第9話:『冒険とは衝動だ』……ってね。
遅くなってスイマセン、次は早めに投稿できるように何とか頑張ります。
「え!?君『冒険王ロザン』知らないの!?」
「は、はい」
フェルが大きな声で机から顔を乗り出して言った。
数日ぶりに再会した彼らは、特にフェルは、俺が魔狩になろうとしていることをいたく喜んでいた。
そこで俺がこの数日間に何をしていたか、これからどうするつもりなのかを聞かせてほしいと言われたのだ。
彼らはこの世界における大恩人だし、さらには奢ってくれるとまで言われたので、俺は彼らに続いて店に入り、これまでの顛末を話した。
入ったと言ったって別に何か区分けされているわけではないので、正しくは「注文した」なのだが、それはまあどうでもいいとして。
とりあえずノワールという名前をもらったことや、憲兵団での数日についてや、ロウェさんについて。
俺が話す間、彼らはその話を興味深げに聞いていた。
そしてこれまでの話はひと段落したのだが、ふと気になって料理が届くまでの間、俺は冒険王ロザン……つまりあの像の人物について聞こうと思っていた。
そして誰かと聞いたらこの反応である。
心なしかラードやマヤも驚いた顔をしているように見えた。
「そっかぁ、そうだよね。だって記憶喪失だもんね、半分忘れかけてたけど」
「え、ええ」
冒険王というからにはものすごい冒険家だったりするんだろうか。
それとも海賊王みたいな?
「冒険王ってのは世界最強の魔狩にして世界最大の魔狩ギルドである『魔狩共同組合』を作った偉大な人物だよ、知らない人はいないくらい!」
「思った以上にすごかった」
「多分、今から想像を何個か上回るから覚悟しといて」
真剣な顔で迫るフェルに、俺はコクコクと頷いた。
「ごめんねぇ、フェルはロザンの物語が大好きでぇ……」
「あんただって前ハマってたじゃない!図書館に篭りっきりで……」
「うるさぁい」
目の前で始まった漫才に、置いてけぼりになってしまう俺とラードを助けるように、注文していた料理が届いた。
「お待たせしましたー!アダリア酒2杯とココジュース、それにカラマス・コットです!」
「ありがとう、アダリア酒は二人に、ココジュースは彼に」
ラードは店員にジェスチャーで伝えると、店員はその通りそれぞれにジョッキをおいた。赤々しいジュースが俺の前に置かれる。
なんとも、無難なものを選んだつもりだったが、なかなかにエグそうな見た目をしていて、若干怖気付く。
フェルとマヤは俺がまごまごしてる間に、ジョッキのアダリア酒なる酒を一気に飲み干している。
見た目は葡萄酒のようで、赤紫がかった透明な液体が木製のジョッキに注がれていた。
葡萄酒のような見た目ではあるのだが、しかし軽く一気飲みできるということはそこまで高い酒でもないのかもしれない。
対してラードは頼んだカラマス・コットというものに手を付けようとはしなかった。見た目は野菜ジュースのような緑っぽい液体だ。
ジョッキを手元で遊ばせている姿はなかなか絵になっており、得も言われぬ敗北感を味わってしまうので、あまり見ないようにする。
俺は、見ていても仕方ないと思いココジュースに口をつけて一気に……は怖いので、一口飲んでみた。
「ん、美味しい」
その刺々しい見た目に反して、味はなかなかまろやかだった。
ドロっとした感じが俺の好みにドンっピシャだ。濃いオレンジジュースに何かを混ぜたような、飲んだことはあるんだけど思い出せないような味だった。
そんな微妙な感慨にふけりつつ、ココジュースを一気に飲むと、これまたフェルが驚いたような呆れたような顔をする。
「そんな濃いやつ、よく飲めるね」
まあ確かに好みが分かれそうな味ではある。
少なくとも俺は好きだが、フェルはこのジュースは苦手なのだろうか。
めっちゃ脱線した。そうだ、冒険王についてだった。
「それで、冒険王ってのは結局どんな人なんですか?」
そう聞くと、待ってましたとばかりにフェルが答える。
「一番偉大な功績はといえば、世界地図を書いたことかな。今は写しがとられて各国に保管されてるらしいけど、彼の前に世界地図をかけるような人はいなかったんだよ。勿論市販できるような代物じゃないから、研究者や各国の代表者以外は誰も見たことが無いらしいけどね」
「世界地図か……」
江戸時代の人々は凶暴な獣や化物がいない日本の地図を書くのでさえ苦労したのだ。
世界地図を書くなんて、それはもう、実感は湧かないがすごいことなのだろう。
「その地図は紙にして数百枚、竜の巣から海の上、魔族領ですら全て書き記した世界地図は、ロザンの人生そのものだ。……と、ロザンの文献の研究者は口を揃えていうほどよ!」
「ロザンの研究者!?そんなものまであるのか」
「えぇ、昔から彼の文献や功績、地図の解明、魔王やこの星の仕組み。ロザンは世界学者や天文学者の研究を大きく進めた第一人者でもあり、最強の魔狩なの。だから魔狩は彼の名をとって『冒険者』と呼ばれたりする。四十年前に彼が死んだ時、魔狩は最もメジャーな職業にすらなってたんだよ」
思ったよりも凄い人でびっくりした。そりゃ像にもなるわ。
「そして彼は、当時千々になっていた魔狩のギルドを、一つにまとめたんだ。そりゃ、今でも大きな魔狩ギルドはいくつか残ってるけど、そのどれもが組合に遠く及ばない。世界で唯一の国際機関とまで言われてるんだ」
「要はぁ、超超有名ってことですねぇ……」
「あと彼の有名な功績といえば、世界で最新の龍討伐があるな」
「龍!?」
俺はその単語を聞いて思わず身を乗り出した。
龍なんていうファンタジーの代表みたいな生物が存在するのか……!
