(第13話)告白
パーティーの翌日、ハリー殿下もアイラ様も学園にはいらっしゃらなかった。
「ディラン様」
放課後になってすぐに私は裏庭のベンチに向かった。
「メイベル様」
そこにはいつかの私みたいに泣きそうな顔をしたディラン様がいた。
「……大丈夫ですか?」
「僕は大丈夫」
「…………今日は、空間魔法をかけないんですか?」
「えっ?」
「ディラン様がいつでも泣けるように」
「……僕は泣かないよ」
「ディラン様のそんな顔、誰にも見せたくありません」
「……メイベル様は怖くないの?」
「……何がですか?」
「……姉上は、オリヴィア様を空間魔法に閉じ込めてとても酷いことをしていたんだよ」
「ディラン様はそんなことしませんよ」
「……空間魔法をそんなことに使うなんて思いつきもしなかった……だから……ノア様しか目撃者がいないのなら……姉上は本当にそんなことしていないと……信じたかった……」
「……私もアイラ様を信じていました」
「僕が弟になった時から、姉上はいつも優しかったけれど……ふとした瞬間、無表情になることがたまにあったんだ。そのことがとてつもなく怖かった……。去年くらいから無表情になる瞬間が増えて……様子がおかしいと……気付いていたのに……」
「……もしかして、私がアイラ様に誘われて侯爵家に行った時に挨拶にきてくれたのは……」
「……僕の友人なら姉上がメイベル様に何かをすることはないと思ったんだ」
「……そう……だったんですね……」
「……結局、僕は何も出来なかった……」
「私なんて、何にもできないどころか去年のパーティーでアイラ様がオリヴィア様を虐げるところなんて見ていない!って宣言してしまいました」
「それは……」
「そして今年は私が婚約者に婚約破棄を叫ばれました」
「……」
「私に比べたらディラン様なんて全然たいしたことないですよ!」
「ちっともなぐさめになってないけど」
「なぐさめるつもりなんてないです! ディラン様は強い人ですから、きっと一人で立ち直れます」
「……そんなこと……」
「お姉さんのために全校生徒の前で頭をさげられるとても強い人です」
「……」
「さすが私の天使です」
私はベンチから立ち上がって、真正面からディラン様を見つめた。
「ディラン様は、私の天使です」
ディラン様もベンチから立ち上がって、私を見つめた。
「それは告白?」
「叶わなくても気持ちは伝えたいと思いました」
「……えっ? ちょっ? えっ? まさか本当に告白?」
ディラン様はとても慌てて、それから顔を赤くした。
「ディラン様。幸せになってください。ディラン様なら立派な侯爵家の当主になれます」
「……メイベル様」
「私も、子爵家を守ります」
ダメだ。涙が出そう。そう思った時、もう何度も包まれた温かさに包まれた。
「……ごめん。やっぱりメイベル様の涙を誰にも見せたくないんだ」
「そういうディラン様の方が泣きそうで……」
言い切る前に抱きしめられた。
空間魔法の中でも、ディラン様はとても温かかった。
大丈夫。私は、この思い出だけできっとこれからずっと生きていける。