第8話:アーフィークス家
『しかし、何処で習ったんだ?エルフの言葉なぞ』
アーフィークスは店主改め「トロリア・ロードレット・ゴフテ・テレンス・パリオネラ・アーフィークス」は、サフィ・ロードレット・ゴフテ・テレンス・アーフィークスの兄だった。
つまり、彼らはアーフィークス家の兄妹だった訳だ。
うん、名前長すぎて内容が頭に入ってこないな。
『喋ったら、喋れただけです。記憶を失ってて、誰に習ったかは覚えて無いんですよ』
『そ、そうだったのか。悪い事を聞いたな』
俺を気を遣うような言葉をかける妹アーフィークス改めサフィ。
しかし慣れた反応なので、もう気になったりはしない。
『しかし、まさか私がいない間に頑固な森理族が外に出る決断をするとは……』
『時代は変わるのだよサフィ。最近は若い衆が力を持ち始めてな。今なら戻って来ても良いんじゃないか?お前の部屋は出て行った時そのままになってる』
『今更戻れる訳ないだろう。伝えてくれ、部屋は片付けて置いてくれ……と』
『良く言うよ』
口調は余所余所しいが、仲が悪い訳ではないのだろう。
お互いの顔には穏やかな微笑みが浮かんでおり、雰囲気も何処か優しげだった。
彼らは一頻り再会を喜びあうと、トロリアはコチラに向き直った。
『サフィの友人なら無下に出来んな。半額にしてやるから好きなの選んでいいぞ』
『……との事なので、ひとつ選ぶといい』
なんか俺、この2人のお言葉に甘えすぎてないか?
王都の案内然り、半額の仮面然り。
『しかしまぁ、そう言うなら1つ買わせて頂きましょう』
俺は一つ一つ、確かめるように仮面を見ていく。
まず、顔を全て隠すのは前提だ。目だけ口だけもカッコイイが、バレないことに重きを置かねばなるまい。
そしてもう1つは、なるたけシンプルなデザインだ。
凝ったデザインの仮面を買って、金持ちと間違われれば襲われてしまうかもしれない。
あくまで何かしらの理由で顔を隠した、みすぼらしい男でなければならないのだ。
『じゃあこれを買わせていただきます』
『お、センスいいな!さすがサフィの友人だ!なんの塗装も施されていない仮面の下地に、シンプルな曲線のみで彫られた先進的かつ古き良きデザイン!今流行っているカルタネルラ方式に真っ向から立ち向かうその姿勢は芸術性そのもの、まさに現代芸術の先駆者ともいえる!刀は『モルガン』。彫り師はフラマリーチェ・コンテライン・テレンス・パリオネラ・アーフィークスだ。これでいいな?』
『え、ええ。これでお願いします。』
熱量がスゴイ。
シンプルで目立たないから選んだだけなのだが、どうやら正解を引き当ててしまったらしい。エルフのセンスというやつなのだろうか。
そう思ってサフィを見ると、露骨に引いていた。なるほど芸術というのはかくも理解されがたいのだろうか。なんて思ったりしてみる。
俺も分らんしな。
俺はトロリアから値段を聞くと、色々と教えてくれた対価としてそれより少し多めに渡す。
が、しかしこんなものは受け取れないと言われてしまった。エルフ……というよりもキャツリンにはそういう文化がないらしい。
俺は正規の値段分を素直に渡すと、ついでにと思い短剣等の軽い武器が売っている場所を聞いてみることにした。
『短剣か……俺はこの街に来たばかりだからな。分らん』
『短剣ならもう少し門側に行けば売ってる店があるはずだ。この前見た気がする』
『この前というのは……?』
『半年ほど前だな』
エルフの時間間隔当てにならねぇ……。
こんなところで異世界のお約束を発動しなくてもいいんだよ。
しかし、門の近くが武器を売っているエリアで、そこに行けばいくつか武器が手に入る……なんてことかもしれない。
そうと決まれば早速行こう。時間は有限だし、いち早くフェルを失明から救いたい。
俺は2人に別れを告げると、入った時の門の近くまで行くことを決めた。
歩いていると思う事といえば、やはりその栄えっぷりだろう。来るときはいっぱいいっぱいで気に留めていなかったが、なるほど。知らないもの、知らない事、知らない種族が入混じるこの東区が、王都の正門なのだと再度実感した。
実際に道中、すごく気をひかれる魔道具や、薬などが売っている。
火をおこす魔道具はカルミアが使っているのを見たことがあるが……魔力を込めて水を出すだけのものから魔獣や風から装備車を守ってくれる指輪まで様々だ。
一つ買ってもいいかもなんて思ったが、値段を見てびっくり。どれも日本円にして40万は下らない一品だ。
とても手が出ない、というか効果に対して値段が一切釣り合っていない。金持ちの享楽なのかね。
ちなみにカルミアの持っていた魔道具の値段は90万ほど。親から譲り受けたらしいが、なぜこんなものを買ったんだろうか。
カルミアの親金持ち説が俺の中に浮上した。どうでもいいけど。
と、そんなことを思いつつ東門が間近に見える位置まで移動。
そうすると案の定、短剣等の武器を売っている店を発見した。いろんな店を見て回ると、流石王都といったところか。魔道具や薬と同じように、さまざまな種類の武器が揃っていた。
金ぴかで紋様が入っているような、いかにも高級感漂う短剣から、武骨で単純な作りの短剣まで様々だった。
「これ一つ下さい」
「あいよ」
値段交渉もそこそこに、俺は1番安い値段の短剣をゲットする。
切れ味は悪そうだが、戦う気は無い。こういうのは持ってるのが大事なのだ。
俺は短剣を腰に差すと、北区へと足を進めた。




