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第六話

 村に着く頃にはだいぶ息が上がっていた。人目のないところでゆっくりと深呼吸し、おずおずとロベルの家の畑へと歩き出す。

 走って早くなった鼓動とは違う意味で早くなる鼓動。マルコにはあんな大口叩いて出てきたけど緊張で吐きそう。


「こんにちは」

「あら、アンナちゃん。こんにちは」


 ロベルの家にひょこっと顔を出せば、食事の用意をしているロベルの母がいた。どうやらもうお昼時になっていたらしい。


「ちょっとだけロベル借りてもいいですか?」

「いいわよー。ロベルなら畑にいるわ」

「ありがとうございます」


 やっぱり畑にいる。畑に一歩近づくにつれ、心臓の音がうるさくなる。このままだとロベルに会ったら私の心臓は胸を突き破って出てきてしまうんじゃなかろうか。

 そんなくだらない不安を覚えていると、丸まった大きな背中が見えた。どうやら今はキャベツを籠に入れているらしい。


 よし、頑張れ私!


「ロベル!」

「ん?…おーアンナ。おはよう。もうこんにちはか?」

「お昼時だからこんにちはだね。…この後なんか用事ある?」

「いやー特にないよ」

「そんなに長くかからないから、お昼前で悪いけどちょっと付き合って」

「おーいいよ。あ、アンナこれ運ぶの手伝って」

「しょうがないなー。まぁ少し付き合ってもらうしその分手伝ってあげましょう」

「ちょっと恩着せがましいな」

「うわ、マルコみたいなこと言わないでよ」


 よかった、昨日のことなんてなかったみたいに普通に話せてる。

 ロベルにバレないように小さく息を吐き、キャベツが入った籠を小屋まで運んだ。他にも色々野菜を収穫しては小屋に運び、一息ついたところで手を洗う。


 手を洗っているときにもう治った小さな傷を思い出す。針で刺してしまったその小さな傷を撫でたロベルをふいに思い出し、体温の上昇を感じて意味もなく強めに手を洗った。


「そんなに手、汚れた?」

「そうみたい!」

「顔赤いけど、もしかして日に当たりすぎたかな。最近日差しが少しずつ強くなってたしなぁ。気付かなくてごめん」

「全然大丈夫!」


 顔が赤いのは別の要因があるから!


 洗い終えた手をゴシゴシと手拭いで拭き、気持ちを落ち着かせる。今からこの調子で果たして私は告白なんて出来るのだろうか。

 いや、してみせる!弱気になってはいけない!


 送り出してくれたマルコの顔を思い出し、瓦解しかけた決意を固めてロベルの方を勢い良く向いた。


「ロベル!終わったしこれからいいですか!」

「はいはい、いいですよ。てか勢い凄いな。なんか大事な用事?」

「そ、そんな感じ」

「なるほどね。じゃあ行きますか…ってそういえばどこ行くの?」


 待って何も考えてなかった。

 頭を必死に働かせていると、昔よく三人で遊びに行った村の近くの小さな森を思い出す。そこに綺麗な花畑があって、私はそこが昔からお気に入りの場所だった。

 森に入る人は少ないから、あの場所はあまり知られていないはず。ということは滅多に人が来ない。

 …ここだ、ここにしよう!


「あの、その…は、花畑に…」

「ああ、あそこね。そんなに遠くないし、別にいいよ。サーラに花束でもあげるの?」

「そ、そんなとこよ…」

「四日後には結婚だもんね。…でも四日後だと花枯れない?」

「今日は当日渡す花束のお花を決めようと思ってます…」

「あそこ色んな花咲いてたもんね。じゃあ行こう」

「うん」


 なんかよく分かんないけど、ロベルの方から色々言ってくれて助かった。言葉に詰まってたら怪しまれてついて来てくれなかったかもしれないし、命拾いしたわ。




 畑から離れて森へ向かう。ロベルといつもと変わらない距離感で歩いているはずなのに、ドキドキして落ち着かない。

 私は今までどんな風にロベルの隣を歩いていたんだっけ。


 そんなことを考えているとあっという間に森の中にある花畑に着いてしまった。どうしよう、どんな感じで切り出すとかそういうの何も考えてなかったよ。ぶっつけ本番だよ…さっき迄の私は何をしていたんだ!


