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エヴォルダー  作者: 法相
暴く未知
33/41

追憶前

「始まりはね、十五年ほど前。私が二十六歳くらいの時だった」


 三人と三機が唖然とする中、灰沢は言葉をつぐむ。仮面越しには見えないが、その声はどこか悲しげであった。


「私は警察官ではあったけれど平凡な男だった。それでも高校の頃から付き合っていた妻との間にもできた娘がいて、幸せな生活をしていた。慎ましいけれど、本当に幸せだった。でもあっけなくその日常は、いとも簡単に踏みにじられた」


 言葉に怒気が込められた。


「ある日、私が家に帰ったら妻と娘は殺されていた。そして犯人はまだいた。獣のような姿をしているのに、鋼鉄製の外皮をまとっていた」


 それがエヴォルダー装着者だったというのは全員が想像するに難くなかった。

 しかしそれを知らなかった当時の灰沢は怒りに任せ、無策で無謀に飛びかかった。

 全力の拳はその固さに呆気なく皮膚が破れ、灰沢の骨にヒビをいれた。

 そしていともたやすく灰沢は小蝿を払われるかのように、無造作にふるわれた一撃で呆気なく吹き飛ばされた。

 壁を突き破り、全身の骨が多大な損傷を受けた。

 立ち上がろうとしても、気力だけでは起き上がれないほどの痛み。指をまともに動かすことすら困難だった。


「そして犯人は逃走、私は近隣住民が警察と救急車を呼んでくれたおかげで一命をとりとめた」

「……それだけ聞くとなんで灰沢さんが戦麗華なんて結成したのかわかんないんだけど」


 一姫の疑問はもっともである。

 ここまでの話では灰沢がエヴォルダー犯罪を憎むことはあっても、犯罪組織を作り上げることはない。


「そう急かすなよ。まぁ、そこから入院先でエヴォルダーの存在を知って、それから妻と娘の葬式をして警察から管理局に出向したわけさ。でもね……どこに行っても腐った人間っていうのはいるものさ」

『まぁ、早い話志郎の仇はこの管理局の人間というわけさ』


 補完するようにエグゼが一言添える。


「そう。私が管理局に入って数年経っても犯人の足取りはわからなかった。けれどね、独自で調査を続けたらこの管理局の支部長、つまりは所長が『俺』の仇と通じていることがわかった」


 灰沢の一人称が、変わった。

 けれどもこれでもまだ戦麗華を作る理由を見出せない、と一姫は考える。

 灰沢は有能な人間であり、また人望もある。この管理局の支部長程度ならば証拠を掴んでさらに上位の人間に告発し、芋づる式に犯人も捕まえることができたはずだ。

 そんな考えを見透かすように灰沢は続けた。


「たとえ証拠があったとしても、さらに上に繋がりがある場合握り潰される。実際、俺の世話をしてくれた当時の先輩も証拠ごと『潰された』。参ったよね、仮にも治安を守る側の俺たちが悪人の加担をしている上、それを告発しようとしてもなかったことにされる」


 絶望と憎しみ、それらを一緒くたにした声は深い闇を背負っていた。


「どうすればいい、どうすれば復讐を果たせるか。そう考えていた時だった」


 助けて、とか細い声だった。それを聞いた灰沢は声が聞こえる方向へ走り出した。

 そこで見つけ出したのがエグゼであった。素人目ながらかなり弱っていた。


「俺はそうしてエグゼと出会った。奇しくも俺がエヴォルダーとの適性があるとわかったのはこの時だったわけだね」

『私は志郎に助けられた。そして彼の話を聞いて、彼を手助けすることを決めた』


 そこからは非常にやることは簡単だった、と灰沢は言う。


「証拠はまた集め直す。エグゼとの戦闘力を高めるために自分を鍛えること、そして仲間を集めることを主目的にした」


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