ブラックアウト
息を浅く吸い込み痛みを抑え、爪でえぐるように襲いかかる。
翼を得たことにより空中線が可能となった。未知なる視界と動きに不安はあるが一方的に上から蹂躙されると言ったことがなくなったのは大きい。
「まったく、君たちもすでに限界を超えているだろうに、よくやるよ」
「うるせぇ!」
爪は剣で止められ、大きく背後に飛ばされるが、入れ替わるように二人が斬りかかる。
……やっぱり頭数が増えると戦略の幅が全然違う。特にあの二人は下手な合体者より強いからその差は顕著だ。
問題はそれでも結果的に灰沢さんたちの方が強いということだが。
一姫さんの二刀流も花奏の刀も、かすればいい方だ。加えて俺たち全員は満身創痍、調子こいて俺たちのステージとは言ったがかなり分が悪い。
負担を最小限に抑えつつも一気加勢に攻めるが、それでも後一歩が及ばない。
「なんで一人でこんなさばけんのよ!」
「復讐鬼だった人間が半端なわけないだろ!」
一姫さんの苛立ちに花奏が返す。
そうだとしてももっと弱くてもいいだろうに、現実は甘くはないということか。
虚をついた蹴りもいなされ、続け様に放つ爪、裏拳、回し蹴り、全てを紙一重で避けられる。しかもこれに加えて二人の攻撃を捌いてるのだ。
正直異常なんじゃないかとこの人、と思わずにはいられない。
(それに全員もう限界が近い。このままじゃ……)
「エグゼ!」
『了解!』
突風が吹き、俺たちをまとめて吹き飛ばす。
そして一姫さんたちの方が大きく後ろに飛ぶ。
そして、一つ考えが浮かんだ。
「一姫さん、花奏!」
「「!」」
名前だけしか呼ばなかったけど、二人にはきっと通じた。
二人はそれぞれの得物を俺の方まで投げ、最初にシンザンの足である刀を取ってブーメランのように回転を加えて投げた。
そして花奏の刀も掴んでさらに投擲。
(ほんの一秒にも満たない時間での連続投擲。しかしどれか一つでも俺に当たると思っているのか? だとしたら、甘い)
大きく距離を離し、花奏の刀は空を切りシンザンの刀も外れる。
それでもブーメランのように回転をかけた刀は、大きく円を描き再度背後から襲う。
そして、そんな子供騙しにひっかからないのも目に見えているんだよ。
背面の気配に気付いて西洋剣で叩き落とし、シンザンの足である刀は砕けた。
――これが最後の好機だ。
右手を構え、最後の狙いを決めた。
『いくぞ』
「セット!」
右の爪を、『射出』した。
二つの囮を使った一撃、最初からの狙いはこれだった。
呼んだだけで武器を貸して、察してくれた二人には感謝の念しかない。
「何!?」
爪が翼を直撃し、ダメージが入る。
ヒビが入った翼はコントロールを失い、制御しようとわずかばかりではあるが初めて灰沢さんに動揺が見られた、
『行くぞ剣ぃい!』
「っしゃあらぁあああ!!」
突貫、左の爪で背中に手痛い一撃を与える。
そして翼に手をかけ、全力で引きちぎりにいく。
「させ、るかぁあああああ!!」
『私の翼をもごうなぞ、やらせません!』
「お、ぉおおおおおおおおおおおおお!!!」
急激な加速、上昇。
身体が全身悲鳴を上げて、意識を手放せと訴えかける。
「全く君は馬鹿だな! ここまでして俺を倒そうとする意味があるのかい!?」
灰沢さんがひどく動揺した声で、叫ぶ。
意味なら、ある。
「と、めたい……あんた、が……これ以上罪を……重ねないた……」
最後まで言い切る前に、俺の口から血が吹き出し意識が遠のいていく。
『剣! し……り……ろ! 』
ゼロの言葉が全然聞こえず、俺の意識は闇に落ちた。




