(第14話)これから
「ノア様。私はノア様の発言を嘘だと決めつけていました。本当に申し訳ございませんでした」
魔法学の授業の後で私はノア様に話しかけた。
「僕のことを信じていた人間は、この学園の生徒では誰もいませんでしたよ」
ノア様は穏やかに答えた。
「……私は、ノア様のおかげで自分の矛盾に気づけました。本当にありがとうございます」
ノア様は優しく微笑んだ。
「オリヴィア様にも、謝りたいと思っています。……許されることではないと思っていますが」
「オリヴィア様は、メイベル様に感謝していましたよ」
何でもないことのようにノア様は言ったけれど、私はとても驚いた。
「……まさか。だって、私は、オリヴィア様を否定するようなことを……」
「メイベル様。貴女が去年のパーティーで発言したことは、ただの事実です」
「……ただの事実……?」
「見てないものを見ていないと言っただけでしょう?」
「……はい」
「どうしてオリヴィア様がそんなことを仰るのですか?」
私は、ただ事実を言っただけ。ただ、それだけ。
「……なんだか胸が軽くなりました」
「オリヴィア様は言っていました。『あのパーティーでメイベル様だけは間違いなく本当のことを言っていた』と」
ノア様は、ほんの少し悲しい顔をして言葉を紡いだ。
「『何も信じられない状況の中でそれだけは間違いのない事実だと信じられた』と。……とても追いつめられていたんだと思います。疑心暗鬼の状況の中で、事実を言っている人間がいる、それだけのことがオリヴィア様にとっては、救いだったのですよ」
「……それだけのことで……」
「だから『メイベル様には幸せになってほしいと思った』と言っていました」
「……もしかして……ヒューゴ様と親しくされていたのは……」
「何が真実かを判断するのはメイベル様自身です。僕からお話しすることはもう何もありません」
ノア様は穏やかにそう言って、だけど、優しく微笑んでくれた。
「……はい。私も、これからは何が真実か、ちゃんと自分自身の目で見て判断していきたいと思っています」
卒業式が近づいてきたある日のディナーの席でお父様が震えながら言った。
「ウィンチェスター侯爵家から婚約の話がきている……」
「お父様。いくらヒューゴ様との婚約が無事に解消出来て浮かれているからって、そんな冗談はひどいです」
怒りに震えた私は、サーモンを切っていたナイフの動きを止めた。
……だって、どんなに望んだってそんなこと叶うはずないのに……。
「メイベル。冗談なんかじゃないんだ。本当に」
「しかもディラン様が子爵家にきてくださるのよ」
お母様はとても嬉しそうだった。
「……嘘です。だって……ディラン様は、ウィンチェスター侯爵家の……」
「……ウィンチェスター侯爵家はアイラ様が継ぐようだよ」
お父様の困惑した声が、食卓に響いた。