しかし彼が死んだのは四十年前って話だ。つまり彼が龍を殺したのは最低でも四十年前ってことになる。
龍、どんだけ強えんだよ。
「そもそも、龍ってなんなんですか?物凄いってのは何と無くわかるんですけど」
「龍に食いついたわりに龍について知らないって面白いね。どういう感覚なんだろ」
「こら、フェル。失礼なことを言うな。すまない、それで龍だったな」
ラードは椅子に座り直すと、続けた。
「龍というのは、世界最強の生物の一角とされている魔獣だ。口から吐く炎は鉄を溶かし、その鱗は鋼鉄の剣を叩き折る。飛翔すればその風で周囲が吹き飛び、咆哮すればその音で人々は恐慌し、精神がやられる。操る魔法はすべての生物を上回り、生命力はどの生物よりも強く、寿命はない」
「ヤバイってのは分かります」
「それさえ分かれば問題ない。基本的に、挑むだけ無駄だからな」
ラードですらこう言うのだ。それはもう本当にやばいのだろう。
俺は龍の存在に身震いする。そんな暴虐無人な存在がいるなら、おちおち外も歩けまい。
街だって作っても壊されるのでは?
俺はそう思って聞いてみると、ラードがそれに返してくれた。
「しかしまぁ、そこまで怯える必要はない。龍は数えるほどしかいないし、怒りっぽいわけでもない。安易に縄張りに踏み込まなければ逆鱗に触れるようなことはないだろう。実際に、龍に守られている国だってあるらしい」
龍に守られる国か……行ってみたい。
さっきから憲兵団だの死に目にあったりだの、実感のなかった異世界感が、今になって急に加速してきてトキメキが止まらない。
正直異世界に対して薄れかけていた憧れが再生、むしろ上がってすらいる。
これで自分の意思で行けたなら良かったんだが……。
詮のない愚痴を心の中で消化していると、ラードが思わぬ提案をしてきた。
「そういえば、魔狩としての登録はもうすませたのか?未だならば、今してしまうといい。成績によっては、後援者になれるかもしれない」
「ラード、いいの?」
「成績によっては、と言っただろう。有望な後輩に恩を売っておくのも悪くない」
ラードは腕を組んで俺の方を見る。
「まぁ、後援者に関しては考えるとしても、保証人ぐらいにはなってやる。助けた好みだ。登録の仕方はわかるか?」
保証人ってことは、つまり俺を信用して、ちゃんとした人物だと魔狩協会に紹介するということだよな。
正直すごくありがたい。
「でも……いいんですか?」
「記憶喪失なんでしょ?」
フェルはにっこり微笑んで、俺の方を見た。
その様子が魅力的で、俺は一瞬たじろいだ。
「ラードがいいなら、私はいいよぉ」
「私も、最初から保証人になってあげるつもりだったわ。やっぱり、冒険に行くには後押しがいるでしょ?」
俺はそこまで聞いて、思わず声をあげた。
「なんでそこまでしてくれるんですか?」
俺は失礼だとわかっていても、思わず聞いてしまう。だって、俺なら盗賊に襲われている時点で見てみぬふりをするだろう。
弱いというのも理由の一つだが、主な理由は多分それじゃない。
だからこそ、彼らが俺によくしてくれる理由が分からなかった。善意を疑うわけではない。ただ……
「君が困っていたからだ」
「ラードが助けるって言ったからかなぁ?」
「私は、命を見捨てる選択をとって、後悔したくなかったし、後悔したく無いから……かな」
俺は、彼らの言葉に心を打たれる。
どうしようもなかった俺を、ただその善意で救ってくれた彼らを、ただの命の恩人として思うことはもうできなかった。
神様が何を考えて俺をここに飛ばしたのかはわからない。
けれど、俺は彼らに出会えて、変われる気がする。この世界で、1からやり直してみせる。そう決意を抱くのにもはや、なんの疑問もなかった。
「後は……」
「?」
フェルは、さらに続けた。
「『冒険とは衝動だ』……ってね。ロザンの言葉だよ。衝動に駆られた青年を、応援するのに理由がいる?」
他の二人を見ると、満足そうにこちらをみて微笑んでいた。
俺はこの世界に来てたった4日で、一体何人に感謝すればいいんだろう。
ラード、フェル、マヤ、ロウェ、今は亡きロザン。
きっと、これからも感謝するだろう。
それを食いつぶして留まるのではなく、それを糧に進む方法を俺は見つけたから。
補足です。
魔狩に関してですが、呼び方は「ハンター」と「魔狩」どちらでも間違いではないです。違いをつけるならば俗称が「ハンター」で正式名称が「魔狩」でしょうか。
「ギルド」と「協会」も何ら違いはありません。
基本的に本作では魔狩の呼び方で統一しますが、作中でハンターやハンターギルドと呼称する人物が出てきたり、もしくは作者が間違ってハンターと地の文で書いてしまう可能性がありますが、そんな時は「ああ、そういうもんか」と思うか感想にて「オイここハンターって書いとるけど地の文やんけ」と突っ込んでいただければ「関西弁でありがとうございます。わたくし京都出身ですがおおきにと言ったことはございません。地域差でございます」などと返させていただきますので、ぜひそのようにお願いします。
一文が長いのは癖です、許せ。
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