「おー色々咲いてますな」

「春だし、ね…」

「とりあえずこの辺の花見てみようか」

「はい…」


 花畑には何種類かの花が咲き乱れ、風に揺られて広がる花の香りが私たち二人を包み込む。


「良い香り」

「花の香りって落ち着くよね」

「うん。だからここ好きなのよ」


 特に春先はぽかぽかと暖かいので、昔はよくここで遊び疲れて花の香りに包まれながら眠ったなぁ。そして姉に揺り起こされるのがとても好きだった。


「お花、どれにする?」

「んー悩む」


 どれも素敵で決めかねる。花畑を見回していると、ふと飛び立つ蝶のような花びらを見つけた。これはスイートピーだ。


「これにしようかな」

「いいんじゃないか?サーラ好きそう」

「うん、これに決まり!」

「よしよし、決まったようで何よりです。…それで本当の用事は何だったの?」

「えっ」

「お花選ぶだけじゃないでしょ?それだけで俺のこと用事に誘うとは思えないんだけど」


 バレてる。バレてた上で私の誘いにのってくれていらっしゃった…。

 私はあれかな、幼馴染には隠し事ができない星の元に生まれたのかな?



 …もし告白したら、今までみたいな関係ではいられなくなるかもしれない。ロベルは優しいから前と同じように接してくれるかもしれないけど、私が今までのようにはいられない。

 でも一度失恋したマルコに、私は前みたいに接することができている。ならロベルに振られたって、いつかきっとできるはずだ。

 だから怖がっちゃダメよ、私。臆病な私は引っ込めて、勇気を出して伝えよう。


 大丈夫。もし玉砕してもマルコが慰めてくれるし、冗談だろうけど嫁にもらってくれるらしいから。

 女は度胸よ、頑張れ私!


「ロベルに…伝えたいことが、あります」

「ほうほう、なんでしょか」

「ずっと怖くて言えなかったけど、言います」

「うん」


 最初はいつもの調子で答えていたロベルに私の緊張が移ったらしく、ロベルは真剣な顔をして真っ直ぐに私を見ている。


 マルコには想いを伝えることはできなかった。今はもう吹っ切れたけど、気持ちを伝えなかったことを後悔していないとは言い切れない。

 でも私の選択の結果は今で、私はきちんと失恋をして新しい恋をした。私はそれでよかったと思っている。


 ロベルの焦げ茶の目を見つめると身体がカァっと熱くなった。ロベルに恋するまではなんとも思ってなかったはずなのに、今はこの茶色い瞳がどんな宝石よりも美しく見える。

 最初はこの人の優しさに救われて、そして頑張っていた私を見ていてくれたこの人に恋をした。


「私ね…ロベルが好き」


 どうしようもないくらい、好きなの。

 そう言えばロベルの目は大きく見開かれ、思ってもいなかったことを言われたという表情をしていた。


「ロベルに好きな人がいるのは知ってる。それでも私、やっぱりロベルが好きなの。どうか、私の恋人になってくれませんかっ!」


 我ながら凄く大胆な告白だと思う。でも素直な気持ち伝えるのが一番いいと思ったから、直球で気持ちを伝えた。そうでもしないとロベルにあーだこーだと言われてはぐらかされそうな気がしたから。


 返事が返ってくるよりも早くぎゅっと目を瞑った。怖くてロベルの顔が見れない。

 心臓の音はずっとうるさいし、顔は多分食べ頃の林檎よりも真っ赤になってる。恥ずかしくて今すぐ逃げ出したい気分だけど、そんなことしたらマルコに怒られそうだから逃げ出さないように足を踏ん張った。

