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エヴォルダー  作者: 法相
暴く未知
37/41

EVOLUCION

ラストバトルに入る回になります。

 意識が朦朧としている。

 音だけは聞こえるけど、誰がなにを言っているのかもさっぱりだ。

 認識のズレがなければ今はまだ戦闘中のはずだ。

 身体を動かそうとするけれども、意思を裏切り身体は動かない。目も開いているはずなのに視界がまるでモヤがかかっているように効かない。

 全身もダメージがたまりすぎて、悲鳴を上げている。


 ――もういいんじゃないのか?


 頭の中で弱い自分がそう言っている。

 そもそも治りきっていない身体で、戦いをすることが無謀である。

 ましてや全部が全部相手が有利な状態だったり、格上だったりと散々な経験だ。

 治癒できたと思っていても蓄積されていたダメージはごまかせない。

 強がっていてはいても俺は凡人だ。才覚と鍛え上げてきた地力が全く違う一姫さんとシンザン、花奏と黒鉄のようにいくはずもない。

 でも……一番嫌なのはこのように言い訳がましく弱い考えをしている俺が一番嫌だ。

 エグゼは強いし、灰沢さんと合体しているのだからなおのこと強くなった。戦士としても相当の猛者であることはほんの瞬きの間でボコボコにされた俺が一番わかっている。

 合体したあのコンビは俺とゼロの反応速度を上回る動きで防御や隙を狙われ、止めに手痛い一撃をもらってこの様だ。

 誰かがクッションになってくれたのか、死が見えてもおかしくない一撃をもらって今なお俺は生きている。

 無理や無茶をして勝てる相手じゃないのはわかっている。

 それでも、と俺は自分に言い聞かせる。


『……ぎ! き……えて…………か!?』


 ゼロの声が聞こえる。

 そうだ、俺は一人じゃない。自分を嫌いな俺は確かに今も存在する。

 それでも、と何度でも俺は自分に言い聞かせよう。

 相手との戦力差は明白である。灰沢さんとエグゼに勝てないなんてことは俺自身が一番よくわかっている。

 俺は立ち上がらなければいけない。

 今こうしている間にもきっと一姫さんは戦っている。

 立ち上がれよ、俺。

 弱いから花奏を助けた時も奇襲だった。きっと真正面からでは勝てないと、弱い自分を知っていたから。

 花奏がいなくなった後は勝手に自己嫌悪して、自信がないのを他人のせいにして、腐っている自分に無性に腹が立って、でも向き合わなかった。

 だったら今向き合わなきゃいつ向き合うんだ。

 視界が少しだけモヤが晴れていく。


「ぜ……ろ……」

『剣! 生きてる、生きてるな! よかった!』


 途切れ途切れだったゼロの声も鮮明に聞こえ始めてくる。

 霞んだ視界の中で見れば、ゼロも大概にボロボロだった。爪もひび割れ、装甲が砕けている場所もある。


「状況、は……」

『今は一姫とシンザンが花奏と一緒に戦っている。お前ももう無理をするな、ここまでになるまで戦ったんだ。誰も文句は言わない、我が言わせない!』


 心底に俺を案じてくれているのだろう、最初に比べて言葉が伝わりやすくなった分感情もわかりやすくなった。

 でも、ごめん。その願いを無碍にすることを俺はする。


「俺たちも……やる、ぞ」

『馬鹿か!? 自分の傷を見て物を言え! 花奏が庇ってくれたとは言え重傷には違いないのだぞ!』


 そっか、花奏がクッションになってくれたのか。

 ちゃんとお礼を言わなきゃな……その上、今は一姫さんたちと一緒に戦ってくれている。

 敵同士だというのに、まったくお人好しだ。


『それに戦闘は空中戦になっている。我らでは足手まといだぞ』

「いけるよ、俺とお前。それに一姫さん、花奏、シンザン、黒鉄がいるんだから」


 三対一、空中戦の方にも当てはある。


「頼む、付き合ってくれゼロ……」

『頑固者が! そうまで死に急ぐ理由はないだろう!!』

「死ぬ気は毛頭ない」


 痛覚にも慣れてきた。死ぬ一歩手前までの線を見極めることも今ならできる。


「俺を信じてくれ、ゼロ」


 わずかな間沈黙が流れる。


『……どんなに言っても聞く気はない、か』

「ごめんな」

『死んだら、許さんぞ』

「もちろん。一姫さんたちにも怒られるからな……」


 幸い、両手両足は折れていない。それでも肋骨の方は確実に逝ってしまってるだろうし、外傷も深い。

 乱れた呼吸を少しだけ整え、立ち上がる。


「行くぞ……ゼロ! 変……身ッ!!!」

『承知!』

 ゼロが俺の身に包まれていき、装甲へと変化していく。

 そのまま俺は走り、跳んだ。



『一姫ちゃん! 左右肩装甲、損傷甚大! 次食らったらもう無理だよ!』

『花奏、こっちも胸部装甲及び足の装甲大破! 生身に食らったらお陀仏だ!』


 二人の相棒から聞かされるのは苦しい戦況。

 対するエグゼと灰沢は余裕がまだ十分にあった。彼らのダメージらしいダメージといえばエグゼ単機で剣とゼロが与えたもののみだ。

 それにしてもよく食い下がる、と灰沢は素直に関心する。


(いつ強制分離するのかもわからない状態での空中戦。うまくダメージを流している。しかしそれももう時間の問題か)

『……志郎! 敵機がもう一機きます!』

「何?」


 想定外のエグゼからの報告。

 まともな戦力はもうこの二人以外いないはずであり、剣とゼロはすでに下したものと思っていた。


 ――ならば一体誰なのか?


 その考えに至った時、相手を視界に捉えた。

 一姫と花奏も動きを止め、背後を見やった。


 ――疾風が吹いた。


 一姫と花奏とすれ違い、猛禽類を思わせるような爪がエグゼと灰沢の翼をかすめた。


「……驚いた。まさかこれほどとは」

『想定外など想定内ですが……』


 灰沢は頬を緩め、エグゼも驚嘆していた。

 今一番上空にいるのは、剣とゼロだった。ただしその姿は普段のものではなく、シードラゴンズとの一戦のように姿を変えていた。

 その羽は白い鷹のようで、鈍い銀色の猛禽類の爪。しかしそれでいて獅子としての意匠を残す兜。


「ゼロ・ファルコ」


 花奏がポツリと呟き、それに「いいねぇ」と剣は答えた。


「その名前もらうぜ、花奏」

「アッハッハ! まったく君は飽きさせないねぇ、剣くん!」

「やかましい! さぁ行くぞゼロ、一姫さん、花奏、シンザン、黒鉄! ここからは俺たちのステージだ!」


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