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第2話:アーフィークス

 宿の内装はなかなかに良かった。まず、ベッドが柔らかい。

 そして、思った以上に広い。


 流石に日本の一般ホテル並ではなさそうだが、ベッドと机、それと椅子があってもまだある程度スペースがあり、少なくともラピスのものとは比べ物にならないだろう。

 ホコリなどが溜まっている様子もない。掃除が行き届いている様だ。


「ベッドの上はどうなのかしらカトゥル……」


 優雅な動作でベッドの前に立つ。自分で言うなと言うツッコミを黙殺しつつ、シンデレラの意地悪なお姉さまみたいなことを言って俺はベッドの淵に指を這わせた。

 しかし指に埃が付着することはなく、試しに机などにもやってみたが、案の定埃が付く様なことはなかった。


「し、仕事が完璧すぎる」


 異世界というか、外国ってもっと適当なイメージあったんだが。払拭しなきゃいけない点かもしれないな。


「と言うか……木造、なんだな。こっちの世界に来てから木造建築なんて久しく見てないぞ。しかも地下」


 地下に作られた宿だからだろうか。狭っ苦しくて石詰めされてる様な謎の先入観があったのだが、実際は隠れ家の様な構造だった。

 木造の壁や床もそうだが、全体的に温もりを感じるというか、ワクワクするというか。

 ドアを開ければ出迎える均等な配置、木造の部屋。そしてその区画分けされた様な画一的な構造。それらが相まってまた、()()()()()を後押ししている様に思えた。


 値段はラピスの時より安いのに、雰囲気はそれよりもずっと好みだ。

 追加でいくらか払いたいぐらいである。まあお金ないから無理なんだけどさ。



「とりあえず、長旅疲れたしとっとと寝たいな……いや、風呂にも入りたい。王都の大衆浴場にでもいくか?」


 しかし、そこまで体力が残ってる訳じゃないんだよなぁ。

 相当広い王都プリアトラは流石というか、ここまで歩いてくるのも一苦労だった。

 実際外では元気だったが、プライベートな空間を手に入れたともなると、疲れがどっと押し寄せてくる様な気がする。


「でも、地球にいた頃よりは活動的だよな。やっぱり、所変われば人変わるってことかぁ」


 あれ、品変わるだっけ?意味的にはどっちでも良さそうだけど。


 俺はベッドの横にもたれさせる様に荷物を放り投げると、ベッドの横を背もたれに、その隣へ座った。

 流石に汚れているし、このままベッドに飛び込むのはあまりやりたくない。後で後悔するのはどうせ自分……後はカトゥルなのだ。

 流石に土埃にまみれた布団を掃除するのは一苦労だろう。


 俺はとりあえずで着ていた服を脱ぎ捨てると、荷物の中に入った着替えを取り出そうとチャックを開けた。

 着替えを取り出してから脱げばよかったと言われればその通りなのだが、頭が回っていなかったのだ。許されるだろう。誰が入ってくるわけでもないしな。


 しかし、地下だからか裸でもあまり寒くない。なかなか良い宿じゃないかと再確認。

 サンドに紹介料でも払おうかなー。


 ……まあ、お金ないから無理なんだけどさ!


 大きな鞄の中からズボンとシャツ、上着を取り出して着替えようとしたその時だった。


「金庫の鍵を渡し忘れてい……た」

「あ」


 こんな、少年漫画でもやらない様なド定番を自分が味わうなど、誰が予想できようか。



 *


「わ、悪かったわ」

「いや、良いすよ別に……。ここに来てから見られ慣れてるし」


 最後に小声で言ったことは聞こえなかった様で、カトゥルは申し訳なさそうに目を伏せている。

 そう、意外と俺は見られ慣れている。ラード達と出会った時には裸だったし、


「ノックもせずに入って、客の裸を見るなんて……私にあるまじき失態」

「ショック受けすぎじゃない……?」


 だんだん詫びの方向が俺じゃなくて自分になってないか?