 絶対この告白の結末を伝えるとき、マルコに褒賞を要求しよう。私頑張ったんだから。


 一分にも満たない時間だったと思う。でも昨日街からロベルと帰った帰り道よりも長く感じたそれは、私の頭の上に置かれた手によって終わりを告げた。

 何故頭に手を乗せられているのか分からず片目だけそっと開くと…泣き笑いみたいな顔をしたロベルが目に映った。


「……ロベル?」

「…うりゃ」

「ぎゃー!」


 頭をわしゃわしゃと撫でられて髪の毛がボサボサになる。なんなの突然、何が起こったの。


「ちょっとロベル何するの!」

「溢れんばかりの喜びを表現してる」

「は?意味分かんな…え、喜び?」


 ん?聞き間違いかな?


「…俺もアンナが好き」

「………おかしいな、聞き間違いかな?ロベルには好きな人がいたはず」

「ちょっと、なんでちゃんと言ったのに聞き間違いとか言うの。俺の好きな人、アンナなんだってば」


 だって、そんなこと。

 そんな様子、小麦一粒ほどもなかったじゃない。


「……まさか」

「そのまさかなんだけど」

「い、いつから…?」

「んー……マルコがサーラを好きになるのと同じくらい?」

「だいぶ前じゃない!私全然気付かなかった…」

「はは、そりゃよかった。気付かれないようにしてたから」

「なんで?」

「無自覚だったと思うけど、アンナはマルコのことあの頃から好きだったから」

「え?私マルコのこと好きになったのは数年前から…」


 そこまで言いかけて、そういえば姉にばかり話しかけるマルコを面白くないと思っていたことを思い出す。そのときは私に構ってくれないからだと思ってたけど…確かに、あの頃から私はマルコを気にかけていたように思う。

 それが好きだからかは、やっぱり分からないけど。


「思い当たることあるでしょ?」

「…まぁ、なくはない」

「だから俺はアンナの気持ちに気付いたとき、自分の気持ちを隠そうと思った。そしてアンナの恋を応援しようと思ったんだ」


 そう懐かしそうに語るロベルの目は少し切なげで、きゅっと心臓が締め付けられるように痛くなる。


「俺は確かにアンナが好きだったけどさ。アンナが幸せになるならそれでよかったんだ。俺の気持ちなんて知らずに、自分の幸せを追い求めて欲しかった。だからアンナの恋を見守ることにしたんだ」


 とてもロベルらしい考え方だと思った。

 ロベルはいつも人のことばっかりで、あまり自分のことを優先しない。

 それが少しだけ腹立たしい。


「…でもマルコはずっとサーラが好きで、気持ちを自覚してからのアンナはそれを見て辛そうだった。俺はアンナの恋を応援してたけど、でも別にマルコに失恋して欲しい訳じゃない。どっちも大切な幼馴染だし、できることならどちらも幸せになってほしかった」


 柔らかな笑顔で語るロベルの顔を見れば、それが紛れもない本心だって分かる。

 なんでこの人はこうも…他者ばかり優先するのか。


「でも全てが丸く収まるなんてことはなくて、マルコもアンナも恋破れた。俺は見守るっていっても本当に見ているだけで、二人に何もしてやれなかった。マルコが歳の差を埋めたくて必死に背伸びしてるのも、アンナがサーラみたいになって自分を見て欲しいのも、全部知ってたのに」


 だからロベルは知っていたんだ。

 マルコに好かれたくて頑張って自分を変えようとした私を。


「……だからアンナとマルコの仲直りに協力したのは、罪滅ぼしみたいなものだったのかもしれない。もちろん幼馴染だし、早く仲直りしてほしかったって気持ちもあった。でもそれよりも、やっぱり見ていることしかできなかった自分の不甲斐なさを許せなかったんだ」


 抱え込んでいたものを吐露したロベルは辛そうな顔をしている。そんな顔をする必要なんて全然ないのに。


「ねぇロベル。一つだけ聞いていい?」

「何?」

「なんで私がジュースを飲むのにたまには付き合ってよって言ったとき、ロベルは乗り気じゃなかったの?」

「……それ、言わなきゃダメ?」

「ダメ」

「…マルコがサーラを諦めてデートしてた女性たちと関係を清算したら、アンナはマルコと良い仲になるのだと思ってた」


 ………ん?


