作戦は大事です
《15:05》
コンタクトをつけた俺は視界の左上にある時計を見て、づいぶんと長話をしていたことを知った。だいたい1時間くらいか?ともかく早くインしよう。
✧✧✧
「っと、きたか。」
ほどなくして俺は赤色大地に戻ってきた。相も変わらず真っ赤だ。目に悪そうだし、折角ここより北にランドール帝国があることが分かったのだから、早いところおさらばするべきだろう。
とは言っても今帝国に行ったら、和也が言っていたようにろくにレベルアップ出来ないかもしれない。なのでもう少しだけ経験値を稼いでから移動しようと思う。というのも、今までポップしてきた魔物は赤ウリ坊のみなので、ここら一帯はこいつらの縄張りみたいなものだと俺は思っているのだ。
そして赤ウリ坊はレベルアップしていない初期ステータスの俺でも、時間はそれなりにかったが問題なく倒せた。という事は、レベルアップした今の俺ならもっと早く安全に倒せる筈である。加えて、和也から聞いた情報によればスライムで得られるEXPは1。これをかんがみると、赤ウリ坊は経験値稼ぎに向いていると考えられる。
以上の点より、俺はもうちょっとだけここに居ることにした。
というわけで、赤ウリ坊のついでにまだ行っていないところを探索しながら探すことにした。
マップを開いてみると、さっき一直線に突き進んだところだけ表示されている。そして何気にマップの右っぱしにコンパスが付いている。これを見る限り、俺は南に進んできたらしい。奇しくもランドール帝国と真反対に行っていたことに、若干項垂れてしまう。なんでや…なんではんたいなんや…
「とりあえず、西の方に進むか」
西、マップで言うと左に進んで、ある程度行ったら北に向かう。そして帝国を目指そうと思う。
…ちなみになぜ西なのかと言うと直感でしかないのだが、
あえて言うなら「海があるから」だ。
方針も決まったので赤ウリ坊を探していたのだが、なかなか出てこなかった。それでも根気よく探してやっと見つけた。
「3匹固まってる…」
俺が次に見つけた赤ウリ坊達は、たまたまなのか習性なのか、3匹で固まっていた。こちらは大きめの岩に隠れて様子を伺っているため、向こうに気づかれた様子はなかった。そのまま暫しの間観察してみると、赤ウリ坊達は地面に鼻を近ずけてフガフガし始めた。そしてそのままフガフガし続けてる。
フガフガ…フガフガ…フガフガ…フガフガ………
「何やってるんだ?草を食べてるわけでもないし…」
赤ウリ坊達がフガフガっているが、それ以上何する訳でもない。ただひたすらに地面に鼻を近ずけ、時折顔をフリフリ、フリフリ…鼻をフガフガ、フガフガ…
「…………………可愛いな……」
ハッ!
危ない危ない。ついぼーっとしてしまった。…いやさぁ、顔を振ったり鼻をフガフガさせたりしてるの、意外と愛嬌があって、すこーしだけ小動物を見てる気分になっちゃったよ。庇護欲は出ないし、小さくもないんだけどね。こう、ぽやぽやした感じになる。
……魔物にこんな気分になるなんて、もしかして奴ら“魅了”のスキルでも持ってるんじゃないか?
「いや、ないな。」
湧き上がってきた疑問を速攻でかき消す。
ともかく、あいつらの観察は終わりにして倒す算段をつけよう。まず、これまでの戦闘で赤ウリ坊について分かっていることは、恐らく鼻が弱点であること。これはこれまで倒した3匹の内、鼻を潰した個体だけそのあとの動きが鈍っていた事から推察した。この時気をつけるのが、ちょっとへこませたり、半分潰したりしたくらいでは意味が無いこと。しっかり完全に、全て潰しきることが大事だ。俺はこれを知らなくて油断した瞬間に突進されて、一度死にかけている。
ちなみに鼻が潰しきってあるかないかは意外と簡単に判別できて、完全に潰しきると赤ウリ坊が甲高い声をあげるのだ。
次に、赤ウリ坊の攻撃手段は“突進”と“ファイアボール(仮)”があること。その他の攻撃は今のところ確認されていない。
こんなところだろうか?
そして俺のジョブは拳闘士なので接近しないことには話にならない。
これらを考えた上で、かるーく作戦を立てておく。
さぁ、準備は出来た。初めての一対多の戦闘。行ってみよう!
✧✧✧
まず初めに動いたのは俺…ではなく赤ウリ坊達だった。俺が岩から顔を出したのと同時にアイツらがこっちを向いたのだ。
想定外も想定外。なぜ分かったのかが知りたいが、バレてしまった以上後には引けない。戦闘開始だ。
実は作戦の第1段階は、赤ウリ坊達が地面に鼻を近ずけているうちに岩から飛び出し、そのまま奇襲をしかけあわよくば3体の内1体の鼻を潰すつもりだったのだが、さっそくその作戦が潰れてしまった。
…ここからどうしたもんかね?