 と、心の中で小さくツッコミを入れつつ、俺は金庫の鍵を受け取った。


「本当にもう大丈夫ですよ。鍵、ありがとうございます」

「悪かったと思ってるわ……」


 しょんぼりしながら部屋を出て行こうとするカトゥル。

 そんな姿を見せられると俺の方が罪悪感で死にそうなんだが……。


「そうだ、じゃあ大衆浴場の場所教えてくださいよ。それでちゃらです」

「え?」


 こちらを振り向いてキョトンとした顔を見せるカトゥル。目をぱちくりとさせている姿はまるで猫の様……てかそうか、カトゥルって猫獣人じゃん。

 やたら高圧的な態度も自己中心的な言動も猫に由来しているのだろうか。


「い、良いわよもちろん!というか近くだから案内してあげるわ!」

「え?その間の宿はどうするんですか」

「今私の友達が泊まりに来てるのよ。そいつにやらせれば問題ないわ!」

「結構な大問題じゃない!?」


 客に業務を押し付けるオーナーがどこに存在するというのか。ここか。ここなのか。

 俺はカトゥルに手を引かれるままに07と書かれた部屋の前まで行く。

 遠慮のかけらもない手つきでごんごんと扉をノックするカトゥルを横目で見つつ、俺はどうか普通の人であってくれと願っていた。


 ガチャリと開いたドアの中から出てきたのは長身の女性。

 俺と目線が同じだから、175以上はあるだろうか。カトゥルと見比べたときの身長差が激しすぎて目の錯覚を起こしそうだ。

 服は比較的ラフなもの。布地の軽装とズボン。腰に刺した剣が唯一彼女が戦闘従事者であることを示していたが、それ以外で言うならば普通の女性である。

 剣の柄と鞘には様々な意匠が施されており、絢爛な見た目はまるで聖騎士のものだった。


 そして、流れる様なダークブロンドの長髪に碧眼が目立つ整った顔立ち。この世界には美男美女の存在以外許されないのだろか。

 それとも俺の目に異世界人に対する何かしらの色眼鏡が働いているのだろうか。


「どうしたカトゥル。何かあったのか」

「アフィ。今からこいつを大衆浴場まで案内するから、その間店番やってて欲しいのよ。客がきたらお金を受け取って金庫の鍵と部屋の鍵を渡せば良いわ」

「今客のことこいつって言わなかった!?」


 俺の言葉をさらっと流すと、その女性はじっとこっちを見つめてきた。


「あなたは誰なんだ?」

「の、ノワールです」

「ノワールか。カトゥルとはどういう関係だ」

「裸を見た仲よ」

「おっとぉ?語弊しかない言い方ですね?」


 俺が驚いてカトゥルを見ると、カトゥルはすました顔で彼女を見上げている。


「えっと……」

「……私が名乗っていなかったな。失礼。私の名前はサフィ・ロードレット・ゴフテ・テレンス・アーフィークス。長いのでまあ、アーフィークスとでも呼んでくれ」

「アーフィクスさんですか」


 はっきり言って覚えられたのはアーフィークスという名前だけだったが、ご愛嬌というか言わないお約束というか。

 そんな感じにしておいてもらおう。


 アーフィークスはカトゥルと俺をそれぞれ見ると、改めて問いただした。


「で、結局カトゥルとはどういう……」

「ただの客ですよ。ただ、カトゥルさんが間違えて着替え中に入ってきちゃったんで、お詫びにって感じで案内してもらうことになりまして」

「やはりそんなことだろうと思ったよ」


 アーフィークスは小さく頭の後ろを掻くと、腰の剣に手を置いて壁にもたれかかった。


「まあ、そういうことならカトゥル。王都を案内してやったらどうだ。店番くらいはお安い御用だ。どうせほとんど客は来ないだろうしな」

「むぐぐ……」


 客が来ないという言葉に言い返すことができないのか、悔しげな顔で唸るカトゥル。

 しかし王都の案内とは思わぬ提案だ。乗っかっておくに越したことはないだろう。


「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」

「ああ。そうすると良い」


 俺とアーフィークスのやりとりを見て諦めたのか、カトゥルは溜息を吐きながら了承した。


「わかったわ。じゃあ、この私がノワールに王都を案内してあげる」

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