第7話:再挑戦の準備期間
ちょっと区切りが多いですが、多分大丈夫なんで読んでください
目を覚ませば、もう空は暗くなっていた。
「手、あるよな。足も、ある。体も、ある。服が……ない」
リスポーン地点は白壁の付近だった。血で汚れたような跡が壁に付着しており、それは運が悪いことにあの拷問のような光景を、感覚を俺に思い出させた。
「やっべ、震えが止まらねえ……」
軽くなっていた死への恐怖が、重みが再来し、体と心が乖離するのを感じる。それと同時に俺は、盛大に掃き散らかした。
気持ち悪い。自分の体が、自分の体だと思えない。
さっきまで、直前まで全力で痛みを訴え、叫んでいた全身が嘘のようにおとなしく、しかし頭だけがあの惨状を理解していた。
俺のリスポーンは、死ぬと同時に死体も消える。恐らくあいつらは俺の死体がなくなった事で揉めるか、嘆いていることだろう。
一矢報いたと言えば聞こえはいいが、代償が大きすぎた。恐らく俺はもう、北区に行く勇気すら失ってしまっている。
「けど、少しでも情報が必要なんだ。少しでも……。その為には、ドーブってやつと会わなきゃいけないんだ……」
俺は吐いて余計に気持ち悪くなった体を何とか叩き起こして、裸足のまま歩き始め……
「あ……?」
俺の意に反して体は、吐瀉物の上に崩れ落ちた。
*
「ノワールは私に迷惑をかけすぎよ」
とは、起き抜けに放たれたカトゥルの一言である。
どうやら俺は見回りの警備隊員に、全裸に吐瀉物まみれだった所を保護されたらしい。
全身を洗ったのは警備隊の仕事で、俺に服を着せたのはカトゥルだそうだ。
知らない人に自分の全裸を見られることに抵抗がなくなってきている自分が嫌だ。
ちなみに水代と保護代は俺の財布から勝手に抜かれていた。というか警備隊の人が持ってったらしい。まあ、文句はないけどさ。
経緯としては
警備隊が俺を保護。その後一晩帰ってこない俺を心配したカトゥルが警備隊に駆け込み、無事に保証人が見つかった俺を宿で引き渡して警備隊が退散。という流れらしい。
まあ、運がよかったとしか言えない。
「しかし何があったのよ。出て行ったっきり戻らないなんて」
「いえ、ちょっとした裏切りというか、騙し討ちにあったんですよ」
「あれほど言ったのに、馬鹿よ」
ずいぶんとはっきり言いますねカトゥルさん……?
「でも、そうです。馬鹿でした」
「そうよ、馬鹿よ」
俺はスリの少年とカトゥルの言葉を比べて、スリの少年の言葉を信じたんだ。挙句カトゥルを含めた沢山の人達に迷惑をかけた。
反省せねばなるまい。
猛省せねばなるまい。
「ありがとうございました。何度もお世話になって」
「チップは期待してるわ」
そう言うとカトゥルは部屋を出て行った。
去り際にもう無茶はするなと釘を刺したカトゥルの言葉に、曖昧に笑って返す。それを見て何を思ったのか、カトゥルは呆れたように頭を振って部屋を出るのみだった。
「無茶……ね」
俺は王都に来てからの数日を思い出す。
思えばろくな目に合ってないな、俺。宿屋に泊ったのはいいが、裸を見られる。お詫びに案内された街中ではスリに合う。スリの少年に案内させれば、騙されて激痛を味わう羽目になる。
不運使い果たしすぎでは?