「アンナはマルコを好きになるのをやめるって言ってたけど、あんな風に自分を変えてしまえるほどに好きだったから、口ではそう言っても心の奥底では諦め切れてはいないだろうって思ってた」


 …案外早くに諦められたよ。誰かさんのおかげで。


「多分サーラのことをマルコが吹っ切れて、そしてアンナがマルコに告白したらマルコはそれを受け入れると思う」

「いや、それはどうですかね…?」

「俺の見立てでは間違いないと思う。マルコはサーラを好きだったけど、なんだかんだ一緒にいて一番楽しそうなのはアンナといるときだから」


 そんなことある?

 まぁ確かに村の女子の中では私がマルコと一番仲が良いとは自分でも思ってるけども。


「だから俺はアンナと少し距離をとって、それでマルコとのことをまた応援しようと思ってたんだ」


 ロベルの中ではどうやら私の初恋はまだ終わりを迎えていなかったらしい。だからあんな風に、街に二人で行くことを遠回しに拒否されたのか。

 私が何かしたとか、嫌いになったからではなかったんだ。


「…私、マルコのことはもうそういう意味では好きじゃないよ」

「……そう、みたいだね」


 赤くなる顔が凄く可愛い。


「…アンナはいつ、俺のこと好きになってくれたの?」

「んーそうだなぁ…」


 ロベルの優しさに救われてから、少しずつ少しずつ好きになったけど。

 何よりも大きかったのは。


「マルコに好きになってもらいたくて変わろうと努力してた過去の私の為に、泣いてくれたときかな」


 そう言えば、ロベルはでっかい溜息を大袈裟に吐き出してへなへなとしゃがみ込み、大きな体を小さくしている。


「そういうの、ずるいと思うね俺は」

「何がですかね」

「…俺もっと好きになっちゃうじゃん」

「もっと好きになってよ。私ももっとロベルのこと好きになるから」

「………アンナさんは俺のことどうしたいんですかね」

「恋人にしたいですね。返事は?」

「…よろしく、お願いします」

「こちらこそ」


 恥ずかしいのか顔を上げないロベルは、それでも耳が赤くなっているので照れているのが分かる。

 私の想いを伝えてこんな風になっちゃうロベルが、たまらなく愛おしく思えた。


 勇気を出して告白して本当に良かった。

 マルコに褒賞を要求しようと思ってたけど、むしろ私がマルコに感謝の気持ちを込めて褒賞を出さなきゃだなぁ。


「マルコに今度街にでも行ったとき、美味しいものを奢ってあげよう」

「なんで?」

「告白してこいって送り出してくれたの、マルコなの」


 ガバっと凄い勢いで顔を上げたロベルは信じられないという顔をしている。


「…ほんとにマルコが?」

「うん、そうだよ?」


 何度か瞬いた後、大きく息を吐いたロベルはゆっくりと立ち上がる。


「……良い幼馴染を持ったなぁ」

「だね」

「…サーラに送る花も決まったし、帰る?」

「もう用事もないし、そだね」


 すっと手を差し出してみると、ロベルは挙動不審になった。え?どこにそんな風になる要素ある?


