の顔を見た。確かにノア様の周りには誰もいらっしゃらなかったけれど、全く気にせず堂々と前を向いていた。
「アイラ」
その時、愛しそうにアイラ様を呼ぶ声が聞こえた。
「ハリー様」
その声の方を振り返ったアイラ様は、とても嬉しそうにその名前を呼んだ。
良かった。お二人はすっかり仲直りしたんだわ。
「魔法学の授業も君と一緒で嬉しいよ。アイラの魔力は膨大だからね。僕も負けないように頑張るよ。……君は……」
笑顔でアイラ様に話しかけていたハリー殿下が、私に気付いて首を傾げた。
「メイベル・エバンズ子爵令嬢ですわ。あのパーティーの時の……」
気を遣ったアイラ様が紹介をしてくださった。
「あぁ! あの時の! ありがとう。君のお陰で僕は大切なものを失わなくてすんだよ」
ハリー殿下に笑顔を向けられて私は委縮してしまった。
「あのっ。本当に……。とんでもないことです。私なんかがでしゃばってしまい……」
「そんなことないわ! あの時、貴女には何も言わないという選択肢もあったのに、私を助けるために勇気を出してくれた。貴女の選択に私達は助けられたの。もしも貴女が後悔していたとしても、貴女のその選択は何も間違いではなかったと私が証明してあげる」
委縮する私に向かって、アイラ様がはっきりと言ってくださった。
その言葉は、ヒューゴ様からあの時のことを散々責められてささくれていた私の心を確かに救ってくださった。……まるで魔法の言葉みたいだった。