エピローグ:未来の断罪
「オリヴィア! どうして俺のプロポーズを断ったんだ!」
卒業パーティーで、卒業生の皆が思い思いに談笑している中で突然、私の元婚約者であるヒューゴ様の大声が響き渡った。
ちょうどノア様が場を外したところだったのだろう。一人で立っていたオリヴィア様はヒューゴ様を見て困惑していた。
「せっかくこの俺が愛してやっているのに! おいっ!!答えろ!」
ヒューゴ様はかなり興奮していて、今にもオリヴィア様に襲いかかりそうな勢いだった。
「ヒューゴ様。おやめください」
オリヴィア様を助けたくて、私はヒューゴ様に声をかけた。
「メイベル! やっぱりお前は俺が好きなんだな!」
「お慕いしておりません」
間髪を入れずに言った私にヒューゴ様は目を見開いた。……これ伝えるのもう数回目だけど……。
それでもまだ何かを言い出しそうなヒューゴ様は、警備兵に押さえつけられた。
「おいっ! 何をするんだっ!」
怒鳴りつけるヒューゴ様の前に、ハリー様がオリヴィア様を守るように現れた。
「今日は、今までのパーティーとは違う。学園を卒業した僕達には、この国を担う責任があるんだ。そんな場所で騒ぎを起こして無事で済むわけがないだろう」
それは、この学園に通う誰でも知っている常識だと思っていたけれど、ヒューゴ様は息を呑んでいた。
……まさか、今までパーティーで騒ぎを起こしても何もお咎めがなかったから今回も無事にすむと思っていたの?
うなだれたヒューゴ様はそのまま連行されていった。
……勘当されそうだとは聞いていたけれど、ヒューゴ様はきっと完全に……貴族として……終わった。
ヒューゴ様が会場からいなくなったことで、パーティーはまたさきほどまでの賑やかさを取り戻した。
その賑やかさに紛れるように、ハリー様はオリヴィア様を見つめた。
「オリヴィア。大丈夫だったかい?」
「はい。ありがとうございます」
「オリヴィア……。もしも君が望むなら、僕はすべてを捨てて……」
「……信頼できない人間と一緒にいても辛いだけです……。きっとお互いに……」
「……そう……だね……」
ハリー様は、ほんの少し俯いた後で、初めて私に視線を向けた。
「メイベル嬢。婚約おめでとう」
「ありがとうございます」
「……ディランには本当に悪いことをしたと思っているんだ……。僕が不甲斐ないせいで……」
「ディラン様の気持ちを私が伝えることは出来ませんが……。ディラン様は、私が幸せにしたいと……そう思っています」
「そうか。それなら安心だ」
「……あのっ……アイラ様は……」
「もう学生ではなくなったからね。明日からは無理矢理にでも部屋から引きずり出して僕と一緒に当主教育を受けさせると侯爵に宣言されたよ」
「……そうですか」
「アイラにとっても僕にとってもこれからが本当に大変なんだと覚悟しているよ。でも、すべては僕達の自業自得だから……。二年後にディランが学園を卒業してウィンチェスター侯爵家を出て行くまでには、侯爵の補佐として働けるようにはなりたいと思っている」
しっかりと前を見て言ったハリー様に、ついさっきオリヴィア様に告白してましたよね? というツッコミはさすがにできなかった。
ハリー様が去った後で、私はオリヴィア様と二人で話をした。
「メイベル様。ありがとうございます」
「……えっ?」
「先ほどヒューゴ様から私を庇ってくださいましたよね?」
「いえ。結局私は何もできませんでした……」
「嬉しかったです」
「……あのパーティーの時のこと、私は本当に間違っていなかったのか未だにわかりません。……ですが……オリヴィア様が、今、笑っていてくださることが何よりも嬉しいです」
私の言葉に、オリヴィア様は優しく微笑んだ。
あのパーティーで、私が言ったことはただの事実。ただそれだけ。でも事実を言うだけで私にはとてつもない勇気が必要だった。
私が事実を言っただけで、きっと何かが変わった。
だから……。
私は、これからも一生懸命考えながら生きていこう。
自分が正しいと思えることを、正しいと言えるように。
自分が正しいと思えることが本当に正しいのか、自分自身の目で見て判断しながら、一生懸命考えて生きていこう。
私を選んでくださったディラン様に、人生が終わるその時に自信を持って言えるように。
貴方のその選択は何も間違いではなかったと私が証明してあげる
最後までお読みくださいましてありがとうございます。
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たくさんの作品の中からこの作品を見つけてくださいまして本当にありがとうございました!