「…ちょっと、なんで握り返してくれないの」

「え、いや、だって…」

「せっかくだし、ちょっとの間だけど手を繋ごうよ。昔みたいに」

「お、おー…」


 恐る恐る握られる手をぎゅっと握れば、ロベルもしっかりと握り返してくれた。

 手を繋いで歩いているけど二人の間に会話はない。というのもロベルが緊張し過ぎてガチガチになっているのが手から伝わってくるからだ。

 元お兄ちゃんのピンチだ。ここは私がお姉さんになってあげよう。


「緊張し過ぎじゃない?」

「いやだってさ…」

「私が本格的に失恋した日も、こうして手を繋いでくれたじゃん」

「あれは…こういう感じじゃなかったし…」

「まー確かにね。あれは慰めの手繋ぎでしたわ」

「なんだそれ」

「元気のないちょっとセンチメンタルな私を励ます為に繋いでくれたってこと」

「いやまぁそうなんだけど…」


 握られた二人の手の間には汗が流れてる。これは果たしてロベルのものか、私のものか。もしかしたら両方かも。


「元お兄ちゃんが今日は頼りないから今日だけ、私がお姉さんになってあげましょう」

「なんだそりゃ」

「私はお姉さんだから今日はこれでいいよってこと」

「どういうこと?」

「手」

「手?」

「次は恋人繋ぎね」


 そう言えば予想通りロベルは顔を真っ赤にした。

 こんなにわかりやすいのに、ずっと私を想って自分の気持ちを隠していたなんて。

 どうしてもっと早くロベルのことを好きにならなかったんだろうって、思ってしまう。




 ロベルが限界を迎えそうだったので村に着く少し前に手を解き、いつもの距離で隣を歩いた。


「ご飯遅くなっちゃったよね、ごめん」

「いやもうほんと、お腹いっぱい胸いっぱいです…」

「ロベルの新たな一面が見れて面白かった」

「面白かったという感想は解せない」

「じゃあ訂正。これからもこんなロベルがいっぱい見れるんだと思うと、私も幸せでお腹いっぱい胸いっぱいです」

「……今日は本当にもう勘弁して。俺死にそう…」

「それは困るからやめといてあげます」

「…なんでそんな余裕なの、アンナは」


 余裕なんて全然ない。

 だって軽口でも叩いてないと今にもロベルに抱きついてしまいそうなくらいには、舞い上がってるんだから。


「えへへ、内緒」

「…俺こんな調子で今後持つかな」

「長い間私を想ってくれる程の忍耐力を持つロベルなら大丈夫でしょ」

「……全然大丈夫じゃなさそうだわ」


 こんなロベルの姿、初めて見た。私の言葉がロベルをこんな風にしていると思うとなんだか不思議。


「お昼前に呼び出してごめんね。じゃあごゆっくりー」

「おー。……明日、畑の手伝いに来てくれませんか」

「しょうがないなぁ。お駄賃に美味しい野菜を要求します」

「もちろん。また明日」

「うん、また明日ねー」


 赤い顔をしたままのロベルは熟れたトマトみたいで、ちょっとかじりついてみたくなる。

 そんなことをしたら怒られるし、多分ロベルは美味しくないのでやらないけど。


 手を振って別れ、自宅に向かう。


「…ふー、暑くなってきたなぁ」


 家に着く前にこの体の火照りが冷めればいい。だってこの熱は暑さによるものではないのだから。


「あー今日のお昼はお姉ちゃんが作るんだっけ」


 ロベルの家からもらった野菜が沢山あったから今日は野菜のスープかもしれない。

 花嫁修行として結婚が決まってから母に料理を叩き込まれている(元々料理はしていたけどレパートリーを急激に増やされている)姉は随分料理が上手になった。あれなら旦那さんの胃袋を掴んで離さないだろう。


「…マルコは平気かなぁ」


 私に勇気を出せと言って送り出してくれた幼馴染は、今も姉を好きなのではないだろうか。

 こんな一ヶ月程度の短い期間で忘れられるほどの恋、だったとは思えない。マルコはどんな顔をして姉の花嫁姿を見ることになるのだろう。


「……幸せに、なってほしいなぁ」


 どうか深い傷を負って少しグレてしまった時期もあった幼馴染が、幸せになりますように。

 そう願わずにはいられなかった。


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