マルガという少女
聖女見習いとして週に一日は寺院に通っている。
何をするかと言えば、清き間で人々の悩みごとや愚痴を聞く仕事があるためだ。
しかし、本日はマルガという少女以外誰も来なかった。
「で、ウマリスはアーガンの事が好きみたいで……」
「ねぇ、マルガ。ここは悩んでいる人が悩みごと相談したり、心に留めておけない罪を告白する場所なの」
「うん……。実は……信じてもらえないと思うけど」
「大丈夫よ。話してみて」
「私、この世界じゃくて、別の世界で生きていたの……」
うん? マルガも異世界に連れて来られたのか?
「そう……。どんな場所から来たの?」
「え? 信じてくれるの?」
「わざわざ清き間にそんな嘘をつきに来るはずがないわ」
「うん……。どんな世界って言っても、別の世界があるとは誰も思ってないから、名前なんて無いの」
「国も無いのかしら?」
「ううん、国は《日本》っていう島国。日本の外に出たことなんて無いけど」
マジか!! 日本人かよ……。
「戻りたいの?」
「うん。もしかしたら失踪した兄が帰ってきてるかも知れないから。会えたら……『ありがとう』って言いたいの」
「ありがとう?」
「命を救ってくれたのに、命を救ってくれたのに……。あの事件以来、目も合わせることも無くなったの」
何か似ているな。
俺もこっちの世界に転生させられて、もう16年か、元の世界と時間の流れは同じなのだろうか?
「でね。アルベ様が帰りたかったら聖女見習いに、この本を渡せって」
俺は本を受け取る。
アルベか。
何か引っかかるな……。
「ねぇ、元の世界で、貴方は何ていう名前かしら」
「私は……凛音、▲※●凛音……」
お、お前……。り、凛音なのか!?