「さてと、『リスポーン』」
俺は誰にも聞こえないようにそう呟いた。
「こういう系の能力は発動条件それらを見破られると厄介だ。俺のことを探し回ってるとしたら厄介だしな……。仮面でも買うか?」
諦めるつもりは勿論、ない。
北区を、死ぬという事を、舐め腐って痛い目見たのは事実なのだが、しかしそれで一々立ち止まっていたら凡人の俺にはジキルハドの最奥。賢者のいるところまで辿り着く事など到底不可能だろう。
この力を利用するしかない。
しかし……装備がない。
北区に行ったときに持って行った装備が全てだったので、俺は北区という魔境を一人、丸腰で戦い抜かなければならないという事になる。
もう一本剣を買う余裕も無かったしな。
ただ、唯一の幸運は服と金が無事だったことか。金は殆ど持って行って無かったし、服一式は大損だが、1着しか無い訳でもない。
結果的に大損害は負ってない。が、服や最低限の見出しなみを考えればゾンビアタックにも限度があるだろう。
……というか次でダメなら多分もう不可能だ。魔狩で稼いでもう一度行くぐらいならジキルハドに情報無しで突撃した方が得だろう。
「とりあえず下着は着ないで行こう。布は貴重だ。後は……」
行きがけに短剣、仮面系を買って行った方がよさそうだな。
戦う気が無いとはいえ、完全丸腰は気が引ける。
「そうと決まれば東区に行くか、仮面と短剣を買いに行こう」
俺は股間と肌が心もとない服装で部屋を出た。
*
東区は相変わらずの繁盛っぷりだった。
馬車が行き交い、人であふれた大通り。そして道の端を見れば異国情緒のある珍しい品物から見たことのない果物まで、世界中の品が一か所に集まったような数々の露店。
その中には案の定、短剣や仮面を売っているものもあった。
善し悪しが分かる訳ではないが、仮面を売っている露店を訳知り顔で見ているだけで、露店の店主が話しかけてくれた。ちょっとした優越感。
そしてこの店主、超絶イケメンだ。フードを被って全体像は見えないが、黒がかった金髪に、金色の眼。整った目鼻立ちは彫刻のように整っていた。
「兄ちゃ、仮面が分かるのかい?」
「ええ、仮面好きですよ。目だけを隠すマスカレードマスクの怪しい感じとか、顔全体を隠す仮面の下には更に甘いマスクが隠されてて……!とか。ロマンの塊ですよね、仮面」
「おお、あんた分かってるじゃないか!」
俺がなけなしの知識で語った仮面知識は、どうやら店主のお兄さんの琴線に触れたらしい。
仮面という表情を隠す物に込められた意図とか、製作者の芸術性について熱く語られた。が、これが中々興味深い。
このまま北区に突入するつもりだったが、時間を忘れて店主と語らってしまった。
仮面ライダーとか見せたら喜ぶんじゃなかろうか。
しかし話を聞く中で分かったこともある。
どうやらこの人、カレダ公国の上、竜の住まう地に挟まれた国キャツリンから来たらしい。
キャツリン。
聞くところによるとキャツリンは仮面作りが盛んらしい。
森が多く、原始的な暮らしをしているものが多かったが、最近になって森の外に出始めたので、金が入用になった。
そこで彼らの文化である、仮面を売ればいいんじゃないかと考えたそうだ。
彼らには成人するまでは仮面を被って過ごすという伝統が残っているようで、全員が全員、仮面作りに精通している。
それでどうせならこれを武器にして金を稼げばいいんじゃないか、と。
で、その出稼ぎに駆り出されたのがこの男なわけだ。
なるほど少し訛っていると思っていたが、それなら納得だ。
それより俺が気になって仕方がないのはもう一つ、俺がキャツリンの言葉を喋ることが出来るのか……だ。
今更ながらこの言語チート、底が知れない事この上ない。カレダ公国の言葉が分かるのみならず、恐らく高度で難しい言語という扱いを受けている精霊言語ですら読み書きができた。
この世界の識字率は知らないが、恐らく高いとは思えない。そこそこベテランっぽい冒険者でも読めない人は多かった。
今このプリアトラに出稼ぎに来ているのは彼だけだという話だし、試しておいて損はないだろう、という事で。
「ちょっとキャツリンの言葉喋ってもらえますか?」
「はい、いいぞ」
やはりちょっと訛ったカレダ語で返答する店主。
『これがキャツリンの言葉だ、こんにちは』
『こんにちは』
『うお!?』
必殺、不意打ち言語返しである。
どうやら俺はキャツリンの言語も聞き取れるようだ。少なくともリスニングは完璧。スピーキングは発音に若干難ありだが、伝わってはいるはずだ。
訛りってやつだな。
『まさか、森理族の言葉を喋れる奴がいるとはな!!驚いたよ』
え?
え、え、え、える?
エル……フ?う、嘘だろおおおおお!?エルフ、いんのか、エルフ!
若干興奮気味で俺は店主に聞き返す。
『キャツリンってエルフの国なんですか?』
『ん?知らなかったのか?世界樹があり、森理族達の住むユグラシア大森林。それがキャツリンの領地だ』
俺は語らった。それはもう語らった。
何せエルフだ、もう、ファンタジーでは定番中の定番、今時無い方が珍しいエルフだ。長い耳を持ち、天才的な魔力操作と膨大な魔力量で魔法を操るエルフだ。
ボンキュッボンで美男美女しかいない、長寿で耳の長いエルフだ!
語らわない理由がない。
というか店主の方も、母国語で会話できる相手を見つけて嬉しいようだった。ウィンウィンである。
『そう、それで残念なことにエルフに巨乳は少ない。少なくとも俺が見たことがあるのは数人くらいで……』
『俺得ですね、残念だなんてとんでもない』
『何やってるの、兄さん』
突然会話に入ってきたのは、間違えるはずもない。非常に見覚えのある人物だった。
『サフィ……』
『アーフィークスさん……』
テンションが上がっていた俺たちの横に立っていたのは、この前カトゥルの宿に泊まっていた、アーフィークスであった。
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